妖からの守り方

垣崎 奏

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第二篇

11.翠月の異変 1-2※

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「単刀直入に伺います、薬物ですよね?」
「見抜かれましたか。柘榴さまは、床には入られないので」
「それは、そうですが…。昨夜の御客に盛られたか何か? 僕と会わせるということは、裏での回答をお望みで?」

 《裏》という言葉を聞いたからだろうか、翠月が、緑翠にもたれかかる。目の前にいる相手が柘榴で気が知れていることもあり、もぞもぞと動いている。

 柘榴は、緑翠の真横に座り直した。この距離で話してくれるのであれば、翠月の姿を見られずに済む。

「今、発情を誘引する薬物が確認されているのはご存知で?」
「…いや」

 瑠璃が言っていたもので、間違いない。裏で知ったことは、隠す方が都合が良い。裏家業を持つ者なら、誰でもそうするだろう。

「隠密が掴んでいる情報なので、当然かと。お知らせしておくべきでした。もしそれが盛られたとなると厄介です。ニンゲンに対しては分かりませんが、薬物の効き目は身体の大きさに比例すると言われていますので」

 翠月は抑えが利かず、正座をする緑翠に乗り上げ抱きついてくる。朝、顔を合わせた限りでは、ここまで薬が残っているようには見えなかったのだが。

 柘榴が、緑翠の対面に戻った。落ち着かない翠月を抱きとめる緑翠に、身体が触れないようにする配慮だ。

「…つまり、散らすために床が必要になると」
「昨夜すでに散らされているでしょうから、今の状況を見れば、では治らない可能性もありますね」
「……」

 妖の発情と同じであれば、時間が経てば酷くなり、治まりにくくなる。ただし、相手が誰であれ一度床に入れば治まる者が大半で、ゆえに芸者と楽しむ廓が繁盛する。一対一で行う、いわゆる普通の情事だ。

 稀に複数での絡みを楽しむ者もいるが、腕の中にいる翠月のように夜だけ欲情するのは、発情期とは異なる。ニンゲンの翠月が摂取してしまったことで、作用が変わってしまったことも有り得るだろうか。

 そしておそらく、柘榴も同じ予想に行き着いている。

「……折衷案を提示します。まだ、試されていないもの」

 先を促すように頷いた。見当はついている。翠月の意思を、確認してやる暇はない。おそらく、酷くなる一方で、頬を赤く染めた翠月の頭の中は既に、どう快感を得るかで埋まっているはずだ。

「僕と、翠月、緑翠さまでの床です。お分かりですよね?」
「ああ」
「僕は、今から番台で泊まりに変更してきます。少しでも、おふたりの時間を」
「感謝する」

 本来であれば、世話係や宮番に言伝でいいのだが、柘榴は一度座敷を出た。慣れていない、より激しい行為をすることで、翠月が落ち着くといいのだが。柘榴に見られてしまうことは、割り切るしかない。

「…りょくすいさま」
「ん」
「ごめんなさい…、止められないの」
「いい。薬のせいだと受け入れてしまえ。その方が楽になる」

(守ることが、こんなにも難しいとは…)

 額に口を寄せつつ翠月を持ち上げ、帷向こうの敷物に腰を下ろす。口付けを強請る翠月に応えていると、柘榴が戻ってくる。

「…堪えきれないといったところでしょうかね」

 襖を注意深く、隙間ができないように閉じた柘榴は、ゆっくりと翠月の真後ろに座った。

「…失礼しますよ」
「ひああっ!」

 柘榴が、翠月の首筋を舐めた。緑翠でも、初手でここまでの嬌声を上げる翠月は初めて見る。

「これは、なかなかに…、発情を制御していても、厳しいものがあります」

 柘榴が、翠月の帯を緩め、衣紋から着物を引いた。「くくっ」と笑う柘榴に、目を向けられる。翠月を抱いた折に、濃淡様々な花を咲かせたのが残っているからだろう。翠月の肌に残っているのは、昨夜の分だけではない。

「お楽しみですね。いやあ、若いうちから決まった相手がいるのは羨ましい限り」
「……」

 柘榴が緑翠の弱みを更に知ったことになるが、諦めるしかない。何より今は、翠月の身体から薬の作用を抜くことが先だ。翠月の弱い耳元で、わざとくすぐるように囁いてやる。

「…翠、ここは翠玉ではない。俺の結界がないから、声は通るぞ」
「んっ!」

 結界を張ってやることはできない。深碧館の御客は皆、それなりに地位のある者だ。妖力も高位貴族には及ばないが持ち合わせていて、黄玉宮で妖力が使われたことに気付く者もいるだろう。何より、平民で妖力を多く持たない働き手たちが、影響を受けてしまう。

 緑翠と向かいあって収まっていた翠月を、両手で脇から持ち上げ、膝立ちにさせた。着物が滑り落ち素肌が見えることを気にせず、ふらふらと揺れてしまう翠月を、前後から男ふたりで支える。緑翠は翠月の腹側から口内と秘部を、柘榴が翠月の背中に密着し、腹側に回した手で胸を攻めていく。

「あ、あ…っ、んん…」

 濡れてくるのが、今までのどの共寝よりも早い。これも薬の作用で、秘部に触れてもらうのを、翠月はずっと待っていたのだろう。

「翠、こちらに倒れてこい」
「ん…、あっ!」

 緑翠に抱きとめられた翠月は、柘榴に腰を持ち上げられ、尻を突き出している。緑翠の目には、翠月の背中の先にある、柘榴の竿が映った。以前から翠月の床の解禁を待っていた男のそれは、座敷で他の妖の男根を見ることもあった緑翠ですら、立派だと思った。

 敷物に膝をついている翠月は、普段の寝間の様子のまま足を開いていた。柘榴が、翠月を軽々引き寄せつつ閉じさせた。

「んっ!」
「翠月、外で動かすから、痛かったら言うんだよ」
「んんっ」

 柘榴が、翠月の秘部と足の付け根の間に竿を差し込んだのが、その言葉と身体の揺れ方で緑翠にも伝わった。さすが、柘榴と言うべきか、擦り合わせているだけでも、翠月を気遣っている。

 緑翠が覚えている限り、柘榴は深碧館で床に入ったことはない。高位貴族である以上、最高級館である深碧館以外の廓への出入りがあるとは考えにくいが、貴族として、閨の作法は学んでいてもおかしくはない。

 緑翠も柘榴も、着物は下半身をはだけさせるだけで、上半身を見せようとはしなかった。理由は想像がつく。おそらく柘榴にも、他に見せるべきではない、墨が入っている。

「…忠告は、聞こえていないかもしれないな」
「そう、ですね」

 緑翠は、嬌声を上げ続けている翠月の小さな口に、普段通り片手を入れ噛ませ、もう片方で手を握って、翠月の滑らかな肩に唇をつけながら、柘榴を眺めた。

 高位貴族は特に、国の均衡を崩すことに繋がるため、気軽に子種を放出したり受け入れたりすることはできない。ゆえに皆、発情期を制御しているが、緑翠の目の前で腰を振るのは、その制御を振り解いてしまった妖だ。余裕の無さげなその表情に、少々優越感を持った。

(翠は俺の妻で、抱こうと思えば毎日手に入るなんて、思っている場合ではないな…)

「ん…、んあ、ああっ!」
「っ……」

 俯いた柘榴の表情は長髪で隠れているが、翠月とほぼ同時に果てたのだろう。規則的な身体の揺れが止まり、翠月が物欲しそうに身体を起こしてくる。口から指を抜いてやると、緑翠の肩に手を伸ばして唇を奪ってくる。

「ん、んっ」
「翠、足りないのか?」
「ん、もっと…!」
「……」

 懸念していたことだ。翠月からの口付けに煽られつつ、頭を回した。

 翠月は今、間違いなく達した。昨夜は緑翠が挿入した状態でも果てている。それでもまだ、翠月は快楽を求めている。緑翠は瑠璃からの助言もあり、翠月の腹や腰に精を放つ。その上で、避妊薬も飲ませていた。

(妖力を入れきる、つまり中で果てないと、薬が切れないのか…?)

「…一旦、離れますよ。旦那さまに代わって頂きましょう。考えている不安は同じでしょうからね」

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