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6 違和感の理由
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朝食を食べ終わり、「片付けは私が」と、皿洗いは鈴音が買って出た。
「じゃあ、お願いするね。それが終わったら仕事の話をしよう」
そう言って晴香は立ち上がると、店内にある観葉植物に水差しで水をあげ始めた。
鈴音は2人分の食器をトレイに乗せ、厨房へ向かう。昨日店に初めて来た時も思ったが、店の外観に対して、店内は綺麗である。というより、外観が何であんなにも古めかしいのかが疑問だ。
「このお店って1年くらい前から始めたって言ってましたよね…前からあった店舗を改装したとかですか?」
それなら外観がああでも不思議ではない。
「ん~?いや、新しく建てたんだよ」
観葉植物の葉っぱを触りながら晴香から返ってきたのは、予想外の言葉だった。では1年そこらで、あのような蔦の生い茂った外観になったということか。
「それにしては、えっと…」
「『それにしては、ボロイ』でしょ?確かに見た目、ボロボロだよね。店名も隠れてるし。ははは」
分かった上であの外観だったということか、晴香は笑っている。
「でも、あれワザとなんだよ」
「ワザと?」
「ここのお客さんが幽霊だって事は昨日説明したよね…さて、その中に普通の人間が来て、更に故人と知り合いだった場合どうなるでしょう?」
晴香は水差しをテーブルに置き、鈴音の方を向くと質問した。
「あ…」
確かに故人を知る人が来たら大騒ぎである。鈴音の表情を見て、晴香はニコッと悪戯っぽく笑った。 「というわけで、普通の人には入り難い外観にしてあるんだ。それに幽霊が実体化する術って、彼岸に近い状態になってみたいで、普通の人間は店に入るのを躊躇するんだ…本能的に“ここはおかしい”って思うんだろうね」
初めて店に来たときに感じた、あのおかしな感覚はそれが原因だったようだ。
皿洗いを終わらせ、テーブルに戻る。
「さてと、仕事の話って言ったけど…鈴音ちゃんはどんな仕事がしたい?」
仕事内容を選ばせてくれるようだ。
「えっと、料理以外なら何でも良いです」
人並みに料理は出来るが、昨日今日食べた晴香の料理のクオリティには遥かに及ばない。ファミレスでアルバイトをしたことがあるので、接客や皿洗いなら出来ると思った。
「じゃあ、接客の方をお願いするね。普通の喫茶店と変わらないから、大丈夫だと思う。あとは、話を聞いてあげて…あっ、たまにお悩み相談とかしてくる幽霊もいるなぁ。対応に困った時は僕が出るから言って」
幽霊のお悩み相談…どんなお悩み相談をされるのかドキドキである。
「お客さん、あまり来ないし、そんなに身構えなくても大丈夫だからね」
安心させるように晴香は優しく笑いながらそう言った。
「やってみます」
不安がないかと言われれば嘘になるが、何とかなる気がする。とにかくやってみなければ、分からない。
「あの、晴香さん」
鈴音は姿勢を正すと、まっすぐ晴香の目を見た。 「本当にありがとうございます。それから、よろしくお願いします」
そう言って鈴音は頭を下げた。晴香のおかげで、鈴音は路頭に迷わずにすんだのだ。感謝しても仕切れない。
一瞬目を丸くした晴香だったが、すぐに満面の笑みで「こちらこそ、これから宜しくね」と返してくれた。
「じゃあ、お願いするね。それが終わったら仕事の話をしよう」
そう言って晴香は立ち上がると、店内にある観葉植物に水差しで水をあげ始めた。
鈴音は2人分の食器をトレイに乗せ、厨房へ向かう。昨日店に初めて来た時も思ったが、店の外観に対して、店内は綺麗である。というより、外観が何であんなにも古めかしいのかが疑問だ。
「このお店って1年くらい前から始めたって言ってましたよね…前からあった店舗を改装したとかですか?」
それなら外観がああでも不思議ではない。
「ん~?いや、新しく建てたんだよ」
観葉植物の葉っぱを触りながら晴香から返ってきたのは、予想外の言葉だった。では1年そこらで、あのような蔦の生い茂った外観になったということか。
「それにしては、えっと…」
「『それにしては、ボロイ』でしょ?確かに見た目、ボロボロだよね。店名も隠れてるし。ははは」
分かった上であの外観だったということか、晴香は笑っている。
「でも、あれワザとなんだよ」
「ワザと?」
「ここのお客さんが幽霊だって事は昨日説明したよね…さて、その中に普通の人間が来て、更に故人と知り合いだった場合どうなるでしょう?」
晴香は水差しをテーブルに置き、鈴音の方を向くと質問した。
「あ…」
確かに故人を知る人が来たら大騒ぎである。鈴音の表情を見て、晴香はニコッと悪戯っぽく笑った。 「というわけで、普通の人には入り難い外観にしてあるんだ。それに幽霊が実体化する術って、彼岸に近い状態になってみたいで、普通の人間は店に入るのを躊躇するんだ…本能的に“ここはおかしい”って思うんだろうね」
初めて店に来たときに感じた、あのおかしな感覚はそれが原因だったようだ。
皿洗いを終わらせ、テーブルに戻る。
「さてと、仕事の話って言ったけど…鈴音ちゃんはどんな仕事がしたい?」
仕事内容を選ばせてくれるようだ。
「えっと、料理以外なら何でも良いです」
人並みに料理は出来るが、昨日今日食べた晴香の料理のクオリティには遥かに及ばない。ファミレスでアルバイトをしたことがあるので、接客や皿洗いなら出来ると思った。
「じゃあ、接客の方をお願いするね。普通の喫茶店と変わらないから、大丈夫だと思う。あとは、話を聞いてあげて…あっ、たまにお悩み相談とかしてくる幽霊もいるなぁ。対応に困った時は僕が出るから言って」
幽霊のお悩み相談…どんなお悩み相談をされるのかドキドキである。
「お客さん、あまり来ないし、そんなに身構えなくても大丈夫だからね」
安心させるように晴香は優しく笑いながらそう言った。
「やってみます」
不安がないかと言われれば嘘になるが、何とかなる気がする。とにかくやってみなければ、分からない。
「あの、晴香さん」
鈴音は姿勢を正すと、まっすぐ晴香の目を見た。 「本当にありがとうございます。それから、よろしくお願いします」
そう言って鈴音は頭を下げた。晴香のおかげで、鈴音は路頭に迷わずにすんだのだ。感謝しても仕切れない。
一瞬目を丸くした晴香だったが、すぐに満面の笑みで「こちらこそ、これから宜しくね」と返してくれた。
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