【完結】森の中の白雪姫

佐倉穂波

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 ある日の夕方。
 夕暮れの光が、木々の間から斜めに差し込んでいます。
 小さな家の中には、パンを焼く香ばしい香りが漂っていました。

 ブランシュは、昼間に摘んできたきのことハーブを刻んで、スープの鍋に入れます。
 小人たちは今、森の奥の泉へ水を汲みに行っているので、小さな家の中はとても静かです。

「ブランシュ──」

 不意に呼びかけられて振り返ると、ライが入口に立っていました。
 風に髪をなびかせ、いつになく険しい表情をしています。

「……どうかしたの?」

 普段と様子の違うライの顔つきに、ブランシュは
火から鍋を遠ざけ、ライに近づきます。

「その……今日、森の出口の近くで、ある女の人に会ったんだ」
 ライは言いにくそうにブランシュから目を反らせながらいいます。

「……女の人?」

「年は……三十代くらいかな。黒い髪のキレイな人だった。森に入るには場違いなほど上等な服をきた女の人だった」

 その特徴を聞いた瞬間、ブランシュの心がきゅっと縮こまります。
 思い当たるのは一人しかいません。

 ライは言葉を選びながら、続けます。

「その人が言うには──“この森の中に、ものすごく可愛い女の子がいるはずだから、探して追い出してくれ”って」

「……」
「……」
 静かな空気の中、火の中の木がパチパチっと音を立てます。

「……それって、たぶん……私のこと」

 ブランシュは、かすかに震える声で言いました。

「その人……たぶん、王妃さまだと思うの」

 ライが、少し驚いたように目を見開いた。

「王妃さま? もしかして君はーーお姫さま?」

 ブランシュは小さく頷きます。

「私……王妃さまに嫌われて、城を出たの」

 言いながら、胸の奥に押し込めていた感情が、にじむように溢れてきます。

「私、王妃さまに悪いことしたのかな? 追い出したいほど嫌われることしちゃったのかな?」

 ブランシュの視界が、にじみます。
 涙がぽろぽろと頬を伝い、エプロンの上に落ちました。

 ライが、ブランシュに近づきます。

「……こんな時、どんな言葉をかけたらいいのか、わからないけど」

 ぎこちないライの声。
 でも、そのぶん真剣さが伝わってきます。

「ただ、君が泣いてるのを見て、僕も苦しい。だから……」

 ふわりと、ブランシュの肩にライの手が触れます。
 そして、優しくブランシュを抱きしめてくれました。

「ここにいていいって、何度でも言いたい。誰かが出て行けって言っても、僕は、君にいてほしいって思ってる」

 それだけで、ブランシュの胸の奥がじんわりと温かくなりました。

 ブランシュは小さくうなずいて、そっとライの手に自分の手を重ねます。

「……ありがとう、ライ」

 二人の間に、静けさが流れます。
 でもその静けさは温かい気持ちで溢れていました。



 しばらくすると外から、小人たちの声が遠くから聞こえてきた。

「わーっ、水こぼした!」
「ロロ! それ三回目だよっ!」
「今日の夕ごはんはなんだろう」
「ブランシュのご飯はなんでも美味しいから楽しみだね!」
「ライももうすぐ帰って来るかな?」
「みんなそろって食べると、美味しいよね!」

 小人たちのにぎやかな会話に、ブランシュをライは顔を見合わせて笑顔になりました。

 いつもの、にぎやかな暮らし。
 王妃さまのことはブランシュの心に暗い影をおとしました。
 だけど、ブランシュの心にはその暗い影を灯す灯りが灯りました。

 それは、誰かに存在を受け止めてもらえた安心感。
 そして、少しずつ芽吹いていくライや小人たちとの信頼感でした。
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