路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第五章 もっこもこカフェパワー全開!

俺様タルト様の言うことにゃ

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「いらっしゃいませ! もっこもこカフェへようこそ!」
 お店が開店した――――。お客さんを出迎えるのに、もこもこ+俺はドアの前に向かい合うように並列し、その間にお客さんを通す。
 美男美女(あくまでも可視化!)に挟まれるように迎い入れられるお客さんは、一気にテンションが上がっていき、頬を染めてはしゃぎ出す。
 お客の中の一人がタルトの前に来ると、甘い声で話しかけてきた。
「会いたかったよ~! タルトくぅん!」
「吾輩も会いたかったにゃ~」
 猫なで声の客に、本当の猫が優しく答えた――――途端、俺の顔が歌舞伎の役者みたいに歪んだ。
 はっ!? どの口で言っているんだ? 日頃のドSな俺様猫様を暴露してやりましょうか!!
 実際そんなことはしないし、出来やしない。でもそう言ってやりたい位、タルトの態度の違いに不満が爆発しそうになった。
 凄い形相のままタルトを睨み付けいると、前を通って行くお客さんが不思議そうに俺を見ていく。
「この人、新人?」
「変な顔~!」
 変顔状態の俺をお客さんは、クスクスと笑ってくる。
 しまった――――タルトにムカついている場合じゃなかった! お客様に、不愉快な思いをさせてしまった!
「すみません! 今日は楽しんで行ってください!」
 慌ててお客さんに深々と頭を下げると、再びクスクスと笑い声が後頭部に降り注がれてくる。
 あぁ、初日から何やってんだよ俺。今すぐ、穴があったら入りたい心境だよ。
 恥ずかしさと、情けなさで頭が上げられないでいると――――
「変顔、面白かったです~」
「新人さん? 頑張ってくださいね!」
「はい、楽しませて頂きます!」
 予想外の台詞が次々と俺を優しく包み込んだ。
「え……ありがとうございます」
 恐る恐る顔を上げると、お客さんたちは皆温かい笑顔を俺に向けてくれていた。その笑顔に、俺の全身に何とも言い難い衝撃が走っていく。
 うわぁぁぁぁぁぁぁ! なんて優しいお客様たちなんだ! こんな華も存在感もない俺に、こんな優しい笑顔で迎えてくれるとは! お客様を迎え入れる立場なのに、逆に俺が受け入れて貰っているじゃないか!
 接客業の醍醐味を初めて実感して、俺は感動に打ち震えた――――。

「こいつ今日から加わったスタッフ兼、俺の下僕にゃ~」
 ――――はっ!? 今なんて言った??
 タルトの『下僕』宣言に、俺は怒りで更に震えた。
「タルト!?」
 流石に他のもこもこたちも、この発言には営業スマイルも吹っ飛んでいく。だけどタルトはお構いなしに、顎を軽く上げて上から目線で俺様発言を続ける――――。
「まだまだ使えないドジっこにゃ~。吾輩のかわいこちゃんたち、此奴が失敗しても笑って許すにゃ~。叱って良いのは吾輩だけにゃからにゃ~」
「……はい?」
「ちょっと、タルト!!」
 どこまでも俺を見下すタルトの態度に唖然とした俺は、ポカンと口を開いて棒立ちになる。
 な、何いってんだよ、こいつ。俺はお前のものじゃないぞ!
 腹の底から沸々と怒りが湧き上がり、タルトに向かって反発しようとした――――が!
「はぁ~い! 承知しました~」
「タルト君って、本当に俺様だね」
「タルト様の言う通り、新人君を優しく見守りま~す」
 お客さんたちは和気藹々と談笑しながら、タルトの後についてテーブルに向かって行った。

「今の……何?」
 これはタルトのお決まりのプレイか寸劇なのか? でも何となく、失敗してもお客様から冷ややかな目で見られることはないような気もしなくはない。
 呆然と立ち尽くす俺の肩を、もこもこたちがポンポンと軽く叩いていく。
「樹木、よろしくみゃ~」
「樹木、マイペースで大丈夫わん」
「樹木、頼りにしてるっき~!」
「タルトは本当に素直じゃないっぴょん」
 俺に一言ずつ言葉を掛けたもこもこたちは、スイッチが入ったように接客モードに変わり、自分たちのお客様をおもてなしするために各自のテーブルに配置した。
 やっぱり皆、プロだな――――。何があっても、お客様を楽しませることに徹するんだ。そんなもこもこたちの手伝いを俺も出来る限り頑張るんだ!
 皆の期待にこたえられるように、俺は唇をグッと真一文字に結んで握ろ拳を作って気合を入れた。
 
 心地良いやる気が、全身に漲ろうとしていた時だった――――。
「お~い! そこの下僕! 早くオーダー取りに来るにゃ~!」
「は、はい! 少々お待ちください!」
 タルトの俺の扱いには不服はあるけど、今はそれどころじゃない――――と思ったのに、
「本当にのろまにゃ~」
 更に追い打ちを掛けてくるタルト。
「もうタルト君たら、そんな意地悪言わないの!」
「俺様なタルト様、やっぱり素敵よね」
「もっと吾輩を褒めてもいいにゃ~」
「きゃぁぁぁ! タルト様ぁぁぁ!」
 俺をダシにして持て囃されるタルトの姿に、顔が引き攣る。
 こんのぉぉぉ! 覚えてろよ、この生意気猫め! いつか『樹木様!』と言わせてやるからなっ! そのためにもここで、もっともっと頑張ってやるぅぅぅ!

 タルトへの闘争心から、俺は無意識に『もっこもこカフェ』での仕事を続けていく決意をしてしまっていたのであった――――。
 

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