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三章
◆快感◆
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「ではシスル様、成功を祈っております」
「ありがとうございます……。ご期待にお応え出来るように、頑張ります」
それ以上余計なことは言い残さず、美しい黒髪を風に靡かせ、男性は主の元へと戻っていく――――。
私はしばらく、その場で佇んでいた。
精巧に作られた人形のように、人間離れした造形美を持つ男の八頭身の身体が視界から消えるまで見届けていたのだ。
岩鏡さんは東京駅まで送って送ってくれたけど、私が新幹線の改札を通る所までは付いてきてはくれなかった。
「余り人目に付かない方がいいしね……」
自分は簡単に人混みに紛れ込めるけど、岩鏡さんは否応なしに目立ってしまう方の人だ――――。
ある意味、復讐を実行するのは不相応なのだろう。それに比べたら、私は何処に行っても目立たない。
影が薄いことが役に立つ時もあるんだ――――。口端を少し上げて、目を細める。
そんな風に自分の胸に言い聞かせながら、東海道新幹線の改札に向かった。
東京から名古屋までは二時間も掛からない。
東海道新幹線も初めて乗るけど、こんなに早く到着するのには驚いてしまう。ちょと居眠りするのも乗り越してしまいそうで、出来そうになかった。
「朝も早かったし、お弁当でも食べようかな……」
いよいよ現地に出発だと思うとやはり緊張してしまい、昨晩はしっかり眠れていないし今朝は何も食べていない。
朝早々にあの部屋を出て岩崎さんと二人っきりだったし、ずっと気が張っていたから今一人の状況になって、ようやく気持ちが落ち着きた。
名古屋に到着したら、実行日までやることは沢山あるし暇ではないだろう。
この二時間足らずの時間が、確実に安息を味わえる貴重な『非日常』になりそうだ――――。
「美味しい……」
奮発して、お高めのお弁当を選んだが、駅弁がこんなに美味しいとは知らなかった。種類も沢山あったな――――などと選んでいた時のことを思い出すと、少し気分が高揚する。
修学旅行も行かなかったし、地元でも殆ど引きこもっていたから、他の土地の料理を味わえること自体貴重な体験なのだ。
いい年して経験値が低いことが恥ずかしくもあるけど、今の自分だからこそ感激も倍増していた。
「名古屋はどんなお弁当があるのかな」
これから名古屋に向かっている最中なのに、もう帰りのお弁当を気にしてしまう。
あの部屋に戻っても、駅弁リクエストしても大丈夫かしら? プロジェクト終了後も生活は保障してくれるとは言ってくれていたからって、駅弁を頼んでもいいことになるだろうか?
余り調子にのらないようにしておこう。岩崎さんに悪いイメージを持たれたくはないし――――。
一応帰ってからの自制心を保つことにして、細やかに駅弁チェックをしてみようと試みる。バッグからスマホを取り出しディスプレイを覗くと、今更ながらプロジェクト用のスマホだったことに気付き、一人で苦笑いをした――――途端、何とも言い難い感覚が、重石のように圧し掛かってきた。
――――てか、無事に帰れるのかな?
胸の奥にもくもくと、黒い雷雲みたいな不安感が広がっていく。
帰りたい――絶対に帰りたい――――。
必ず復讐を成功させて、安息が約束されたあの部屋に、主たちの元へ必ず戻るんだ――――。
スマホを胸元に当てて、祈るように両手でギュッと握りしめた。
私の帰る場所は、もうアソコしかないのだから――――。
◇ ◇ ◇
感情が一気に昂ったせいか、しばらく放心状態でいた。
気が抜けたようにぼんやりと窓を眺めていたけど身体は正直で、空腹を主張してきた。それに他にやることもなかったので、素直に胃袋の訴えを聞くことにして、お弁当を綺麗に平らげた。
お弁当を食べ終わっても、まだ名古屋までの到着には時間が余っている。与えられたスマホで音楽を聴くことも出来るか分からないし、読書用の本を持ってきてもいない。
復讐計画書は人目につく所では、見ないように言われているし、あと思い付くのは居眠りすることくらいだった。
避けようと思っていても、自然と寝てしまうかもしれない可能性もなくはないと思い、念のため到着予定時間の十分前にアラームが鳴るように掛けておく。
「目覚まし機能は使っても大丈夫そうね」
復讐専用スマホだけに、自分のものとは同じように扱い難い。ちょっとしたジレンマを感じながら、ゆっくりと目を閉じる――――。
真っ暗になる視界。
瞼の裏が映画館のスクリーンかのように、脳裏の映像が流れていく――――。
それはこれから主演となる者たちの顔写真だった。
あぁ――彼等たちは、私の描いた脚本と演出で、一生忘れられない『思い出』を作り上げるのだ。
どんな表情を見せるのだろう――――。
どんな風に叫び散らすだろう――――。
どれだけ泣いて、どこまで――――絶望を味わうだろうか――――。
何度も繰り返しイメージした場面が、大きなパノラマになって瞼の裏に広がっていく。
それと同時に脳が一瞬真っ白なって、全身が小刻みに震えた――――。
「あっ……」
寒気にも似たような感覚が背中を通って衝き上がったてきたと思ったら、今までに感じたことないような熱がじんわりと身体を疼かせた。
「ひゃっ!」
反射的に、閉じていた目を見開いた。
何だろう、この感覚――変な気分だけど――――気持ちがいい。
経験値の低い自分には、この不思議な恍惚感が何なのかは分からなかった。
ただ、凄く心が満ち足りている。
復讐場面をイメージしただけで、凄く興奮する。
こんなにも幸福感を得られるなら、実際現場を目の当たりにしたら、私はどうなってしまうんだろう?
深呼吸して、ゆっくりと目を閉じる――――。
もう一度、この快感を味わいたくて、復讐計画のイメージを膨らませていこうとしたが――――今度はまんまと、睡魔に飲み込まれてしまった。
「ありがとうございます……。ご期待にお応え出来るように、頑張ります」
それ以上余計なことは言い残さず、美しい黒髪を風に靡かせ、男性は主の元へと戻っていく――――。
私はしばらく、その場で佇んでいた。
精巧に作られた人形のように、人間離れした造形美を持つ男の八頭身の身体が視界から消えるまで見届けていたのだ。
岩鏡さんは東京駅まで送って送ってくれたけど、私が新幹線の改札を通る所までは付いてきてはくれなかった。
「余り人目に付かない方がいいしね……」
自分は簡単に人混みに紛れ込めるけど、岩鏡さんは否応なしに目立ってしまう方の人だ――――。
ある意味、復讐を実行するのは不相応なのだろう。それに比べたら、私は何処に行っても目立たない。
影が薄いことが役に立つ時もあるんだ――――。口端を少し上げて、目を細める。
そんな風に自分の胸に言い聞かせながら、東海道新幹線の改札に向かった。
東京から名古屋までは二時間も掛からない。
東海道新幹線も初めて乗るけど、こんなに早く到着するのには驚いてしまう。ちょと居眠りするのも乗り越してしまいそうで、出来そうになかった。
「朝も早かったし、お弁当でも食べようかな……」
いよいよ現地に出発だと思うとやはり緊張してしまい、昨晩はしっかり眠れていないし今朝は何も食べていない。
朝早々にあの部屋を出て岩崎さんと二人っきりだったし、ずっと気が張っていたから今一人の状況になって、ようやく気持ちが落ち着きた。
名古屋に到着したら、実行日までやることは沢山あるし暇ではないだろう。
この二時間足らずの時間が、確実に安息を味わえる貴重な『非日常』になりそうだ――――。
「美味しい……」
奮発して、お高めのお弁当を選んだが、駅弁がこんなに美味しいとは知らなかった。種類も沢山あったな――――などと選んでいた時のことを思い出すと、少し気分が高揚する。
修学旅行も行かなかったし、地元でも殆ど引きこもっていたから、他の土地の料理を味わえること自体貴重な体験なのだ。
いい年して経験値が低いことが恥ずかしくもあるけど、今の自分だからこそ感激も倍増していた。
「名古屋はどんなお弁当があるのかな」
これから名古屋に向かっている最中なのに、もう帰りのお弁当を気にしてしまう。
あの部屋に戻っても、駅弁リクエストしても大丈夫かしら? プロジェクト終了後も生活は保障してくれるとは言ってくれていたからって、駅弁を頼んでもいいことになるだろうか?
余り調子にのらないようにしておこう。岩崎さんに悪いイメージを持たれたくはないし――――。
一応帰ってからの自制心を保つことにして、細やかに駅弁チェックをしてみようと試みる。バッグからスマホを取り出しディスプレイを覗くと、今更ながらプロジェクト用のスマホだったことに気付き、一人で苦笑いをした――――途端、何とも言い難い感覚が、重石のように圧し掛かってきた。
――――てか、無事に帰れるのかな?
胸の奥にもくもくと、黒い雷雲みたいな不安感が広がっていく。
帰りたい――絶対に帰りたい――――。
必ず復讐を成功させて、安息が約束されたあの部屋に、主たちの元へ必ず戻るんだ――――。
スマホを胸元に当てて、祈るように両手でギュッと握りしめた。
私の帰る場所は、もうアソコしかないのだから――――。
◇ ◇ ◇
感情が一気に昂ったせいか、しばらく放心状態でいた。
気が抜けたようにぼんやりと窓を眺めていたけど身体は正直で、空腹を主張してきた。それに他にやることもなかったので、素直に胃袋の訴えを聞くことにして、お弁当を綺麗に平らげた。
お弁当を食べ終わっても、まだ名古屋までの到着には時間が余っている。与えられたスマホで音楽を聴くことも出来るか分からないし、読書用の本を持ってきてもいない。
復讐計画書は人目につく所では、見ないように言われているし、あと思い付くのは居眠りすることくらいだった。
避けようと思っていても、自然と寝てしまうかもしれない可能性もなくはないと思い、念のため到着予定時間の十分前にアラームが鳴るように掛けておく。
「目覚まし機能は使っても大丈夫そうね」
復讐専用スマホだけに、自分のものとは同じように扱い難い。ちょっとしたジレンマを感じながら、ゆっくりと目を閉じる――――。
真っ暗になる視界。
瞼の裏が映画館のスクリーンかのように、脳裏の映像が流れていく――――。
それはこれから主演となる者たちの顔写真だった。
あぁ――彼等たちは、私の描いた脚本と演出で、一生忘れられない『思い出』を作り上げるのだ。
どんな表情を見せるのだろう――――。
どんな風に叫び散らすだろう――――。
どれだけ泣いて、どこまで――――絶望を味わうだろうか――――。
何度も繰り返しイメージした場面が、大きなパノラマになって瞼の裏に広がっていく。
それと同時に脳が一瞬真っ白なって、全身が小刻みに震えた――――。
「あっ……」
寒気にも似たような感覚が背中を通って衝き上がったてきたと思ったら、今までに感じたことないような熱がじんわりと身体を疼かせた。
「ひゃっ!」
反射的に、閉じていた目を見開いた。
何だろう、この感覚――変な気分だけど――――気持ちがいい。
経験値の低い自分には、この不思議な恍惚感が何なのかは分からなかった。
ただ、凄く心が満ち足りている。
復讐場面をイメージしただけで、凄く興奮する。
こんなにも幸福感を得られるなら、実際現場を目の当たりにしたら、私はどうなってしまうんだろう?
深呼吸して、ゆっくりと目を閉じる――――。
もう一度、この快感を味わいたくて、復讐計画のイメージを膨らませていこうとしたが――――今度はまんまと、睡魔に飲み込まれてしまった。
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