QM ~量子生成~

なかむら 由羽

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戦禍足利

織姫の戦い③

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 駐車場には、車両は一台も駐車されていなかった。
 代わりに、本殿への通じる道をふさぐように何かがいる。
 まだ距離があるのと臨次が今までに見たことがないため、はっきりわからない。モドキなのはわかるが、あんなタイプは知らない。

「まさか、噂に聞いたことのあるサウルス型?」

 サウルス型。サイズは中型らしいのだが、そのパワー、狂暴性、タフさ、全てが大型に匹敵もしくは凌駕する性能を持っていて、戦った人が紙切れの如く食い散らかされていく様子を見たことがある。という話を聞いたことがあった。大きさは3メートルから4メートルくらいらしい。その大きさで巨大な顎を見せつけながら襲い掛かってくれば、恐怖で身体が竦む者も多いだろうと思う。Q.Mを持っていたとしても、本能的に逃げてしまうかもしれない。
 だが、そのサウルス型と比べたら、先にいるモドキは明らかに小さい。そのかわり、何か違和感がある。
 今までのモドキと何か、決定的に違うもののように感じる。
 臨次には、その違和感の正体がなんなのか、まだわからない。
 歩いてゆっくりと近づいて行くと、モドキがこちらに気付いたのかのそりと動いた。
 頭部の左右にある三角形の耳を動かしてこちらを認識すると、四肢を動かしてゆっくりと立ち上がる。色は黄色っぽいがややくすんでいる。四肢の爪には凶悪な鋭い爪がある。そして何よりも特徴的なのは、その大きな牙。上顎から伸びた大きな牙は30センチ近くある。
 臨次は、その姿形に近い生物を知っている。現代では既に絶滅しているが、その知名度は抜群に高い。 
 生息したのはおおよそヒトが生まれる遥か太古から1万年前迄。ひょっとしたら原始人類と獲物を取り合って争ったかもしれない。現代に生きたトラに近い外見を持つ、肉食獣。スミロドン。
 またの名を、サーベルタイガー。

「サーベルタイガー!?」

 スミロドンモドキは力強く地面を蹴り、一直線に駆け出した。
 臨次は左右のブレードを展開して迎え撃とうとした。が、スミロドンモドキは思っていたよりも早く臨次の間合いへと到達して、その鋭い爪を振り回してきた。
 身もふたもなくいえば、ダッシュ猫爪パンチである。
 それも、ただの猫爪パンチではない。爪による攻撃のあと、勢いのまま伸し掛かって牙の一撃を加えようと身体全体で襲い掛かっていて来ていた。
 真正面からの力勝負で勝てるわけがない。左腕ブレードを思い切り振って猫爪にかち合わせ、反動で距離を取る。地面に転がるがすぐに立ち上がって敵を見る。
 スミロドンモドキは臨次の咄嗟の行動に警戒したのか、すぐに追撃を仕掛けてくることはなかったが、睨み上げるようにしながら臨次の周囲をゆっくりと歩く。

「哺乳類型のモドキなんていたのか…」

 臨次が今までに戦ってきたのはほぼ全てが、恐竜がベースになる爬虫類型だ。一部、巨大昆虫型なんてのもいたが、一度か二度ほど。ひょっとしたら多くいるのかもしれないが、そんな話をできるQ.M使いが身近にいないのでわからない。
 それよりも、初めて戦う相手ということで、出方があまり想像できない。トラやライオンの狩りに似たものだろは思うが、対応が後手に回るのではかなりきつい。
 あまり時間をかけてこちらの対応を見られるよりは、短期で決着をつけるほうがいいかもしれない。
 右腕ブレードを構えると、左腕ブレードを前に出すようにして半身になって、スミロドンモドキを待つ体制になる。
 待つことしばし。臨次の口の中が緊張で乾いてきて、唾を飲み込む。
 スミロドンモドキが地面を蹴って低い体勢で突っ込んできた。そのままくるのか、途中で方向転換するのかわからない。僅か数秒で接触する程度の距離だが、長く感じる気がする。
 臨次は見た。
 スミロドンモドキの後ろ足が揃って地面を再度蹴り、臨次の半身で構えて前になっている左足に飛びかかってきた。両前足を突き出し、左足を抱き込もうとしているように見える。左足に照準を定めたようだ。
 このまま受ければ、左足を抱き込んで押し倒されて地面を転がり、下腹部にあの大きな牙を突き立てられるのだろうか。足にあの牙を突き立てるとは思えない。もっと狙いやすく効果の高い場所へ噛みつくだろう。
 つまり、受ける選択肢は無い。もともと、臨次のQ.Mは真正面から戦う装備ではないのだ。それが、この織姫神社ではそれを強制されている。だからといって、戦えないわけじゃない、不利なだけで弱いわけではないのだ。
 臨次は恐怖心を抑え込んで、スミロドンモドキへと向かって力強く踏み込んだ。
 相手も臨次へと向かってきている。踏み込めた距離は歩幅で一歩分。しかし、高速で動いたもの同士、僅かでも距離が狂えば攻撃は最大効果を発揮しない。
 広げられた両前足の間へ一瞬早く潜り込むと、左腕ブレードをスミロドンモドキの口の中へと真っすぐ突き刺す。そして、押し込まれる形でスミロドンモドキとぶつかり、その両前足が臨次の両足を抱え込んだ。
 そのまま背中から倒れ込み、一瞬呼吸が止まる。両足に爪が立てられ、Q.Mの表面を貫通して皮膚へと喰い込む。スミロドンモドキは口の中へ突き立てられた左腕ブレードを無視するかのように、その顎を大きく開けて臨次の腹部へと牙をむいてきた。しかし、ブレードがのどの奥まで突き刺さっていてなかなか噛みつけないことにもがいている。
 右腕を振り上げ、その頭へブレードを叩き込もうと振り下ろした瞬間、もがいていたスミロドンモドキが動いてずれた。そして、ブレードは足をがっちりと抱えていた左前脚の付け根付近へと振り下ろされた。
 ブレードは肩を切り裂いて左前脚を斬り進み、かなりの部分をそぎ落とした。
 生物であれば、今の攻撃で戦意を喪失もしくは逃走、痛みでのたうち回ったりするかもしれないが、モドキには痛覚がない。だが、攻撃を受けたという認識は持っている。
 スミロドンモドキは左前脚を拘束から外して前へと出し、右腕を抑え込んできた。
 想像以上に力が強く、腕を動かせない。

「はなせよ、このっ」

 もがくが、動かせない。
 一見膠着状態に見えるが、持久力と耐久力では臨次はモドキに比べるまでもなく及ばない。このままの状態が長く続けば、負けるのは必至だ。それを回避するには、どうにかして右腕を自由にしなければならない。
 ふと、左腕にかかる重圧が増した。
 見てみると、スミロドンモドキが後ろ足を踏ん張っており、臨次のほうへと体重をかけて圧を増していた。

『考えろ考えろ! 右手を抑えられたままじゃ俺に決めてがない! どうにかしてこの足をどかさないと!』

 しかし、臨次が取れる手段は限られている。
 左腕のブレードによる防御もしくは叩きつけ、右腕のブレードによる斬り付け。基本的にこの二つしかない。他の武器は一切無く、打撃もほとんど威力がない。
 小型モドキを殴打しても、怯ませることすらできない。
 つまり、右腕を拘束から解放しなければ道は絶対に開けない。
 スミロドンモドキからの圧力が一層強まった。このままでは、突っ張ることでなんとか耐えている左腕もいつまで持つかわからない。

『何か方法はないか!?』

 ふと、ある考えが浮かんだ。
 一歩間違えたら、スミロドンモドキの牙に自らの命を喰われるかもしれない。それに、命を自ら差し出すようなことになるかもしれない。

「それでも、このまま、よりはマシだな」

 他の手段が思い浮かぶとも限らない。今、出来ることをやるだけと自らに喝を入れた。
 臨次は拘束が緩くなった下半身の右足を力任せに引っこ抜く。その際に右前足の爪が引っかかりQ.Mの表面が抉られるが、肉まで到達しなければ問題ない。
 そして、引っこ抜いた右足をそのまま、スミロドンモドキの口の中へと突っ込んだ。そして、喉奥に足裏が当たる感触を確認した。右足を思い切り突っ張って、今度は突っ込んでいた左腕を引っこ抜く。そのまま、引っこ抜いた左腕ブレードを、右腕を押さえつけているスミロドンモドキの左前脚へと叩きつけた。
 不自然な体制のため、一撃で左前脚を弾くことは出来なかったが、位置をずらすことには成功した。今度は右腕を頭の方へと引っ張り上げる。爪が右腕の関節にガリっとあたって血が出る。それなりに痛いが、今は痛みを気にするよりも大事なことがある。
 一瞬だが痛みに気を取られたのが、まずかった。突っ張っていた右足がスミロドンモドキの圧力に押し負け、一気に膝元まで押されたのだ。この体制では足に力も満足に入らない。
 すると、スミロドンモドキが一旦顎を引いて右足を口の中から外してきた。そして、再度臨次の胸元目掛けてその顎をむき出しにしてきた。
 臨次は咄嗟に左腕ブレードを口に噛ませた。しかし、その大きな牙は胸元に僅かに突き刺さり、少しづつ深く差し込まれていっている。

「あああっ!」

 振り上げていた右腕ブレードをスミロドンモドキの頭部へと振り下ろす。ブレードは頭部の半分ほどまで切り込まれたが、スミロドンモドキは牙を突き立てる力を微塵も緩めはしない。
 牙がQ.Mの表面を貫通し、胸元へ突き刺さり始めたのを感じた。
 臨次は右腕ブレードを頭部から引っこ抜き、再度振り下ろした。体制が不十分なため、力が乗り切らないからか必殺の一撃にはならないが、何度も振り下ろしていると、スミロドンモドキからの圧力がふっと消え、横倒しに倒れ込んだ。
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