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第二章
03 とある令嬢の復学の噂
しおりを挟む「そういえば、ベルナール公爵の娘が、復学するそうだ」
久々に家族全員が揃った食卓の席で、リアムが思い出したように言った。因みにチェリーもこの場に居るのだが、緊張しずぎて、全く聞こえていないようであった。明らかに昨晩の食事の時よりも緊張している。おそらくレイチェルの父リアムに対して緊張しているのだろう。
宰相であるリアムは相変わらず多忙で、朝はレイチェル達が起きる前に登城し、夜は遅くに帰宅するという生活のため、顔を会わせる機会が少ない。ハルトも、放課後はアルヴィンと過ごしていることが最近は多い。しかし、以前の希薄な関係とは違い、今は顔を合わせれば談笑する関係になった。
それはともかくとして、レイチェルはリアムの言葉に首を傾げた。ちらりとハルトの方を見れば、彼も同じような反応をしている。
「ベルナール公爵の? 同じ年頃の子がいましたかしら……」
レイチェルの記憶にはベルナール公爵に子供──それも同年代の子供がいたという記憶はなかった。一応、王太子の元婚約者である、貴族の家族構成や家同士の関係性については概ね把握していたはずである。特に公爵家であるなら特にだ。それなのに記憶に全くなかったので不思議に思うのも仕方ないことだった。
「ああ、学園に籍は置いていたようだが、病弱で今まで領地で療養していたから面識はないだろう。社交界にもまだ出ていないからな。私も、ずいぶん昔に一度見かけた程度だ。エリクも娘の事を公にしたくなかったようでな、娘がいるという事を知らない者も多いだろう」
エリクとはベルナール公爵の事である。
リアムの説明に納得しレイチェルは頷いた。
「病弱ということですが、学園に復学しても大丈夫なのですか?」
ハルトがリアムに尋ねる。そこはレイチェルも気になったところである。病弱で社交界にも出たことがなかった令嬢が、突然学園に復学しても大丈夫なのだろうか。
「ああ、体の方はだいぶ丈夫になったらしい。日常生活なら問題なく送れるようだ。本人の強い希望あっての復学らしい。同じ公爵家として、気にかけて欲しいと言っていた」
現在、学園に通っている学生で公爵位の者は、レイチェルとハルトだけである。それで、ベルナール公爵がリアムに「娘を頼む」とお願いしてきたと言う。
「勿論ですわ。困った時は助け合うのが当然ですもの」
レイチェルとハルトが是と答えると、リアムが鷹楊に頷いた。
「まあ、義姉上は人が良すぎると思うことがありますけどね」
「そうだな……」
ハルトの言葉にリアムもしみじみと頷く。言うまでもなく“アルヴィン更正計画”のことだろう。
(確かに、今考えるとお人好し過ぎたかなと思わないでもないですが……というか、お父様、目が笑ってないですわっ)
アルヴィンが王位継承者としての自覚を持った事については、少し見直したようだが、これまでの行いがダメダメだったため、まだ信用はされていないのだろう。
(アルヴィン様……頑張って下さいね)
信用を得るためには、アルヴィン自身が自分で頑張っていかなければならない──そこは「頑張って」としか言いようがないので、レイチェルは心の中で呟いた。
「まあまあ、そこがレイチェルの良いところでもあるんだから、良いんじゃないかしら」
それまで夫と子供たちの話を聞いていたエマが笑顔で言う。
「それもそうだな」
「そうですね」
エマにあっさりと同意を示した二人は食事を再開したのだった。
食事中ずっと固い表情で明らかに緊張していたチェリーは「今日は宰相様がいらしたので、特に緊張してしまいました……レイチェル様の家族全員が揃うと、なんと言えば良いのでしょう……とても豪華で、ドキドキしてしまいます」と話していた。自分にしてみれば家族の団欒なのだが、チェリーには別次元の世界に見えていたらしい。
翌日、学園の生徒たちの間では既にベルナール公爵家の令嬢が復学すると噂されるようになっていた。今まで存在自体知られていなかったのだ、皆、興味津々になるのも無理はなかった。
更にその翌日、噂の少女ソフィア・ベルナールが学園に登校した。
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