5 / 9
涙
ある日の夕方。
夕暮れの光が、木々の間から斜めに差し込んでいます。
小さな家の中には、パンを焼く香ばしい香りが漂っていました。
ブランシュは、昼間に摘んできたきのことハーブを刻んで、スープの鍋に入れます。
小人たちは今、森の奥の泉へ水を汲みに行っているので、小さな家の中はとても静かです。
「ブランシュ──」
不意に呼びかけられて振り返ると、ライが入口に立っていました。
風に髪をなびかせ、いつになく険しい表情をしています。
「……どうかしたの?」
普段と様子の違うライの顔つきに、ブランシュは
火から鍋を遠ざけ、ライに近づきます。
「その……今日、森の出口の近くで、ある女の人に会ったんだ」
ライは言いにくそうにブランシュから目を反らせながらいいます。
「……女の人?」
「年は……三十代くらいかな。黒い髪のキレイな人だった。森に入るには場違いなほど上等な服をきた女の人だった」
その特徴を聞いた瞬間、ブランシュの心がきゅっと縮こまります。
思い当たるのは一人しかいません。
ライは言葉を選びながら、続けます。
「その人が言うには──“この森の中に、ものすごく可愛い女の子がいるはずだから、探して追い出してくれ”って」
「……」
「……」
静かな空気の中、火の中の木がパチパチっと音を立てます。
「……それって、たぶん……私のこと」
ブランシュは、かすかに震える声で言いました。
「その人……たぶん、王妃さまだと思うの」
ライが、少し驚いたように目を見開いた。
「王妃さま? もしかして君はーーお姫さま?」
ブランシュは小さく頷きます。
「私……王妃さまに嫌われて、城を出たの」
言いながら、胸の奥に押し込めていた感情が、にじむように溢れてきます。
「私、王妃さまに悪いことしたのかな? 追い出したいほど嫌われることしちゃったのかな?」
ブランシュの視界が、にじみます。
涙がぽろぽろと頬を伝い、エプロンの上に落ちました。
ライが、ブランシュに近づきます。
「……こんな時、どんな言葉をかけたらいいのか、わからないけど」
ぎこちないライの声。
でも、そのぶん真剣さが伝わってきます。
「ただ、君が泣いてるのを見て、僕も苦しい。だから……」
ふわりと、ブランシュの肩にライの手が触れます。
そして、優しくブランシュを抱きしめてくれました。
「ここにいていいって、何度でも言いたい。誰かが出て行けって言っても、僕は、君にいてほしいって思ってる」
それだけで、ブランシュの胸の奥がじんわりと温かくなりました。
ブランシュは小さくうなずいて、そっとライの手に自分の手を重ねます。
「……ありがとう、ライ」
二人の間に、静けさが流れます。
でもその静けさは温かい気持ちで溢れていました。
しばらくすると外から、小人たちの声が遠くから聞こえてきた。
「わーっ、水こぼした!」
「ロロ! それ三回目だよっ!」
「今日の夕ごはんはなんだろう」
「ブランシュのご飯はなんでも美味しいから楽しみだね!」
「ライももうすぐ帰って来るかな?」
「みんなそろって食べると、美味しいよね!」
小人たちのにぎやかな会話に、ブランシュをライは顔を見合わせて笑顔になりました。
いつもの、にぎやかな暮らし。
王妃さまのことはブランシュの心に暗い影をおとしました。
だけど、ブランシュの心にはその暗い影を灯す灯りが灯りました。
それは、誰かに存在を受け止めてもらえた安心感。
そして、少しずつ芽吹いていくライや小人たちとの信頼感でした。
夕暮れの光が、木々の間から斜めに差し込んでいます。
小さな家の中には、パンを焼く香ばしい香りが漂っていました。
ブランシュは、昼間に摘んできたきのことハーブを刻んで、スープの鍋に入れます。
小人たちは今、森の奥の泉へ水を汲みに行っているので、小さな家の中はとても静かです。
「ブランシュ──」
不意に呼びかけられて振り返ると、ライが入口に立っていました。
風に髪をなびかせ、いつになく険しい表情をしています。
「……どうかしたの?」
普段と様子の違うライの顔つきに、ブランシュは
火から鍋を遠ざけ、ライに近づきます。
「その……今日、森の出口の近くで、ある女の人に会ったんだ」
ライは言いにくそうにブランシュから目を反らせながらいいます。
「……女の人?」
「年は……三十代くらいかな。黒い髪のキレイな人だった。森に入るには場違いなほど上等な服をきた女の人だった」
その特徴を聞いた瞬間、ブランシュの心がきゅっと縮こまります。
思い当たるのは一人しかいません。
ライは言葉を選びながら、続けます。
「その人が言うには──“この森の中に、ものすごく可愛い女の子がいるはずだから、探して追い出してくれ”って」
「……」
「……」
静かな空気の中、火の中の木がパチパチっと音を立てます。
「……それって、たぶん……私のこと」
ブランシュは、かすかに震える声で言いました。
「その人……たぶん、王妃さまだと思うの」
ライが、少し驚いたように目を見開いた。
「王妃さま? もしかして君はーーお姫さま?」
ブランシュは小さく頷きます。
「私……王妃さまに嫌われて、城を出たの」
言いながら、胸の奥に押し込めていた感情が、にじむように溢れてきます。
「私、王妃さまに悪いことしたのかな? 追い出したいほど嫌われることしちゃったのかな?」
ブランシュの視界が、にじみます。
涙がぽろぽろと頬を伝い、エプロンの上に落ちました。
ライが、ブランシュに近づきます。
「……こんな時、どんな言葉をかけたらいいのか、わからないけど」
ぎこちないライの声。
でも、そのぶん真剣さが伝わってきます。
「ただ、君が泣いてるのを見て、僕も苦しい。だから……」
ふわりと、ブランシュの肩にライの手が触れます。
そして、優しくブランシュを抱きしめてくれました。
「ここにいていいって、何度でも言いたい。誰かが出て行けって言っても、僕は、君にいてほしいって思ってる」
それだけで、ブランシュの胸の奥がじんわりと温かくなりました。
ブランシュは小さくうなずいて、そっとライの手に自分の手を重ねます。
「……ありがとう、ライ」
二人の間に、静けさが流れます。
でもその静けさは温かい気持ちで溢れていました。
しばらくすると外から、小人たちの声が遠くから聞こえてきた。
「わーっ、水こぼした!」
「ロロ! それ三回目だよっ!」
「今日の夕ごはんはなんだろう」
「ブランシュのご飯はなんでも美味しいから楽しみだね!」
「ライももうすぐ帰って来るかな?」
「みんなそろって食べると、美味しいよね!」
小人たちのにぎやかな会話に、ブランシュをライは顔を見合わせて笑顔になりました。
いつもの、にぎやかな暮らし。
王妃さまのことはブランシュの心に暗い影をおとしました。
だけど、ブランシュの心にはその暗い影を灯す灯りが灯りました。
それは、誰かに存在を受け止めてもらえた安心感。
そして、少しずつ芽吹いていくライや小人たちとの信頼感でした。
あなたにおすすめの小説
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
ユリウスの絵の具
こうやさい
児童書・童話
昔、とある田舎の村の片隅に売れない画家の青年が妻とともに住んでいました。
ある日その妻が病で亡くなり、青年は精神を病んでしまいました。
確か大人向けの童話な感じを目指して書いた話。ガイドラインから児童書・童話カテゴリの異世界禁止は消えたけど、内容・表現が相応しいかといわれると……うん、微妙だよね、ぶっちゃけ保険でR付けたいくらいだし。ですます調をファンタジーだということに相変わらず違和感凄いのでこっちにしたけど……これ、悪質かねぇ? カテ変わってたり消えてたら察して下さい。なんで自分こんなにですます調ファンタジー駄目なんだろう? それでもですます調やめるくらいならカテゴリの方諦めるけど。
そして無意味に名前がついてる主人公。いやタイトルから出来た話なもので。けどそもそもなんでこんなタイトル浮かんだんだ? なんかユリウスって名前の絵に関係するキャラの話でも読んでたのか? その辺記憶がない。消えてたら察して下さい(二回目)。記憶力のなさがうらめしい。こういうの投稿前に自動で判別つくようにならないかなぁ。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成