3 / 3
【完結】本来の姿に戻った侯爵令嬢は、約束の応えを返す
しおりを挟む
その後、ダニエルは王位継承権を第五位まで落とされ、彼が王位に就く可能性は限りなくゼロとなった。王の資質がないと判断されただけで、これといった悪事を働いていたわけではないので、この処遇が妥当だろう。
あのままダニエルがフレアを冤罪で話を進め、処罰を与える発言をしていたら、継承権剥奪までされていた可能性はあるが。
数日後。
マリアン伯爵家の庭で、フレアとシェリーはゆっくりと午後の時間を過ごしていた。
フレアとシェリーは幼馴染みで、姉妹のように仲が良かった。今回、シェリーはダニエルの査定に協力してくれていた。寧ろ、査定の話を聞き付けたシェリーは、「楽しそう!私に出来ることはある?」と率先して手伝いを申し出てきたのだ。
「それにしても、彼がシェリーを外交に連れていこうとした時はどうしようかと思いましたわ」
話の流れ的にシェリーが付いて行こうとしたとなっていたが、実際はダニエルが無理矢理シェリーを連れていこうとしていたのだ。
「大切なシェリーが、うっかり他国の秘密を知ってしまって面倒事に巻き込まれでもしたらと思うと……あの時は本当に、王子に腹が立ちましたわ」
「断るのがとてもとても大変だったんですよねぇ。遠回しに行きたくないって言っても「遠慮しなくても大丈夫だ」だし。はっきりと伝えても「俺が一緒だから問題ない」って聞いてくれないし」
王に途中経過を報告するときに、シェリーを外交に連れて行こうとしている事を伝えて、どうにか回避することが出来た。
「シャトーライン家の役割に貴女を巻き込んでしまって申し訳ないと思いましたが、協力して貰えて助かりましたわ」
「私は楽しくダニエル様のナルシストぶりを近くで観察出来たから良いの。まあ、時々笑いが込み上げてきそうになるのは困ったけど」
シェリーが、夜会で口元がひきつっていたのは、笑いを堪えていたからだった。
「それに、私とフレアの仲じゃない。お義姉様」
「お、お義姉様はまだ気が早いのではなくって?」
シェリーの言葉に、フレアは顔を赤らめる。
「そんな事ないわ。あ、ほら。お兄様が来たわ。ふふふっ、邪魔者は退散しなくちゃね」
シェリーは口元に手を当てニマニマと楽しそうに笑いながら、侍女と一緒にそそくさと去って行った。「待って」という隙もない素早さだった。
そしてシェリーと入れ代わりに、フレアに近付いて来る者がいた。
「フレア」
「クラウド様」
シェリーの兄で、マリアン伯爵家次期当主のクラウド・マリアンが、椅子に座るフレアの前に膝を着いた。
「無事にシャトーラインの任務が終わったんだね。お疲れ様」
「あ、ありがとう、ございます」
クラウドに手を優しく握られ、フレアはもじもじと挙動不審になる。普段は淑女の鑑のように、何事にも動じないフレアだが、昔からクラウドの前だけでは、冷静ではいられなかった。
そんなフレアの様子を、愛しそうに見つめながら、クラウドが尋ねる。
「僕との約束、覚えてる?」
一年前、ダニエルの査定を王家から依頼されたとき、フレアとクラウドは約束を交わした。
『シャトーラインの任務が終わったら、僕と結婚して欲しい。任務が終わったら、その返事を聞かせてくれないか』
フレアは、かぁっと頬を更に赤く染めながら頷く。
忘れるはずがない。
「今、返事を聞かせて貰っても良い?」
せっかちでごめんねとクラウドは微笑んでいるが、握られた手は少し震えていて、緊張しているのが伝わってきた。
(そんなの、返事ははじめから決まっているわ)
仮とはいえダニエルの婚約者となっていた一年間、クラウドと二人きりで会うことが出来なかった。任務のためだから仕方のない事だと、頭では理解していても、心の中ではずっとクラウドの事を想っていた。
「はい。私をクラウド様の妻にして下さい」
「ありがとう、フレア。嬉しいよ」
クラウドが蕩けるような笑みで、フレアを優しく抱き締めた。
「やりましたね、お兄様!うふふっ、これで、フレアは私のお義姉様ね!嬉しいわ。おめでとう二人とも!!」
去ったはずのシェリーが、生け垣の裏から現れ、満面の笑みでフレアとクラウドを祝福した。
あのままダニエルがフレアを冤罪で話を進め、処罰を与える発言をしていたら、継承権剥奪までされていた可能性はあるが。
数日後。
マリアン伯爵家の庭で、フレアとシェリーはゆっくりと午後の時間を過ごしていた。
フレアとシェリーは幼馴染みで、姉妹のように仲が良かった。今回、シェリーはダニエルの査定に協力してくれていた。寧ろ、査定の話を聞き付けたシェリーは、「楽しそう!私に出来ることはある?」と率先して手伝いを申し出てきたのだ。
「それにしても、彼がシェリーを外交に連れていこうとした時はどうしようかと思いましたわ」
話の流れ的にシェリーが付いて行こうとしたとなっていたが、実際はダニエルが無理矢理シェリーを連れていこうとしていたのだ。
「大切なシェリーが、うっかり他国の秘密を知ってしまって面倒事に巻き込まれでもしたらと思うと……あの時は本当に、王子に腹が立ちましたわ」
「断るのがとてもとても大変だったんですよねぇ。遠回しに行きたくないって言っても「遠慮しなくても大丈夫だ」だし。はっきりと伝えても「俺が一緒だから問題ない」って聞いてくれないし」
王に途中経過を報告するときに、シェリーを外交に連れて行こうとしている事を伝えて、どうにか回避することが出来た。
「シャトーライン家の役割に貴女を巻き込んでしまって申し訳ないと思いましたが、協力して貰えて助かりましたわ」
「私は楽しくダニエル様のナルシストぶりを近くで観察出来たから良いの。まあ、時々笑いが込み上げてきそうになるのは困ったけど」
シェリーが、夜会で口元がひきつっていたのは、笑いを堪えていたからだった。
「それに、私とフレアの仲じゃない。お義姉様」
「お、お義姉様はまだ気が早いのではなくって?」
シェリーの言葉に、フレアは顔を赤らめる。
「そんな事ないわ。あ、ほら。お兄様が来たわ。ふふふっ、邪魔者は退散しなくちゃね」
シェリーは口元に手を当てニマニマと楽しそうに笑いながら、侍女と一緒にそそくさと去って行った。「待って」という隙もない素早さだった。
そしてシェリーと入れ代わりに、フレアに近付いて来る者がいた。
「フレア」
「クラウド様」
シェリーの兄で、マリアン伯爵家次期当主のクラウド・マリアンが、椅子に座るフレアの前に膝を着いた。
「無事にシャトーラインの任務が終わったんだね。お疲れ様」
「あ、ありがとう、ございます」
クラウドに手を優しく握られ、フレアはもじもじと挙動不審になる。普段は淑女の鑑のように、何事にも動じないフレアだが、昔からクラウドの前だけでは、冷静ではいられなかった。
そんなフレアの様子を、愛しそうに見つめながら、クラウドが尋ねる。
「僕との約束、覚えてる?」
一年前、ダニエルの査定を王家から依頼されたとき、フレアとクラウドは約束を交わした。
『シャトーラインの任務が終わったら、僕と結婚して欲しい。任務が終わったら、その返事を聞かせてくれないか』
フレアは、かぁっと頬を更に赤く染めながら頷く。
忘れるはずがない。
「今、返事を聞かせて貰っても良い?」
せっかちでごめんねとクラウドは微笑んでいるが、握られた手は少し震えていて、緊張しているのが伝わってきた。
(そんなの、返事ははじめから決まっているわ)
仮とはいえダニエルの婚約者となっていた一年間、クラウドと二人きりで会うことが出来なかった。任務のためだから仕方のない事だと、頭では理解していても、心の中ではずっとクラウドの事を想っていた。
「はい。私をクラウド様の妻にして下さい」
「ありがとう、フレア。嬉しいよ」
クラウドが蕩けるような笑みで、フレアを優しく抱き締めた。
「やりましたね、お兄様!うふふっ、これで、フレアは私のお義姉様ね!嬉しいわ。おめでとう二人とも!!」
去ったはずのシェリーが、生け垣の裏から現れ、満面の笑みでフレアとクラウドを祝福した。
70
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜
万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです
ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」
高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。
王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。
婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。
「……理由を、お聞かせいただけますか」
「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる