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大学3年冬
第48話:クリスマスとお誘い_4
しおりを挟む「……摩央はエスパーなの?」
「当たり?」
「『俺は夜からバイト。それまで暇なんだけど、あー、またあの時の美味しいケーキ食べたいなー』だって」
「航河君誘うの下手かよ」
「いつもこんな感じだよ? 自分からはあんまり誘わない。……保険掛けてるみたいな?」
「……めんどくさー……」
「ねぇ、追い打ちでしょ? これ」
「確かに……ふふっ、追い打ちだわ。……あはは。やだ、笑える。はは、あははっ……」
どの辺りが摩央のツボにはまったのだろう。お腹を抱えて笑い出した。声は小さいものの、とても楽しそうである。
「……そんなに笑わないでよ。一応今真面目にこれに返そうと考えてるんだから」
「いや、はっ……ふふふっ……決まってるんでしょ? こんなの貰ったら。……あーあ。狡いなぁ航河君は」
「笑い過ぎだって!」
「だって。……はぁ。……ふふっ。この間はなぁ。天然かなぁって思える部分もあったけど。こりゃあ養殖濃厚かなー? めちゃ苦労するじゃん」
ひとしきり笑って見せて、摩央は私の行動を品定めしようと待っている。
――分かっている。摩央の言う通り、こんなメールを貰ってしまっては、私の返信を遠巻きに決められたようなものなのだ。だって私は、航河君が好きだから。
「じゃあ仕事入れるよ。またあのカフェ行く?」
そう打って、すぐに返事をした。
「なんというか、『思い通り』なんだろうなぁ」
「……何にも言い返せないじゃん」
「千景ってさ、見事に航河君の手のひらの上で転がされてるよね」
「もう……やめてよ」
「断わることってないの? 否定したりとか」
「ほとんど無いと思う。だって、それで疎遠になったらやだもん」
「それならそれで、そこまでの関係でしょうよ」
「分かってるけどさ……」
「完全に良いように使われてるでしょ。分かってるんじゃないの? 航河君。千景が自分のこと好きだって」
「そこまでは、まさか……」
「いやいやだって、千景の主体性全然無いよ? 彼氏に『俺以外の男と遊ぶな』って言われて大人しくいうこと聞いてる彼女にしか見えない。……付き合ってないけど」
「……頭が痛い」
「航河君を好きな気持ちは分かるけどさ。ちゃんと自分の意志で決めなきゃダメだよ? じゃないと、辛い思いをするのは千景なんだから」
「……うん」
「後悔のないように!」
「はぁい」
「……ねぇ千景、本当にこれで良かった?」
「今の私には分からないよ」
――そうだ。今の私にはわからない。これが正しい選択だったのか。
私は手帳を取り出し、急いで予定を書いた。と同時に、12月後半のシフトをメモに書き出して手帳に挟んだ。今日のバイトの時に、このシフト予定を提出するために。
忙しいことが予想される月は、半月毎にシフトを出す決まりになっていた。そうでない時はひと月分だ。今回は、そのシステムに感謝しかない。もう既にシフトを出していたら、忙しいだろう日とはいえ、変えるに変えられなかっただろう。
こんなやり取りのお陰で、今日のバイトへの足取りは重い。いざ出すにしても、祐輔に見られないようにシフトを出さなければいけないことを忘れていた。
あれから祐輔に、『その日は何もないと思ってバイト入れちゃってた、ごめんね』と送った。返信はアッサリとしていて、航河君よりもよっぽど大人に見えたのは、とても本人には言えない。クリスマス会兼忘年会について聞かれたので、そちらは参加すると答えておいた。
気持ちを無碍にしてしまったようで心が痛んだが、もう決めてしまったことだ。今更変えることも出来ない。店の前で少しウロウロしたが、意を決してドアを開けた。
(どうか、どうか今日は祐輔バイト入っていませんように……)
「おはようございます!」
「……あ」
「あ。……おはよう、祐輔」
「おはようございます」
(なんてことだ)
祐輔はいた。こんな時神様なんていないと思う。
ニッコリと笑って、いつもの千景さんを演じる。正直、内心ドキドキしていた。私服ということは、今から帰りかもしれないと思ったが、時間も中途半端だし、ぼーっとしていたらそのままロッカーへと入って行った。
(……平気平気! スッと出せば良いだけだもん)
私は着替えを済ませ、エプロンのポケットにメモをしまった。レジの下の棚にシフト情報のファイルが入っていて、同じ棚の引き出しにみんなシフトのメモを提出していた。そこへ祐輔に見られずメモをしまうことが出来れば、ミッションコンプリートである。
(あれ? ……なんで祐輔がレジに立ってるの?)
キッチンのはすの祐輔が、なぜかレジに立っていた。
「どうしたの? レジ打ち?」
「はい、今日はホールの人手が足りないみたいで。手伝って来いってオミさんにいられたんです」
(オミさんめ余計なことを……!)
忙しくて人手が足りない時、キッチンの人でもレジ対応出来るようにと、全員がレジを打つことが出来る。いつもなら非常に助かるはずなのに、今日ばかりはそんな気持ちになれなかった。
レジに立っていられては、引き出しにメモをしまうことが出来ない。
(い、いや、でも、ずっと立っている訳でもないし……)
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