滅亡の畔

藤見暁良

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二章

◇欲求◇

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 一日中、復讐方法ばかり考えている――――。
 ずっと脳内を復讐一色にしていると、それが当たり前のような感覚になってきた。

 あぁ、皆はどんな作戦を考えているんだろう。一緒に作戦を練れたら盛り上がったかもしれない――――。
 でもこれは、修学旅行の観光地巡りを決めるのとは訳が違うしな。
 流石に、和気藹々と決めることじゃないか。

 プリンを食べてから、数パターン考えた。再度これで、岩鏡さんに提出してみよう。
 また没になったとしても、案をくれるかもしれないし。
「もし不採用が続いたら、クビにされたりしない?」
 岩鏡さんに「こいつ使えない」とか思われたら、立ち直れないかも――――。

 成人式まで時間もないし、時間との勝負でもある。
 この機会を逃したら手間が掛かってくるし、リスクも高くなる可能性なるだろう。
 一気に全員、奈落に突き落としてやる――――。


 ◇ ◇ ◇


「良いと思いますよ。大胆且つ不敵な感じがして面白いです」
「本当ですか! 岩鏡さんにそう言って貰えると、自信が持てます」
「恐れ多いです。では早速、必要なものと段取りが上手くいくように準備いたしましょう。シスル様の移動と宿泊先の手配も致します」
「あ、はい。宜しくお願いします」

 岩鏡さんの同意を得られて、嬉しさもやる気も倍増する。これから行おうとしていることは『大量復讐』なのに、自然と口元に笑みが浮かんでしまう。
 ニヤニヤしているのを岩鏡さんに悟られないように、両手で口を覆っていると、何か察したのか岩鏡さんの表情が少し柔らかくなった。

「頑張られましたね」
「え……」
「想像以上で、正直驚きました。とても嬉しく思います……」
 ここまで岩鏡さんに褒めて貰えるなんて――――感動で目頭が熱くなりそうだ。
「きっと主も、大変喜ばれるかと思います」
 そう付け加えた岩鏡さんの表情は、主に見せた時の特別な笑顔・・・・・を浮かべた。

「……恐れ多いです」
 そっか――――主のためなんだ――――。
 岩鏡さんが心を許すのは主だけだと分かっていても、ちょっと――寂しく感じる。

 もっと認められたい――――。
 少しでも役に立ちたい――――。
 私にも、微笑んで――――欲しい。

 この感情が何なのかは、今の自分には上手く言えないけど、ようやく自分らしく・・・・・呼吸出来る場所を失いたくなかった。

 今までに感じたことのない感情が、胸の中でグルグルと渦巻く。今口を開いたら、変なことを吐き出しそうで――――下唇を噛んで、口を真一文字に結んだ。
 肩を竦めて、俯き加減になっている私のパーソナルスペースに、岩鏡さんが踏み込んでくることはしない。
 それが気遣いなのかもしれなけど――――この距離が縮まることは、これからもないような気がした。
 岩鏡さんは、「後程また参ります」と端的に言い残し、無駄のない動きで部屋を出ていった。

「はぁ……」
 更に重たそうな二酸化炭素が、胸の奥から吐き出される。
 第一関門を突破した安堵感やら、脳細胞を酷使した疲れやらと入り混じって、気力の電池が切れたみたいに全身の力が抜けていく。
 誰からも見られていないのをいいことに、ソファーへだらしなく倒れ込む。
 岩鏡さんが戻ってくるまで、充電しておこう――――こんな姿、絶対見せられないもの。
 緊張が解けたせいか、眠気まで襲って視界がぼやけだす。

 あぁ――とうとう『交換復讐』の幕開けなんだ。
 こんなにのんびりしていられるのも、今の内だけかな。
 それにしても、このソファー本当に気持ちがいい――――。
 今味わえる細やかな幸福を感じながら、しばしの安眠を願った――――。


 ◇ ◇ ◇

 ――――どれくらい眠っていたのだろう。

 ピンポーン! 
 やたら響く機械音は、問答無用で私を眠りの底から引き上げる。条件反射の勢いで、やたら大きな声で返事をしてしまった。
「はいっ!」
 インターフォンは、すっかり目覚まし時計と化しそうだ――――。

「シスル様、入っても宜しいですか?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
「失礼致します」
 カチャ―ドアを静かに開けて入ってきた人物は、数分前にあった人と同じなのに、何故か緊張してしまう。
 人付き合いが慣れてないもんな。地元でこんな綺麗な男性、居なかったし。
 ――――自分的には、そう理由付けることにした。


「明日の朝一で名古屋に向かって下さい。新幹線の席は取っておきました。基本現地での行動はお一人です。執行日当日までに今回の対象者の行動など、探って頂いても構いませんが、シスル様の素性や顔など、極力明かさないようにお願い致します」
 岩鏡さんは、機械的な単調な口調でこれからのスケジュールを伝えてくる。さっきのインターフォンの方が、温かみすら感じるくらいだった。
「はい……」
「執行現場の確認もしておいた方が良いでしょう」
「え……もう場所を用意して頂いたんですか?」
「はい。資料は携帯に送信してありますので、後程ご確認下さい」
「はい。ありがとうございます」

 あの計画を確実に実行できる現場・・をこうも早く見付けられるって、今更ながら本当に凄い組織力だな――――。
「あの……」
「大丈夫ですよ。現場は人里離れた場所ですので、今回の計画は実行しやすいかと。現場へ下見は、現地の護衛を付けますのでご安心下さい」
「護衛! そこまでして下さるんですか?」
「シスル様の計画を無事に遂行するためにも、尽力を尽くさせて頂きます」
 そう言って岩鏡さんは、相変わらず綺麗な黒髪を絹糸のように上品に揺らしながら、丁寧に一礼をした。その姿さえも芸術品に見えてしまうが、発せられた言葉に嘘偽りはないと信じられた。

「頑張ります……」
 護衛がいてくれるのは心強い。岩鏡さんみたいに、機械的な人かもしれないけど、私の復讐計画・・・・は、正直人手は掛かってしまう。
 場所、人材、道具――――。沢山の準備が必要なのに、この短時間で全て揃えてくれたのだろうか。
 時計を見ると、岩鏡さんが一旦出て行ってから戻ってくるまで、二時間しか経っていなかった――――。

 ゾクゾクする――――。
 部屋に空調は、適温に調節されているのに、全身が妙に寒い。

「本日これからは、明日へ向けて体調を整えておいて下さい。決して夜更かしなどしないで下さいね」
 最後に締め括った岩鏡さんの言葉は、少し冗談ぽくも聞こえたが――――

『失敗は許されない』――――そう囁かれたように、耳の奥で感じた――――。

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