路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第五章 もっこもこカフェパワー全開!

キングとエース

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 ズン! ズズン――――ズズズズン!!
 映画の緊迫しているシーンみたいなSEが、揺れる振動と共に頭の中を駆け巡るのであった――――。

 俺は生け捕りにされた小鹿のように(実際は分からないけど)、バウムさんの肩の上でぐったりと伸びきっていた。
 逞しい肩に揺らされながら思うのは、今朝からずっともこもこたちに何かと助けて貰っていることだ――――。
 下ごしらえの時はビスケとサブレのちびっ子たちに、お昼はカカオとズコットに、ステラさんだって、アンニンだってマカロンだって――――今はこうしてバウムさんに手間を取らせている。バウムさんは今朝からずっと働き詰めで一番疲れている筈なのに。
 要はタルト以外の皆に、何かとフォローして貰ってばっかりだ。
「すみません……バウムさん……」
「……」
 生け捕り状態でゆらゆら揺れながら、バウムさんに謝る。しばしの沈黙を経てバウムさんはポツリと答えてくれた。
「気にするな」
 バウムさんの低音ボイスが、俺の全身に優しく響き渡った。

 ――――なんて、感動に浸っていた次の瞬間、バァァァン! と激しくドアが開けられる音が鳴り響く。
「ひっ!」
「にゃんだ!?」
 その音に驚いて悲鳴を上げると同時に、あの俺様猫様タルトめ! の声が飛んできた。
「タルト、そこどけ」
「……分かったにゃ」 
 肩に二つ折りで担がれている俺の視界はバウムさんの胸しか見えないから、タルトが何をしていたか分からないけど、バウムさんの言葉に素直に従っていることに、ちょっと複雑な気分になる。
 いやそりゃそうだけどさ~。バウムさんに逆らうって言うか、物申せる人なんてきっとステラさんだけだろうし、この迫力だし、胃袋抑えられているから絶対服従しちゃうよね。
 相手がバウムさんだから仕方ないけど、ちょっと態度違いすぎじゃね?
 新人に対する態度、俺様過ぎじゃね??
 溜まりに溜まった不満が一気に爆発した――――腹の中でオンリーだけど。

 俺が一人勝手に腹の中で怒りを爆発させている間に、もっこもこカフェのキッチンの王と接客のエースの会話が繰り広げられていく――――。
「そやつ、どうするにゃ」
「最後の回は、ここで寝かせておく」
「……ふ~ん。吾輩は下に行くにゃ」
「あぁ……」
 ――――って言うほど、繰り広げられなかった。
 てか、今ので会話成立していたの? 俺を寝かせておく以外、相槌レベルだったよね? 二人くらいのレベルだと、目と目で通じ合うのでしょうか?
 ここまで突かれた原因がタルトにもあると思っているだけに、余りにも素っ気ない会話が腑に落ちなかった。
 
 バウムさんの肩の上で悶々としていると、次は勢いよく肩から振り下ろされた。
 遊園地のアトラクションのような遠心力が一瞬襲ってきて、反射的にギュッと目を閉じた。
「……っ!」
 ――――気付けば俺は、ソファーの上に寝っ転がらされている。
 何が起きたのか脳みそが付いていけてない内に、今度は真っ暗な闇が一気に降り注いできた。
「ひっ!」
 な、なんだこれ――――ふわふわしている?
 俺を包み込ん闇は、柔らかい毛布だった。
 その毛布からひょっこり顔を出して見上げると、バウムさんが高らかな場所から見下ろしている。
「寝てろ。終わったら起こしに来る」
「はい……ありがとうございます」
 一言そう言い残して、バウムさんはさっさと控室から出て行ってしまった。

 バッタァン! ドアがけたたましく閉まり、そのあと瞬時に静けさがやって来た――――。
 ふかふかソファーとふわふわ毛布の感触が、疲れた身体を癒してくれる。
 バウムさんが照明も暗くしてくれたから、興奮気味だった神経が少しずつ省エネモードになってくるのを感じた。
 お店の中に居ながら、まるで森の中にでも来たみたいだな――――。

 そんなことをぼんやりと考えている内に、疲弊した身体は瞬く間に眠りの森へ吸い込まれていった。


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