【完結】森の中の白雪姫

佐倉穂波

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森の小さな食卓

 小さな木の家に、今日も朝がやってきました。

「うわああ! ベッドから落ちた! 誰が落としたのー!」

「寝ぼけて落ちたんでしょ!」

 寝ぐせのついた赤毛の小人が、頭をおさえながら大騒ぎしています。
 まわりの小人たちは、あきれたようにツッコミを入れています。
 家の中は今日もにぎやかです。
 それを笑いながら見つめるブランシュは、ふふっと小さく笑って、朝食の準備に戻りました。

 森の生活にも、少しずつ慣れてきました。

 不便なこともあるけれど、自分の手で火を起こし、食事を作り、暮らしを整えていく毎日は、新鮮でやりがいがあります。

「ほら、テーブル拭いたらスプーン並べてね、ロロ。昨日みたいに床に落とさないでね?」

「はーい、はーい! 今日はちゃんとやる!」

 ロロと呼ばれた小人は元気よく返事をしながら、スプーンを落としました。

 小人たちはみんな、それぞれ個性的です。
 おっちょこちょいのロロ。
 おっとり者のミミ。
 口うるさいけど世話焼きのムム。
 まじめなリリ。
 食いしん坊なナナ
 好奇心旺盛な双子のココとモモ。
 まるでにぎやかな弟妹が一気にできたみたいです。

 朝食を食べて、片付けが終わるとブランシュは、森の暮らしの記録をつけるため、スケッチブックと色鉛筆、それから植物図鑑を持って出かけました

 森の中にはたくさんの植物が生えています。
 今日も初めて見る花をみつけました。

 朝露に濡れたギザギザの葉っぱ、ほんのり甘い香りのする花──

「これは……きっと“キノネソウ”。甘い香り、先端の葉の形も図鑑と同じだわ」
 植物図鑑のページをパラパラめくって確かめます。
 それから、スケッチブックに色鉛筆で“キノネソウ”のイラストを描いていきます。

「それ、食べられる?」

 声がしたので振り返ると、ナナが首をかしげていた。

「ええ食べられるみたいだわ。だけど、たくさん食べるとお腹を壊しちゃうって書いてあるから、少しだけね」

「そうなんだ……少しだけしか食べられないんだ」
 食いしん坊なナナは残念そうにつぶやきます。

「他の食材と混ぜてサラダにすると良いって書いてるから、夕ご飯に“キノミソウ”入のサラダを作りましょうね」

 ブランシュは笑いながら、ナナの頭をなでます。
 ナナは嬉しそうに「うん!」と笑顔になりました。



 家に戻ると、ちょうどライが帰ってきたところでした。ライは朝早くから狩りに出かけていたのです。
 肩に鹿を担ぎ、軽やかに歩いています。

「今日は運がよかったよ」

「大きな鹿ね! すごいわ!! でもその足元、ぬかるみに落ちたのかしら?」
 ライの足はドロだらけになっています。
 それに、右足の靴が見当たりません。

「うん。片方の靴、泥沼の中に落としてきたみたい」

 ライはきまり悪気な顔になりました。
 狩りの腕はピカイチのライですが、それ以外は実は苦手なことが多かったりします。
 火を起こすのにはとても時間がかかるし、包丁の使い方は見ていてハラハラしてしまいます。
 洗濯も苦手みたいで、いつまでたっても泡だらけです。

「ライって実は生活能力ないわよね。狩ってきた動物を処理するのも苦手だもの」
 包丁使いのあやしいライに変わって、ブランシュが処理してます。

「ああ。いつも人にやらせてたから……」

「え?」

「いや……なんでもないよ」
 その目はどこか遠くを見ているようで、普段よりずっと大人びて見えました。

(……ライって、ただの狩人じゃないのかもしれない)

 そんな考えが、ブランシュの心によぎりました。

「ブランシュが来てくれて本当に助かってるんだ。お肉もさばけるだなんて思っていなかったけど」

 ブランシュはお城の調理人から野菜の切り方だけでなく、お肉や魚のさばき方も教えてもらったことがあるのです。



 その日の夕方、ブランシュは小人たちと一緒に森のハーブを煮込み、鹿肉のスープを作りました。
 ぐつぐつと煮込まれる香りに、みんなの鼻がぴくぴくと反応する。

「いいにおい~!」

「おかわりあるよね!?」

「“レストラン・ブランシュ”開店だー!」

 鹿肉のスープと木の実入りのパン、それからキノミソウ入りのサラダが今日の夕ごはんです。

 わいわいと笑う小人たちに囲まれて、ブランシュは自然と笑顔になります。
 テーブルに並ぶ、温かな食事。
 にぎやかな声と、満たされた胃袋。
 ここには、贅沢なドレスも金銀の食器もないけれど──

(……でも、こんなふうに、誰かのためにごはんを作って、一緒に食べられるなんて)

 ブランシュの心に、ぽっと温かい灯りがともりました。

 その夜。
 小人たちがすやすやと眠る中、ブランシュは小さな窓辺で月を見上げていました。

「王妃さまは、今ごろ何をしているのかしら」

 王妃さまの部屋の魔法の鏡。
 真紅のドレスと、淡い香水のにおい。

(……私のことなんて、もう忘れてしまったかしら)

 ブランシュは王妃さまに嫌われていると知ってからも、王妃さまのことを嫌いにはなれずにいました。
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