滅亡の畔

藤見暁良

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三章

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 名古屋到着のアナウンスが流れる。
 タイマーのお陰もあって、乗り越すこともなく無事に付けて安堵した。
 ただ乗り物に乗車しているだけのことなのに、慣れていなことをするのは緊張する。
 新幹線の改札口を出て見渡すと、東京駅程複雑ではなさそうだが、やはり大きい。
 ホテルのチェックインまで時間があるから、色々見てみたいとも内心では思うが、なるべく人目に付かない行動をしないといけないから、諦めるしかない。
 土地勘もないし、駅付近のカフェに入ることにした。

 無難にチェーン展開しているカフェを見付けた。
 栄えている所では見かけるカフェでも自分の地元にはなかったし、東京に来てからはずっと閉じこもっていたから、お洒落なカフェに入るなんて思いもしない。
 遊びで来ている訳でもないし、これから自分がやろうとしていることを考えたら、浮かれることは出来なかった。

 慣れていない口調で、注文をする。何となく目に付いた蜂蜜入りのカフェ・オレにしてみた。
 中身を溢さないように、カップを載せたトレーを慎重に運ぶ。
 なるべく人目に付きたくないのもあったが、今回の計画をおさらいしておきたいのもあって、壁際の隅の席に座った。
 一人で座るなら、特等席的な場所が空いていてラッキーだ。それだけでも気持ちが上向きになる。
 荷物を置いてコートを脱ぐ。一息ついて、ようやくハニーカフェ・オレを一口飲む。これが凄く美味しくて感動してしまい、思わず言葉が口に出そうになったが、慌てて言葉を飲み込んだ。
 『普通』に地元で生活していたら、飲めなかった・・・・・・かもしれない。
 こうなってみて味わえる美味しさなのも、皮肉なものだよね――――。

 口端の片方を上げて、小さく笑う。
 悠長にそんなこと、考えている場合でもないか――――。
 もう一口カフェ・オレを飲み、ざっと辺りを見渡す。隣の席とも距離があるから、突然覗かれることもないだろう。ここでスマホを見ても支障がなさそうだ。
 それでも周りに意識を配りながら、データを確認する――――。

『W』を虐めていた主要メンバーは西村巽を筆頭に、ほぼクラス全員だ。
 中には直接関与していないけど、自分たちが巻き込まれるのを恐れて、見てみないふりをしていた連中も今回のターゲットになっている。
 直接手を出していなくても、無視していれば立派な虐め・・だ――――。
 私と違うのは、学校のクラス数が多いことだった。
 だからなのか、虐めはクラスの中だけで行われていたようだ。私みたいに学年全員じゃない。それが却って悪質に思えた。
 クラス全員が、結託しているということだろう――――。

 特に悪質なのは男子のグループ。
 カツアゲしていたグループと――――性的暴行を加えていたグループ。
 敢えて分かれているのも、作戦だったんじゃないか。
 そして女子も、虐めの方法でグループが分かれている――――。
「何で……」――――ここまで徹底しているんだろう?
 また吐き出しそうになった言葉を口を結んでき止めた。

 時間が無駄にあるせいか、なけなしの頭でも色々考えてしまう。
 最初に切っ掛けを作ったのは、西村なのか?
 何で西村は『W』を虐めのターゲットにしたのだろう?
 弱い立場の者を作ることで、自信の存在の大きさをアピールでもしようとしたのか?
 ストレス発散――――とか。
 ただの自己満足的な、快楽行為――――?

「くっそ……」
 流石に今度は我慢が出来なくて、蚊の鳴くような声で怒りを漏らす。
 理由はどうであれ、『W』が苦しい思いをしたのは変わらない。
 報告書を読めば読むほど、辛くなる――――。

 スマホの画面を見えないように下向けて、テーブルの上に置く。両手の指を交差して額に当て、俯き加減で目を閉じた。
 脳裏に浮かぶのは、『W』になった――――。

 イメージをする――――。
 ――――人気のない体育館倉庫。
 外では数名の男子が、遊んでいるふりをして見張りをしている。
 扉の中で、西村と男子グループの連中がニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべて生贄をなぶり出す。
 生贄のわたし・・・に西村が言う。
「制服、脱いで下着姿になれよ」
『嫌だ』――――心の中で叫んでも、無駄。わたしは命令のまま、震える手で制服を脱ぎ始めた。

 恐怖心から、ブラウスのボタンが上手く外せないでいるわたしに、西村は苛立って声を張り上げる。
「遅っせえんだよ! 早く脱げ!」
 わたしは返事の代わりに、目から大粒の涙を落とした。

 ジャケット、ベスト、ブラウス――――。衣類が無造作に、重ねられていく。
 上半身はキャミソール姿になった。次はスカートだ。
 いつもは簡単に外しているホックが取れない。それくらい手が震えているのだ。
 怖い、怖い、怖い――――!
 お願いだから、もう止めて――――そう言って土下座しようとしたが、それすらも出来ない。

 両脇から男子二人に腕を掴まれた――――。

 手すら動かせない状態になった。
 青ざめた顔で西村を見ると、面倒臭そうに舌打ちをする。
「仕方ねえな。時間がないから、今回はこのままでいいや」
 そう言い終わるや否や、キャミソールと下着の肩紐を一緒に掴んで引き摺り下ろした。

 一瞬、何が起きたか理解できなくて、頭が真っ白になる。同時に言葉も失ったが、涙も引いた。
 ただ聞こえてくるのは、男子たちの嘲り笑い――――。
「あ~はっははは! おまえ胸小さいな。大きくするために揉んでやるよ」
 な、なに? 何言ってんの!
 反射的に逃げようとしても、男子に二人に掴まっていて逃げられる訳がなかった。抗った分、腕を掴んでいる手に力が加えられて痛い。
「何、抵抗する気? おまえにそんな権限ねえよ」
 西村の言葉に、愕然とした。
 こいつらは、わたしを人間扱いしていないんだ――――。

 絶望に固まっている私を嘲りながら、西村の両手が胸元に伸びてくる。その触手はボールでも掴むみたいに、膨らみを鷲掴みにしてきた。
 痛いっ! 食い込んでくる指の圧力に、激痛が走る――――。
 わたしの苦痛なんて、元より知る気もない西村は、力任せに膨らみを蹂躙する。苦しむわたしを見て、楽しそうに笑う男ども――――。

 怖い、辛い、逃げたい――――。
 お願い、誰か助けて――――――――。
 泣き叫びたくても、恐怖で喉の奥が渇いて声にならない。
「おい、おまえらも触れよ。俺は下の方を可愛がるからさ」
 西村の言葉に、見ていた男子が胸に勢いよく飛びついてきた。西村は意地悪い笑みを浮かべてしゃがみ込むと、いよいよスカートを脱がしに掛かる。
 ――や。嫌――――。
 止めてぇぇぇぇぇ――――――――!!


 ガッチャン!
「あっ!」
 陶器がぶつかり合う音が聞こえた瞬間、夢から覚めたように我に返った。
 報告書のままにイメージしただけなのに、悪い夢に魘された気分だ。全身に冷や汗を掻いている。
 コップが倒れたのかと思ったのか、音を聞きつけた店員が心配そうな顔で布巾を持ってきた。
「お客様、大丈夫ですか?」
「あ……すみません。うっかり手がぶつかってしまって……」
 違う――――『W』の恐怖にリンク・・・して身体が竦んだ反動で、テーブルをずらしてしまったんだ。
「自分でやりますので……」
 汚れたテーブルを拭いてくれようとした店員から布巾を借りて、零れた液体を消していく。

 想像以上だった――――想像以上に、苦しかった。
 でもこれは、まだほんの一部だ。『W』の受けた虐めはこんなものじゃない。
 さっき吹き出した汗を蒸発させるくらい、怒りで全身が熱くなる。
「絶対に……」――――許せない。

 全員必ず、地獄・・に突き落としてやる――――。

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