路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

文字の大きさ
3 / 40
第一章 もっこもこカフェへようこそ!

もっこもこパンケーキ

しおりを挟む
 ドキドキする――――。
 俺は今、目の前で踏ん反り返っている『猫』に、試されようとしていた――――。

 テストってどんなことをするんだろう? クイズみたいな問題形式なのか。身体測定とかさせられたりするのかな。でも猫にまつわることなら、『古今東西猫珍問』とかだったりして!? それって一体、どんな珍問なんだよ!!
 どれにしても自信ないんだけど――――。
「でにゃ、いくにゃ……」
「は、はいっ!」
 猫様はアイスブルーの瞳を思いっきり見開き、カッと射るような眼光を光らせた。

「うふふ。そんなに怖い顔で睨めっこしていないで、パンケーキでもいかがですか?」
「へ?」
「にゃっ! ステラ、邪魔するにゃ~!」
 『ステラ』――――そう呼ばれたのは、さっき俺を店内に入れてくれた可愛い女の子だった。
「あら、邪魔なんかしていないわよ。言わせて頂けば、開店準備中なのにお客さんとのんびりお喋りしているタルトさま・・の方が仕事を邪魔していると思いますけど」
 『タルト』――――って、このお喋り猫様の名前かな? タルト様って呼ばれていたけど、もしかして態度に違わずお偉い立場なのか?
「にゃ、にゃんだって! 吾輩はこの小僧が指名したからにゃ……」
「この方はご指名客ではないのよ。お話は私がするから、タルトは早くおやつ食べて、開店の準備をしてちょうだい」
「にゃん! 吾輩のパンケーキもあるんだにゃ?」
「あるわよ。じゃないとタルトは後で煩いもの。バウムさんはちゃんとみんなの分を用意してくれてますよ」
「流石バウムにゃ。吾輩もここで食べるにゃ~」
「もう。なら自分で運んでくださいな」
「勿論にゃ~」
 二人の会話が一区切り終えると、お喋り猫こと『タルト様』は、勢いよく椅子から飛び降りて、ご機嫌でキッチンの方に走っていった。それも四つ足でな!

 また戻ってくるとはいえ、取り敢えずテストからは解放されたことにホッと息を吐く。
「ありがとうございました。えっと……」
「ふふふ。ステラでいいですよ。お店に来てくださるお客様は、皆さん名前で呼ばれますので」
 優しい声と笑顔で、そう言ってくれるステラさんは本当に可愛らしくて、妖精が舞い降りたみたいにキラキラ輝いて見える。
 てか、寧ろ本当に妖精か天使じゃない? 喋る猫だって、簡単に手懐けているんだから!
 ステラさんに憧れと尊敬の気持ちを込めて、一旦深々と頭を下げてから話を続けた。
「では、お言葉に甘えまして……ステラさん、色々とありがとうございます」
「色々、ですか」
 ステラさんは俺の言葉に微笑みながら、カップに紅茶を注ぎ始めた。お洒落なカップには、綺麗な紅色の液体が上品に揺れている。
 晴れた日の水面みたいに煌めく紅茶を眺めているだけで気持ちが穏やかになってきて、自然と言葉が口を衝いていた。
「はい。色々です……。突然押しかけて、変なこと言ってもちゃんと話を聞いてくれたし、こうやってお店の中にまで入れてくれた」
「ふふふ。どういたしまして。それで、目的の『喋る猫』に会った感想は如何ですか?」
 敢えて『喋る猫』にステラさんは触れてくれた。お陰で俺は、気負うことなく『タルト』様について話を続けられる。
「正直、自分が幻を見たか、頭がおかしくなったのかと思ってたんだけど、実際目の前で直接話してみて……」
「はい?」
「やっぱり、夢みたいです」
「まぁ。ふふふ」
 俺のまとまりのない感想にステラさんは、ただ楽しそうに微笑んだ。
 そのただただ可愛らしい笑顔に、俺はただただ救われていく。
 笑顔に感動して見惚れている俺に、ステラさんはパンケーキと紅茶を進めてくれた。
「冷めないうちに、お召し上がりください。当店自慢のコックが作った『もっふもふパンケーキ』です」
「もっふもふ……パンケーキ」
 店の名前と一緒の『もっふもふ』のパンケーキ。確かに見た目からしてふわふわして、凄く柔らかそうだ。生クリームとベリーで彩られたデコレーションも男の俺から見ても、ときめく程可愛らしい。
 世間にも沢山のパンケーキがあるけど、実はお洒落なパンケーキを食べるのは初めてだ。食べたことあるとすれば、昔母さんが作った薄っぺらいのくらいだ。
 こんな素敵なパンケーキに、俺ごときがナイフを入れるなんて恐れ多いが、こんなチャンス滅多にないし、何より目の前の妖精ステラさんが笑顔で勧めてくれているんだから食べない訳にはいかないだろ。
 パンケーキの前で固まっている俺に、ステラさんは少し神妙な表情を浮かべる。
「もしかして……甘いもの苦手でしたでしょうか?」
 中々食べ始めない様子に、ステラさんを心配をさせてしまった。
「違うんです! 好き嫌いはないです。甘いものも大好きです! 余りにも素敵なパンケーキだから食べるのが勿体ないなと」
「まぁ~苦手じゃなくて良かったです。それにしてもパンケーキに食べるのが勿体ないと仰るなんて、面白い方ですね。うふふふ」
 慌てて弁明をした俺にステラさんは、両手の指先を口元に持っていき、綺麗な青緑色の瞳を細めて屈託なく笑った。
 うおおおおっ! もう全てが可愛い! これが夢なら、覚めないでくれ!
 そんな煩悩を心の中でシャウトしつつ、俺はようやくもっこもこのパンケーキにナイフとフォークを入れた――――。

 瞬間――――フォークもナイフも、物体に触れた感覚しない。まるで雲を刺したみたい――と言いたくなるくらい感触がない。
 だけどフォークを持ち上げてみると、パンケーキの切れ端はしっかりと持ち上げられている。
 フォークの先でフルフル揺れるケーキをおずおずと口の中に運び入れた――――。
「うわっ! ふわっふわだぁぁぁ!」
 想像以上、否! 想像できないふわふわと言うか『もっこもこ』感だ!
 あぁぁぁぁ、これを何と表現すればいいのだろう。自分の語彙力のなさを呪いたくなる。
 ふわふわなんだよ。もっこもこなんだよ。その感触がちゃんと舌の上で感じるんだけど、スーと消えて無くなっていくんだよ。
 なのより美味しい! 甘さ控えめだけど、絶妙な癒されるスイートさが口の中だけじゃなく、全身に広がっていって――――癒される。
 感動を思い付くまま思い浮かべていたら、パンケーキはそれこそ泡のように瞬く間に皿の上から消え去っていった。

「はぁぁ……美味しかった……」
「ふふ。ご満足して頂けたようで、良かったです」
 ステラさんは嬉しそうに微笑んで、俺が飲み干したカップに再度紅茶を注いでくれた。
「自分、スイーツとか全然詳しくないんですが、ただただ美味しいと言うか……パンケーキを食べている間、幸せな気分になりました!」
 これは本当だ――――。下手に言葉を並べるより、今一番実感したのは『幸福感』だと思う。この気持ちは、間違いない!
 俺の感激に笑顔で頷き返したステラさんは、
「はい。当店の料理やスイーツは全てふわふわ柔らかくて、気持ちがもっこもこと癒されるようにと作っています。そしてこのもっこもこパンケーキを作る当店自慢のコックをご紹介致しますね」
 そう言って、キッチンの方に可愛らしい掌を差し向けると、奥からのっそりとした動作で『コック』が現れる。

「はい……?」

キッチンの奥から出てきたのは――――大きな『シロクマ』だった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...