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1 幸せな結婚生活など来ないのです

⑦ 絶望からの

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ふらふらになりながら自室に戻ったものの、部屋に入った瞬間床に崩れ落ちる。
(どうして?どうしてこんな事に?)
考えても答えは出ない。
最初から仕組まれていたのだろう。気付かなかった、私の国がバカだったのだ。
だが、仮に気付いたとしても意味がない。この婚姻を断っていたら、武力による一方的な制圧になっていたかもしれない。
元々そのくらいの国力差はあるのだ。
少し冷静になり、頭が回りだす。
(無駄な血が流れなかっただけ、現状の方がマシなのかも)
ほとんど現実逃避だが、そう思うことにする。
(私は、この先どうなるのだろう?)
先程の話が実行されれば、間違えなく母国の親からは絶縁されるだろう。
それは、まだ良い。だが
(アリエンヌとミシェルの事だけは、何とかしないと)
最愛の妹と弟の顔が頭に浮かぶ。
だがどうする事も出来ない。
絶望に襲われる。
目に涙がたまる。
また泣き出しそうになっているとノックをが鳴りメイド達が入ってくる。
「失礼します」
メイド達はパメラの顔を見るなり、一瞬『しまった』という表情を浮かべるが、すぐ笑顔を作り、リリーが
「後ほど旦那様が部屋に来るようにとの事なのですが」
そこまで言ってから少し心配そうな顔で
「大丈夫ですか?もし気分が悪いようでしたら、今晩はお断りの連絡をいたしましょうか?」
と聞いてくる。
多分ホームシックにでもなったと思われているみたいだ。
「ありがとう。でも大丈夫です」
無理矢理、笑顔を作りそう答える。
断れるはずがない。
私に出来るのは、少しでもラファエルに媚びを売って、母国と妹と弟に対する仕打ちを軽い物になるように頼み込むだけだ。
(そう私には、それしか出来ないのだから、泣いてるだけじゃダメ)
そう決心を決める。
「かしこまりました。ではお風呂の支度を致しますので少々お待ちを」
そう告げると、アンジェルだけが準備のため退出する。
そこでふと思いつき残ったリリーに確認してみる。
「あの、貴方たちは、外と連絡取れたりするのかしら?例えば実家とか」
僅かな期待をこめて尋ねてみるが、結果は予想より酷いものだった。
リリーがびっくりした表情で答える。
「すいません。私たちは一切外に出る事も手紙を出すことも禁じられています」
そこで、何かに気付いたような口調で
「あ、奥様もしかしてご存じなかったのですか?私達は元々属国の王族や貴族の娘でして。その…人質みたいな物なんです」
「え!人質って?どういう事ですか?」
予想外の答えに思わず聞き返す。
「えっと…帝国が占領した国の姫は、皇帝のご子息の側室に入りますが、それ以外の大貴族なんかの娘はメイド兼側室として扱われるんです」
「反乱防止の人質としてこの建物に軟禁されているんです。ここは、そういう建物なんです」
確かにこの建物は、女性率が高い。一部の料理人や警備の兵士を除いて、ほとんど女性だ。
リリーが自虐的な表情で続ける。
「私たちに自由にありません。多分奥様も建物から出ようとしたら適当な理由で止められると思います」
「そして今までの姫方の様な高貴な側室は全て長男様と次男様に与えられてました。三男様の側室はこの国の貴族や大商人が自主的に娘を送ってきたようです」
先程のメラニーがそうなのだろう。三男といえ皇族なのだ、貴族や商人からすれば、上手くいけば、かなりの利権が手に入るのだろう。
そして少し間を置いてから申し訳なさそうな口調でメイドが一番聞きたくなかった事を教えてくる。
「多分、それでは不公平だという事で、旦那様に奥様が与えられたのでは無いかと」
ああ、この子はこれで心配してくれているのだろう。
下手な期待をしても無駄なんだと暗に教えてくれている。
最初から知っていたのかも知れない。泣き顔の理由も今、私が置かれている現状も
(要するに私は属国の姫と同じ扱い。いえ、それより下よね。帝国からしたら、私の国なんて、そのくらいの価値しかないって事か)
先程の決心が一気に揺らぐ。
(そんな扱いをされているのに、私が媚びたところで、何とかなるの?)
再び絶望感が襲ってきた時、アンジェルが戻ってきて、にこやかな笑顔で告げる。
「お風呂の準備が出来ました」
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