【完結】喫茶店【カモミール】〜幽霊専門の喫茶店に居候する事になりました~

佐倉穂波

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9 店名とハーブ

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 次の日から鈴音は、これまで通り高校へ通い始めた。実は今まで借りていたアパートよりも『カモミール』の方が二駅高校に近いため、朝の時間に余裕がある。しかも、朝食は晴香が既に起きて準備してくれている。
 ここ数日間、鈴音は晴香より早く起きて朝食の準備をしようと試みるが、いつも先を越されている。
 鈴音よりも遅くまで起きているようなのに、一体何時に起きているのか。晴香より早く起きて朝食を作るのが鈴音の密かな目標になっている。
 授業が終わった後は部活にも入っていないので、すぐに帰宅する。喫茶店を開店するのは不定期だと言っていた通り、客が来ない時は閉めていることもあるため、宿題をしたり、家事の手伝いをしたりして過ごしていた。
 というか、鈴音がアルバイトを始めて2週間で来た客は、小夜子だけである。
 小夜子は1・2日おきに訪れ、鈴音に生前の話や夫の近況などを話してくれていた。
「晴香さん、私ここに来てから小夜子さん以外のお客さん見てないです」 
 店は開店しているが、誰も来ない日曜日の午後。思わずボソッと晴香に向かって呟く。
「あはは、そうだね。前は何人か来てたんだけど、成仏してね。鈴音ちゃんが来るちょっと前から小夜子さんしか来てないね」
 軽い調子で返事が返ってきた。
 因みに晴香は今、ミシンで服を縫っている。鈴音にエプロンを縫ってくれているらしい。
(晴香さんに女子力で勝てる気がしない)
 料理は喫茶店の店長代理だけあって完璧、掃除洗濯もそつなくこなし、服まで作れるとは…完璧な主夫である。
 それに比べて鈴音は、料理は人並み、掃除は細かい所は苦手、ミシンは怖くて使えない。昔、マフラーを編んだ事があるが、編み始めと編み終わりで幅が違っていた…総括すると不器用である。自分のスペックの低さに溜息が出る。
「そういえば、店の名前カモミールなのに、ハーブティとかはないんですね」
 気分を変えるために、気になっていた事を質問する。メニュー表を見ても、ドリンクはコーヒーとソフトドリンクしかないし、店の中にハーブが置かれているとか、料理に特別にハーブが使用されているとかもない。
「ああ、店の名前ね…親父が「霊にも癒しを」って言って、花言葉とか調べて…一番しっくるくる名前を店名にしたみたいなんだ。料理は元々親父も俺も好きだったし、コーヒーの入れ方は知り合いに詳しい人がいて習ったんだけど、ハーブの事は分からなくってね。カモミールの花でも買ってきて植えようかなとかは考えたんだけど…ははは。そういえば、前に来てたお客さんからも「カモミールティはないの?」って聞かれた事あったなぁ」
 笑って誤魔化したが、カモミールを買ってきて植えようと考えたはしたが、実行には移せていないという事だろう。鈴音もハーブについて詳しいわけではないが、客から質問される事がある事態は問題であろうと思った。
「あの…もし良ければ、ハーブ育ててみても良いですか?その…私もハーブの事はほとんど知らないんですが、迷惑でなければ、育ててみたいなって思って…」
 晴香に部活に入っていない事を伝えた時、「せっかくの高校生活なんだから、部活入ったら良いのに」と言われたが、特に入りたい部活はないし、それよりも店のために出来ることがあれば、そちらをした方が有意義である。不器用なのできちんと育てられるか分からないのが問題だが、何事もやってみなければ分からない。
「え、いいの?助かるよ」 
 晴香からはあっさりと了承して貰えた。
「ありがとうございます!」
 まずは明日、ハーブの育て方の本を探しに行こうと鈴音は決めた。
 これで、店が閉店している時や開店休業な時にすることが出来た。ハーブ作りは手探り状態であるが、新しい事に挑戦する事に対して鈴音はワクワクした気分になった。
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