路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第五章 もっこもこカフェパワー全開!

癒しのもこもこパワー

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 どれくらい俺は、森の中を散歩したんだろう――――。
 身体が空気みたいに軽くなっているぞ――――。
 あぁそろそろ、散歩を止めて戻らなきゃ――――。
 ――――あれ? 何処に戻るんだっけ????

「樹木、良く寝てるでちゅ」
「こちょこちょしてみるでちゅ」

 遠くで妖精の声が聞こえた――――。
 『こちょこちょ』って何だろう? 
 この森に生息している蝶々の名前かな?
 
 夢現の俺は、まだ現実の世界へ戻って来れていなかった。
「こちょこちょでちゅよ」
「ふぇ……やめ……」
 何かやたら鼻がむず痒い。もしかして『こちょこ蝶』の鱗粉か?
「ぷりぷりでちゅよ」
 むず痒さは中々収まるどころか、益々増大してきて我慢の限界だ。
 くしゃみが出そうだ。てか、出るぅぅぅ――――!
「ひゃ……ふぁ……ふぁ、ふぁっくしょんっ!!」
「きゃぁぁでちゅ!」
「起きたでちゅ!」
 自分のくしゃみの音で、一気に目が覚めた。
 まだむず痒さが残る鼻を擦りながら、霞む目で声の聞こえる方を見やれば、小さな妖精の正体がそこではしゃいでいる。
「……ビスケとサブレ……」
 間抜けな声で呼びかけた俺に、名前の主はぴょんぴょんと楽しそうに跳ねながら、肩に乗って来た。
「ビスケでちゅよ」
「サブレでちゅよ」
 頬擦りしてくる二人の感触がくすぐったい。それと、同時に別のことに気付いた。
 あれ――――二人とも、小リスの姿だ。いつの間に『忍びの眼鏡』を外したっけ? 若しかして俺が寝ている間に、壊さないように誰か外してくれたのかもな。
 そこは余り深く考えないようにして、俺はもそもそとソファーから起き上がった。

 最後の回のお客さんが帰ったから、ビスケとサブレは俺を起こしに来てくれたそうだ。確かにさっきの『こちょこちょ』攻撃は、覿面に効果があった。
 階段を下りてフロアに近づくに釣れて、いい匂いが鼻腔をくすぐってくる。
 バウムさんのご飯だ! これから夕飯の時間だ。
 食欲を掻き立てる美味しい香りに、俺の腹の虫がギュルルル~と素直に鳴き出した。
「お腹空いたでちゅ」
「虫さん鳴いているでちゅ」
「あははは。そうだね。お腹空いたよ」
 ゆっくり休ませて貰って緊張も緩んだせいか、食欲が一気に湧いてきた。

 フロアに現れた俺の姿を見たステラさんと、もこもこたちが笑顔で迎えてくれる。その笑顔に、物凄く嬉しくて――――救われた。
「樹木さん、ご飯ですよ!」
「良く眠れたかわん!」
「はい、ありがとうございました。ぐっすり眠れました」
 照れながらお礼を言うと、皆は「良かった! 良かった!」と頷いていた。
 まぁ約お一人様を覗いてはだろうけど、今はそんなの気にしないぞ! ――――だけどそのお一人様が見当たらない。
 改めて見渡すと夕飯の準備を皆でしている。俺様はキッチンにいるのだろうか。
 てか、気が合わない相手なのに、何でこんなに気になるんだろう――――きっとこれは、警戒心だ!
 そう思っていた矢先、キッチンの方から俺様猫様タルト様が、スープ皿を持ってトコトコと現れた。
 そして案の定、俺の顔を見るなり言い放つ。
「やっと起きたか眠り小僧めにゃ。初日からこんなんじゃ先が思いやられるにゃ~」
 開口一番の相変わらずな毒舌ぶりである。
 折角休んで気分も落ち着いて、これから美味しいご飯なのに、いちいち苛立っていたら実が持たない。
 ここはスルーして、夕飯準備の手伝いでもしよう。
「ステラさん、俺も手伝います」
「にゃ! 無視するとは生意気にゃ!」
 背中越しに何か言っているけど、体力が回復した今の俺は、ちょっと強気だ。
俺のタルトへの対応に、ステラさんが笑顔を浮かべる。
「あら、ありがとうございます。でも樹生さんは、ご無理なさらないでください」
「え、でも……休ませて貰ったから、もう動けますし」
「はい! 明日も朝早いですから、体力温存して貰わないとなんで!」
 ステラさんはお得意に天使の微笑みをキラキラと輝かせて見せた。
「はい……分かりました」
 やはり恐るべき――――ステラの『笑顔のスパルタ攻撃』。

 夕飯はバウムさん特性ミネストローネとふわふわベジタブルオムレツだ。焼きたてパンもあって、とっても美味しいかった。
 食後のお茶も飲んで、穏やかな時間が流れていく――――。
 朝から色々大変だったけど、こうやって追われると、それも全部楽しかったと思えそうだ。今日教えて貰ったことを明日はもっと活かせるように、頑張らないとだな~。
「ご馳走様でした。食器、洗いは……」
 言いかけた瞬間、視線が一気に一か所に向かう。その先のもこもこと言えば――――。
「洗い物は、任せろるるる~」
「です……よね」
 常にミュージカル口調のタフィーさんだけど、洗い物を率先してやってくれる人がいるって有難いことだなとしみじみ思った。
 食器を片付けようと立ち上がると、突然目の前に立ちはだかってきたもふもふが居た。
「え……どうしました?」
 そのもこもこは明らかに、俺よりも大きい。その人物といえば、このもこもこしかいない――――。
「バウムさん」
 そう、真っ白なふっさふさな巨体が、俺の前に氷山の如く立ちはだかっている。
 これは若しかして――――「俺を越えてみろ!」とかか? いや、絶対死んでも無理だから! ――――秒で白旗を上げる。
 俺の前に立ちはだかるバウムさんの意図が分からず、めちゃめちゃ戸惑っていると、バウムさんはゆっくりと両手を広げて――――
「え……」
 ――――優しく包み込むように抱き締めて来た。
 
 な、何!? これは一体どういうことなんでしょうか!!
 予測不可能な出来事に、視界も頭も真っ白になる。
 驚きの余り固まっている俺にバウムさんは、背中と頭を優しくポンポンしてきた。
「あ……」
「今日は本当に、頑張ったな」
 これがバウムさんの『労い』だった――――。その瞬間、全身の力が抜けていき、身体をバウムさんの巨体に全て預けるように寄り掛かった。
 あぁ――――なんてもこもこしていて、温かいんだろう。何よりバウムさんの優しさに、癒されるぅ~。包容力がある男がモテる理由が良く分かるわ~。このままずっと、抱き締められていたくなるもんな。やっぱり『もこもこ』最高ぉぉぉ――――!!
 すっかりバウムさんの抱擁の虜になっていると、周りがザワザワと騒がしくなってきた。
「ビスケもぎゅっとすでちゅ」
「サブレももこもこするでちゅ」
 バウムさんに抱き締められている俺が羨ましいのか、ちびっ子たちが勢いよく飛び込んでくる。だけど癒しのもこもこは、これだけで止まることはなかった。
 次にやってきたもこもこは――――。
「吾輩の毛並みが一番にゃ! 特と堪能するが良いにゃ~」
「え、マジ?」
 バウムさんお毛に埋もれて姿は見えないが、今の声はタルトではないか?
 そう思った途端、何かタックルしてきて背中に衝撃が走る。
「うおぉい!」
「どうだ、吾輩の毛並みは最高だにゃ~」
 タルトが俺の首筋に、頭をグイグイ擦り付けてくる。だがしかしそれどころか、この予想外のタルト行動にもこもこたちにスイッチが入ってしまった――――。
「ウチもみゃ~! もこもこするみゃ~!」
「わたくしも、もこもこの輪に混ぜてくださいわん!」
「わたしも一緒に、もこもこしたいっぴょん!」
「俺も、もこもこの中に入るっきぃぃぃ!」
「これは楽しいるるる~! タフィーも入るるるる~!」
「えぇぇぇぇ!」
 まさかタフィーさんまで、加わるとは思わなかったんですけど――――!
 これはどうやら総動員でもこもこぎゅうぎゅう状態になるようだ。次々と加わるもこもこに俺は埋もれていった。
 
 もはやこうなると、何も見えない。微かにステラさんの声が聞こえるだけだ。
 最後の砦もステラさんに、この状況を落ち着かせて貰うしかない――――!
「ちょっと皆、そんな大勢でもこもこしたら……ま、たまにはいいわよね。私も混ざろ~」
 そんな期待は儚く消えて、とうとうステラさんまで、もこもこタッグに加わってしまったではないか。 
 ちょ、ちょっとステラさぁぁぁん! ステラさんは、毛深くないでしょう!! ――――でも、まぁいっか~。
 だってやっぱり、もこもこは気持ち良い。
 凄く、凄く癒されるもんな――――。 



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