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大学3年冬

第42話:摩央との来店_2

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 「注文どうします? もう少し後の方が良いですか?」
「うん、摩央と一緒に決めたいから、もうちょっと後にしようかな」
「りょーかいです。お水だけ持ってくるから、少々お待ちを」
「ありがとう」

 ペコリ、と頭を下げて、航河君はお水を取りに行ってくれた。

「……ねぇねぇ。航河君、ちょっと余所行きな感じ?」
「……そうかも」

 いなくなった隙に、コソコソと摩央と密談を交わす。大した内容ではないが、本人を前には言いづらい。

「じゃあ、ちょっと意識してるんじゃないの? 千景のこと」
「え? そうなる?」
「だって、どうでも良かったら普段と変わらず対応するでしょ?」
「うーん……。一応、お客さんだし? 私も」
「そっかぁ。じゃあまだ様子見かな?」
「ちょっと雰囲気違うから、ビックリした。私も様子見しよ」

 コソコソと話している間に、航河君が水を運んできてくれた。

「あっ、何話してたんですかー?」
「千景が、『自分のお店来るの、緊張するなぁ』って」
「えっ。千景さんも緊張するんですね」
「失礼じゃない!?」
「冗談ですよ。お水、置いておきますね。注文決まったら、そっちのボタン押して呼んでください」

 今度は頭を下げる代わりにニッコリと笑うと、航河君はお店の入口の方へと向かっていった。

「千景も普段、ああいう格好してるの?」
「そうだよ、ウエイター、って格好してる」
「へぇ……。それはそれでちょっと見てみたいかも」
「……恥ずかしい」
「いいじゃん減るもんじゃないし!」

 このお店の制服は、通常のカフェとしては少し変わっているかもしれない。全身黒か、シャツのみ白で統一されている。エプロンは長めで、これも黒だ。清潔感がありつつ、メンズライクなこと格好が私は気に入っていた。女性が着てもカッコ良い。

「先メニュー頼んじゃおっか。私、パスタにしようかな……。オススメある?」
「オススメは海鮮のクリームスープパスタかな? たらことサーモンとイカにエビがたっぷりだよ?」
「え、美味しそう。……あ、これ? じゃあこれにしちゃお」
「私も今日はパスタにしよっかな? いつもクリーム系だから、今日はボロネーゼに決定!」
「飲み物も頼む? 私アイスカフェラテにしようと思うんだけど」
「私ミルクティーにするよ」
「オッケー、航河君来てくれるかな?」

 摩央がソワソワしながら呼び出しボタンを押した。しばらくしてやってきたのは相崎さんだった。

「――おっ! 千景ちゃん!」
「お疲れ様です、相崎さん」
「今日はお店来てくれてありがとうね。お友達?」
「摩央です! 大学の友人です! よろしくお願いします! 相崎さん、今日はお邪魔しますね!」
「摩央ちゃんね。来てくれてありがとう!」
「……へへ。どういたしまして! あのっ、注文良いですか?」
「もちろん。どれにする?」
「ええっとぉ……」

(摩央、航河君の時と態度違うじゃん……。こんなの笑っちゃうじゃん……)

 突然のキャラ変更に笑いを堪えながら、相崎さんに摩央が注文するのを黙って眺めていた。

(……確かに摩央の好みかもしれないな、相崎さん)

 私も相崎さんは、男性で年上だが可愛い顔をしているとは思っている。本人がそれをどう受け取るか分からないから、特に言ったりはしていないが。芸能人にいそうな感じだ。

「――はい。注文は承りました! じゃあ、もう少し待っててね」
「はぁい。ありがとうございます相崎さん!」
「ありがとうございます」
「ゆっくりしていって」

 注文を取り終えた相崎さんは、キッチンへと向かっていった。

「……ねぇ千景。私相崎さん超タイプなんですけど」
「うん、航河君の時と全然反応違ったよ?」
「えー、出ちゃってたなぁ」
「だって、全然隠す気なかったでしょ」
「隠す必要ないし? 可愛いしカッコ良い! 制服似合ってるし、ずっと見ていられる」
「既婚だからね? 子どもいるからね? 相崎さんはダメだからね?」
「分かってるよぉ。癒しって言うか、見て楽しむだけだから大丈夫」
「言い方よその……」

 よほど好みの顔にドストライクだったのだろう。相崎さんが移動する度に摩央は目で追っていた。

「……ねぇ、摩央から見たら、航河君ってどんな感じ……?」
「どんな感じ、ねぇ……」

 摩央は悩む素振りを見せた。難しい話をしているつもりはない。私が話をしたから、先入観はあるかもしれない上で、意見を聞いてみたかったのだ。

 ――自分の好きな人は、初対面の赤の他人、ほぼ同世代の異性の目にはどう映るのか。

 どう映ったって、気持ちが変わることはない。ただの興味本位だ。

「……あれね、制服、航河君似合うね」
「……私そう思う」
「そうだなぁ、比較的、女の子の扱いには慣れてそう。女友達は結構いるんじゃないかな?」
「ほうほう……」
「女性の敵は少なそうだよね、気遣ってる感じするし」
「確かに、バイトの子達とか優しいって話は聞くけど、こう……嫌い、みたいなネカティブな話はあまり聞かないかも」
「千景に対する軽口は多分『俺達仲良いですよ?』っていうアピールかなと思ったけど」
「そんなアピールいるの!?」
「あっ、いやー……。なんとなくの印象だからさ? そんなに深くとらないで?」
「あ、ごめん。つい……」
「自分と同性に向かってだったら、『仲良しアピール』って牽制っぽいけど。異性に向かっては何なんだろうね? 彼氏なら『仲良いから安心してね』な気もするんだけど」
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