スカイブルーの夏

浅木

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第四話

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 昼休み。ようやく昼食にありつけると歓喜の声をあげながらぞろぞろと教室を出て行く生徒達。
 うちの学校は学食もあるから、今出て行ったやつらは学食で食べる組だ。オレと佐和は事前に昼飯を用意するから、教室で食べる組だな。
 学食で食べる生徒の方が多いから、この時間の教室は人気ひとけがまばらだ。
 
 席に余裕ができるから友達と食べるために空いた席に座るやつもいるけど、席が前後のオレ達にはあまり関係ない話だ。

 椅子の向きはそのままに、体だけ横向きにして座る佐和が、ビニール袋から見慣れたパンを取り出す。
 
「今日もコーンマヨなの?」
「そ」
「ほんと好きだよな。小学生から変わってないじゃん」
「そう変わらないでしょ。好きなものって」

 コーンマヨパンをかじりながら、焼きそばパンと牛乳をビニールから袋から取り出す。この二つも小学生の頃から変わらない組み合わせだった。
 
「はぁ~。やっと飯だ。腹減り過ぎて死にそー」

 ビニール袋を片手に、獅子倉が倒れこむようにオレの隣に座る。
 最初のうちは自分の椅子をわざわざここまで持って来てたけど、だんだんめんどくさくなったらしい。席の主にはちゃんと許可をとってるから大丈夫なんだそうだ。

 エネルギー切れを起こしてダルそうにしてる獅子倉に「お疲れ」と一声かけつつ、持参した弁当箱を机に広げる。
 白ご飯にウィンナー、卵焼き、野菜炒めとブロッコリー。そして唐揚げ。こいつは今日のメインらしく、シリコンカップぎゅうぎゅうに詰め込まれた唐揚げが、弁当箱の真ん中に堂々と置かれていた。
 
 大好物を目にした途端に腹の音が鳴りはじめる。昼時はただでさえ腹が減るっていうのに、それに加えて四時間目が体育だったからな。騒ぐ元気すらなくしてた腹の虫が大はしゃぎしてるんだろう。
 
「いただきます」

 両手をあわせて、まずは大好物の唐揚げから手を付ける。昨晩食べた時より、心なしか味が染み込んでる気がする。教室にレンジがないのが残念だ。
 
「彼女ができたら、弁当作ってもらうのが夢なんだよなー」

 コンビニのおにぎりを頬張りながら、獅子倉が突拍子もないことを言い出す。

「なんだよ急に」
「いや、誰かが自分のために弁当を作ってくれるって愛情感じるじゃん? それが彼女だったらもっとうれしいだろうなーって思ってさ」 
「確かに」
 
 シリコンカップに入った野菜炒めを口に運んで、ご飯も一口。
 
「佐和も、彼女ができたら弁当作ってもらいたいとか思ったりする?」

 そんなタイプじゃなさそうだなと思いつつも聞いてみる。丁度パンにかぶりついたタイミングだったみたいで、そのまま首を振った。

「やっぱりそうか」
「ん……空はどうなの?」
「オレはちょっと憧れるな。屋上で彼女の作ってくれた弁当を食べるなんて、めちゃくちゃ青春じゃん」

 そんな景色を思い描くだけで気分が弾む。そんなオレに冷めた視線を送る佐和が一言。

「うちの学校、勝手に屋上入れないじゃん」
「そうだよな……」
「うっ……」

 なぜか、会話に参加してなかった獅子倉までダメージを食らった声がする。やっぱりあいつも憧れてたんだな。
 小学生の頃は、中学に行ったら屋上へ自由に出入りできると思ってた。けど、実際は違った。普通に鍵を閉められてた。そりゃそうだ。いくらフェンスがあるって言っても生徒が落ちたら危険だし。
 でも、やっぱりどこか諦めきれない自分がいて、今の高校にほんの少しの希望を持って入った。当然、そんなオレの期待は打ち砕かれるわけだけど。
 佐和から改めて否定されることで、当時のショックがちょっとよみがえってきてしまった。
 
「お弁当作ってもらったら、あーんとかしてもらうつもり?」
「それは……」
 
 流石に恥ずかしいような。でも、一度は経験してみたい気持ちの方が勝って、こくりと頷いた。

「うわっ」

 シンプルに引かれた。泣いてもいいか?
 
「オレはちょっとわかるぞ」
 
 ポンと肩を叩いて慰められる。
 佐和の言いたいことはわかる。高校生にもなって夢を見過ぎって言いたいんだろうけど、やっぱちょっと憧れるじゃん。彼女にお弁当作ってもらって、あーんしてもらうとかさ。

「恋人といちゃいちゃしたいタイプなのはわかった」
「間違っちゃいないけども、なんか面と向かって言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
「好きなタイプも甘やかしてくれる年上だもんね」
「そ、そうだけどあんまり言うなって!」
 
 全て間違っていないからこそ、言葉にされると余計に恥ずかしくなってジタバタしてしまう。
 佐和が意地悪なことをいうのも、こうやってジタバタするオレの姿が見たいんだろうなっていうのはわかってる。だから、どうにか平静を保っていたいけど、警戒してることすらお見通しみたいで、いつの間にか手のひらの上で転がされてるんだ。それがちょっと悔しい。

 いつもはしないけど、今日はちょっと反撃してみようかな。

「そういう佐和はどんな子がタイプなんだよ」
「あ、それはオレも気になってた。どんな子が好みなんだ? 巨乳か? 背が高い子か? 脚がきれいな子か?」

 獅子倉が余計な追撃を始めて、なんともいえない不快感が胸の内に広がる。
 他の男友達とそんな話をするのはいいけど、その土俵に佐和が連れ込まれるのはあまりいい気がしない。

「それはお前の趣味だろ、おまえと一緒にすんなって」
「なんだよー。男はみんな好きだろ? そういうの。な?」
  
 獅子倉が同意を求めるように佐和の方を向く。それにつられるようにオレも佐和の方を向いたら、元々こっちを見てたみたいで目が合った。
 なんで獅子倉じゃなくてオレの方を見てたんだろう? そんな疑問に佐和が答えてくれるはずもなく、ストローを咥えたまま肩をすくめた。

「やっぱりそういうの好きだよな?」
「まったく理解できないって意味だけど」
「マジかよ!?」
「もうこの話は終わり。下ネタ苦手な人がすごい顔してるから」
「えっ、こんなの下ネタじゃなくね?」
 
 どうにも納得がいってなさそうな獅子倉がオレと佐和を交互に見やる。
 確かにこれくらいの話題なら下ネタとは思えないけど、さっきの話を蒸し返されるのも嫌で、今回は何も言わないことにした。 
 
「なんだよ、ちょっと前は普通に話してたじゃんかよー。三雲の前だといいこちゃんぶるのかよ、この猫かぶりめ」
「猫かぶりっていうか、そんな会話に佐和を巻き込みたくないんだよ」
「なんだそりゃ。別に女の子じゃないんだからよくね?」
 
 不満そうにつぶやいて、ペットボトルの水を煽る獅子倉。飲み干したペットボトルを机に置いて、口元を手で拭う。
 
 獅子倉の言い分もわかる。何ならオレも聞きたいくらいだ。他の男友達ならなんとも思わないのに、どうして佐和だけは嫌な気持ちになるのか。
 佐和は中世的な見た目をしてて、笑った顔はかわいいけど、女の子じゃないってことは十分わかってる。自分ではそのつもりだけど、心のどこかで女の子みたいな扱いをしてるところがあるのかな。
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