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三章
距離
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姉の結婚式の後、暫く会うことはなかった。会う気もない――――。
だが姉にも子供が生まれ、私は叔母さんになり、時たま子供を連れて実家に帰ってくる姉と否応なしに会う機会もあった。
だからって、深まった溝が埋まる訳ではないけれども――――。
「保証人、恵里の名前で大丈夫よね」
「うん。どうせ連絡するでしょ。その時、名前だけ借りたっていっておけば」
入院の手続きの書類欄には、保証人の名前も必要だった。別の住所の人じゃないといけないらしく、否応なしに姉の名前を書くしかない。
支払いを踏み倒すつもりはないけど、少しでも姉が費用を負担してくれることはないだろう。
それでも保証人欄に姉の名前を書かねばならないのは、理不尽にも思えた。
「お父さんの田舎にも連絡しないとだよね」
「うん……」
父からは田舎の兄弟には見舞いに来なくてもいいように、伝えてくれと言われている。
六人兄弟で父は下から二番目だ。存命のお兄さんたちはもう高齢だから、わざわざ九州から関東に来て貰うのは気が引けると、父なりの気遣いだった。
余命宣告をされたとは言え、一応まだ一年はある。本当に会わなくていいのだうか。
まぁ――自分が父の立場なら、近くにいる姉でも連絡はしないかもしれないけど――――。
母は粛々と、父の兄弟、親戚に連絡を取り始めた。
田舎のお兄さんたちはまだまだ元気にされている分、自分たちより若い下の兄弟が先立っていくことに悲しんでいた。連絡してから数日後、お見舞金を送ってくれる人もいた。
姉夫婦にも連絡した。
私と姉は互いの連絡先を教え合っていないから、姉との連絡は毎回母がする。
自分たち親が、こんな状況でも歩み寄るきは一切ない。思えばここ三年くらい、顔を合わせていないかもしれない――――。
母の話によると、病院は姉の家の方から割と近かったのもあって、早々に父の見舞いに行くと言っていたそうだ。
姉は昔から、お父さんっこだった。ソフトボールのキャッチボールを一緒に良くしていたのを思い出す。
直ぐに感情的になって、悲しいことがあると号泣する姉。今回のことを冷静に受け止められるだろうか――――。
父が搬送され、病院に入院した翌日――――書類と必要なものを用意して、私と母は病院に向かった。
昨日は突然だったのもあって、電車で行く方が確実だと思ったけど、今日は車で行くことにする。荷物も多いし、今後のためにも道を覚えておいた方が良いだろうし。
順調に進めば、車での移動は三十分程度だった。母は電車の乗り換えが苦手だから、運転の方がまだ楽みたいだった。
新たに覚えることが父の見舞いなだけに、別に感動がある訳ではない。
病院に書類を渡し終わり、父の顔を見に行く。
「気分は、どう?」
「あぁ、かなり落ち着いたよ。悪いな~手間かけさせて」
話し掛けると父は飄々としていて、昨日より容体も落ち着き表情が明るくなっていた。
ずっと怠かった原因も分かり、薬も投与されて、多少体調は楽になったのだろう。一時の安らぎを得られた効果は大きい。
だからって命の期限が、延びることはないんだよね――――。
父の様子も見たし、この日は早々に帰ることにした。
その後、私と母は後退で父の見舞いに行くことにした。
この頃私はシフトの自由が利く派遣業に仕事を変えていたが、頻繁に休むと自分の収入がきつくなってしまう。
それでも最初の方は、割と頻繁に顔を出しに行っていった。
「毎日来なくても、大丈夫だぞ!」
父も一応気を使っているのか、そんな風に言ってはいるが、お喋り好きの父の本心とは思えなかった。
本音を言えば、時間と体力を割かれるのは痛かった。様子を見に来ても、長居する訳でもないし、病院に居れば安心なのだから。
でも、余命を宣告されているからだろうか――――なるべく来てあげた方が良いような気がしたんだと思う。
私は高卒で、金融機関に内定した。不景気に中、奇跡的だったと思う。
自分的には就職を願っていた親の顔を立てておけばいいと思って、一か所しか就職活動をしなかったのが、試験も受かり面接も通って、とんとん拍子で決まってしまった。
受かるとは思っていなかったのだ。落ちたら念願通りフリーターになって、絵を描ける環境を整えようと思っていたのに――――。
他にやりたいことがあった私は、折角決まった安定した仕事への情熱は然程なく、チャンスがあったらいつでも辞めるつもりでいた。
だけど――――現実は甘くない。確実に得られる収入は、惰性の芽を成長させていく。
仕事が忙しくなってもカレンダー通りの休みなのもあって、全く絵が描けない環境でもなかったのが余計に目標を霞ませた――――。
ただ、せめて一人暮らしはしたかった。その旨、両親に伝えたら快く承諾してくれ、物件も駅に近くて安い所を父が早々に見付けてきた。こういう時は、顔の広さは役に立った。
一人暮らしを始めると、殆ど実家に戻らなくなった。休みはプライベートに時間を割きたかったし、人生で初めての一人でいられる空間を確保できたのだ。
ずっと苦しめられていた抑圧から解放されたのだから、気分は最高だ――――。
正月くらいしか帰らなくなった私に、両親は特に何も言って来なかったから、頻繁に連絡することもなかった。
それくらい疎遠にしていた。
寧ろ一生、会えなくなっても構わないと思っていた――――のに――。
実際に本当に会えなくなると思うと、凍てついた心でも少し戸惑う――――。
だが姉にも子供が生まれ、私は叔母さんになり、時たま子供を連れて実家に帰ってくる姉と否応なしに会う機会もあった。
だからって、深まった溝が埋まる訳ではないけれども――――。
「保証人、恵里の名前で大丈夫よね」
「うん。どうせ連絡するでしょ。その時、名前だけ借りたっていっておけば」
入院の手続きの書類欄には、保証人の名前も必要だった。別の住所の人じゃないといけないらしく、否応なしに姉の名前を書くしかない。
支払いを踏み倒すつもりはないけど、少しでも姉が費用を負担してくれることはないだろう。
それでも保証人欄に姉の名前を書かねばならないのは、理不尽にも思えた。
「お父さんの田舎にも連絡しないとだよね」
「うん……」
父からは田舎の兄弟には見舞いに来なくてもいいように、伝えてくれと言われている。
六人兄弟で父は下から二番目だ。存命のお兄さんたちはもう高齢だから、わざわざ九州から関東に来て貰うのは気が引けると、父なりの気遣いだった。
余命宣告をされたとは言え、一応まだ一年はある。本当に会わなくていいのだうか。
まぁ――自分が父の立場なら、近くにいる姉でも連絡はしないかもしれないけど――――。
母は粛々と、父の兄弟、親戚に連絡を取り始めた。
田舎のお兄さんたちはまだまだ元気にされている分、自分たちより若い下の兄弟が先立っていくことに悲しんでいた。連絡してから数日後、お見舞金を送ってくれる人もいた。
姉夫婦にも連絡した。
私と姉は互いの連絡先を教え合っていないから、姉との連絡は毎回母がする。
自分たち親が、こんな状況でも歩み寄るきは一切ない。思えばここ三年くらい、顔を合わせていないかもしれない――――。
母の話によると、病院は姉の家の方から割と近かったのもあって、早々に父の見舞いに行くと言っていたそうだ。
姉は昔から、お父さんっこだった。ソフトボールのキャッチボールを一緒に良くしていたのを思い出す。
直ぐに感情的になって、悲しいことがあると号泣する姉。今回のことを冷静に受け止められるだろうか――――。
父が搬送され、病院に入院した翌日――――書類と必要なものを用意して、私と母は病院に向かった。
昨日は突然だったのもあって、電車で行く方が確実だと思ったけど、今日は車で行くことにする。荷物も多いし、今後のためにも道を覚えておいた方が良いだろうし。
順調に進めば、車での移動は三十分程度だった。母は電車の乗り換えが苦手だから、運転の方がまだ楽みたいだった。
新たに覚えることが父の見舞いなだけに、別に感動がある訳ではない。
病院に書類を渡し終わり、父の顔を見に行く。
「気分は、どう?」
「あぁ、かなり落ち着いたよ。悪いな~手間かけさせて」
話し掛けると父は飄々としていて、昨日より容体も落ち着き表情が明るくなっていた。
ずっと怠かった原因も分かり、薬も投与されて、多少体調は楽になったのだろう。一時の安らぎを得られた効果は大きい。
だからって命の期限が、延びることはないんだよね――――。
父の様子も見たし、この日は早々に帰ることにした。
その後、私と母は後退で父の見舞いに行くことにした。
この頃私はシフトの自由が利く派遣業に仕事を変えていたが、頻繁に休むと自分の収入がきつくなってしまう。
それでも最初の方は、割と頻繁に顔を出しに行っていった。
「毎日来なくても、大丈夫だぞ!」
父も一応気を使っているのか、そんな風に言ってはいるが、お喋り好きの父の本心とは思えなかった。
本音を言えば、時間と体力を割かれるのは痛かった。様子を見に来ても、長居する訳でもないし、病院に居れば安心なのだから。
でも、余命を宣告されているからだろうか――――なるべく来てあげた方が良いような気がしたんだと思う。
私は高卒で、金融機関に内定した。不景気に中、奇跡的だったと思う。
自分的には就職を願っていた親の顔を立てておけばいいと思って、一か所しか就職活動をしなかったのが、試験も受かり面接も通って、とんとん拍子で決まってしまった。
受かるとは思っていなかったのだ。落ちたら念願通りフリーターになって、絵を描ける環境を整えようと思っていたのに――――。
他にやりたいことがあった私は、折角決まった安定した仕事への情熱は然程なく、チャンスがあったらいつでも辞めるつもりでいた。
だけど――――現実は甘くない。確実に得られる収入は、惰性の芽を成長させていく。
仕事が忙しくなってもカレンダー通りの休みなのもあって、全く絵が描けない環境でもなかったのが余計に目標を霞ませた――――。
ただ、せめて一人暮らしはしたかった。その旨、両親に伝えたら快く承諾してくれ、物件も駅に近くて安い所を父が早々に見付けてきた。こういう時は、顔の広さは役に立った。
一人暮らしを始めると、殆ど実家に戻らなくなった。休みはプライベートに時間を割きたかったし、人生で初めての一人でいられる空間を確保できたのだ。
ずっと苦しめられていた抑圧から解放されたのだから、気分は最高だ――――。
正月くらいしか帰らなくなった私に、両親は特に何も言って来なかったから、頻繁に連絡することもなかった。
それくらい疎遠にしていた。
寧ろ一生、会えなくなっても構わないと思っていた――――のに――。
実際に本当に会えなくなると思うと、凍てついた心でも少し戸惑う――――。
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