ネフィリム・エスカトロジー

弓チョコ

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第1章:不思議な妹

第2話 うっかりオカルト姉妹

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 全能の神を信じているだろうか。
 俺はあんまり、信じていない。日本人は大抵そうじゃないだろうか。

 じゃあ、オカルトは? 超能力とか魔法とか幽霊とか。

 俺はさ。
 実在が確認されたら、それはもうオカルトとは言えないと思ってる。

 貧血? で倒れていた女性は。
 女の子ふたりの『儀式』によって瞬く間に治った。

「……今なんとおっしゃいました?」
「え」

 修道服の女の子。そのひとりが、俺達に話し掛けてきた。

「『ふみつき』と、そう聞こえたのですが」
「……ええ。そうよ。こいつの名前」

 美裟が答える。ていうか礼儀正しい子だな。きちんと敬語を使ってる。それに落ち着いた態度だ。正にシスターさん、という感じ。
 美裟とは全然違う。

「……!」

 それを聞いて、その子は顔を明るくさせた。

 ん? あれ? シスター?

「セレネ、セレネ! この人だよっ」
「うそ! やった! 意外と早く見付かったね」
「ん?」

 そしてもうひとりを呼んで。
 ふたりが俺達の前に並ぶ。

 ……そっくりだな。双子だろうか。

 そこじゃなくて。
 シスターなのに。『その服のどこにも十字架が見当たらない』。
 そんなことあるだろうか? コスプレだとしても。
 いやまあ、別に絶対無いといけない訳じゃないだろうけど。なんでか、気になった。

「川上文月さん、ですよね?」
「えっ。そうだけど」

 礼儀正しい女の子が、自分の胸を手を当てた。

「川上アルティミシア。10歳です」
「はっ?」

 そして隣の子も。

「わたしは川上セレスティーネ。同じく10歳だよ」
「おっ?」

 川、上……?

「「初めまして。お兄ちゃんっ!」」

 ふたり同時に。

 俺をそう呼んだ。

——

「ちょっと、本当に言ってるの!?」

 美裟の声が高らかに響く。
 俺の妹を名乗るふたりが空腹を訴えたので、俺達は近くのファミレスへとやってきていた。

「本当です」
「ていうかお姉ちゃんは誰? フミ兄の彼女ー?」
「フミ兄……!?」
「違っ! ……ただの付き添いよ! 今日は!」

 それぞれがそれぞれの言葉に反応する。落ち着いた様子のふたりと、慌てる美裟。
 変な呼ばれ方をしてキョドる俺。

「美味しいね、アルテ」
「そうだね。日本のレストランは本当に」

 カチャカチャと音をさせながらバクバク食べている。ひとりはドリア。ひとりはパスタ。
 日本というか、イタリアン風のファミレスだが。
 そして、喉が渇いたと言ってぐびぐび水を飲んでいる。バクバク食べて、ぐびぐびだ。
 元気だな……。

「えーっと……」
「アルティミシア。アルテと呼んでください。お兄さま」
「お兄さま」
「わたしがセレスティーネ! セレネでいーよ! フミ兄!」
「フミ兄」

 落ち着いた敬語で話すのが、アルティミシア。食器の扱いも上品だ。
 反対に、たらこソースを頬に付けまくっているのがセレスティーネ。こっちは10歳相当な感じだな。

「そういえば、お兄さま宛の手紙があります」
「へっ」

 ドリアを綺麗に残さず食べ終えたアルテが、俺の目を見て言った。
 青い瞳。本当に俺の妹なのだろうか。

「詳しいことは全部書いてるそうです。ええと、荷物が大きいので少し待ってくださいね」
「……荷物?」

 アルテは何かを探すように周辺を見て。

「……ええと」

 まだパスタを食べているセレネを見て。

「……あれ?」

 首を傾げた。

「荷物なんてあったのか?」
「…………あ」

 無い。ていうかさっき会った時にも、大きな荷物なんて持ってなかった。

「ああああ——!」

 それに気付いたアルテが頭を抱えて叫んだ。

「セレネ! ちょ……! 荷物! アルテ達の荷物!」
「……はあ? アルテが持ってるんじゃないの?」
「飛行機から出るとき渡したでしょ!?」
「…………あれ、そうだっけ……」
「…………」
「…………」

 空気が凍った。

——

 即行で会計を済ませて、ファミレスから飛び出る。美裟とセレネはまだ食べてる途中だったが、仕方ない。一大事だ。
 この状況。説明されなければ意味が分からない。明らかに国籍の違うこのふたりが、純日本人顔の俺の妹とはとても思えない。

「どこで落とした!?」
「うわあん! 覚えてないよ——!」
「やばいです。あれにはお兄さまへの手紙は勿論、色んな『道具』が入ってます」
「道具?」
「着替えもだよー!」

 取り敢えず、さっきの女性が倒れていた場所へ戻る。当たり前だが、荷物は見当たらない。

「どんな鞄だ?」
「黒の、ダッフルバッグです。ひとつだけで、セレネと交代交代で持ってました」

 焦りを見せるアルテ。それでも冷静に説明してくれる辺り、この子は賢いんだろう。

「取り敢えずここから逆走だ。あと美裟は、落とし物で届けられてないか訊いてくれないか」
「ったく、しょうがないわね!」

 美裟はそう返事して、走り出した。

「ど、どっちから来たっけ、ねえアルテ!」
「——こっち!」

 慌てふためくセレネ。そりゃ、初めて来た空港でどこの道から来たとか覚えられないよな。
 即座に思い出して指示をしたアルテは凄い。
 俺とセレネはアルテに続いて走り出す。

——

 だが。

「……ゲートか」

 出口まで着いた。一直線で来たらしい。だが途中の道にダッフルバッグなんて目立つものは無かった。

「! 美裟!」

 スマホが鳴る。美裟からだ。

『届けられてはいないわ』
「……そうか。サンキュ。合流しよう」
「なんてっ?」
「落とし物コーナーには無いって」
「…………ぅぐ」

 その答えを聴いたセレネが、涙を浮かべる。

「うおっ」

 どうすりゃ良いんだ。こういう時。

「セレネ!」
「っ!」

 アルテが叫んだ。

「こうなったら、やるしかないよ!」
「う。……うん! でも、道具も何も無いよ」
「それでもやるの! あの荷物は、絶対要るんだからっ!」
「?」

 何かを覚悟したような表情。それに充てられて、セレネも唇をきゅっと結んで返事をした。
 そしてふたりは、向かい合って座り込んだ。

「何してるんだ……?」

 地べたに。空港のど真ん中で。
 ふたりとも女の子座りで。

「『探し』出します!」
「準備は良いよ! アルテ!」

 俺の脳に過るのは、さっき見た『儀式』。

「……——~~」
「~~~~……」

 同じだ。聞き取れない言葉? をぶつぶつと呟き始める。

「…………」

 女の子座り。両目を閉じて向かい合う。手は膝の隣に、軽く握って置く。じっと止まって、小さな口がただ小刻みに動いている。
 妙な光景だ。先程の治療? を見ていなければ即止めている。地べたに座り込むなんてはしたなく、汚い。
 だが。
 このふたりは真剣に『それ』を行っている。そんな雰囲気が滲み出ている。

「『見付け』たっっ!!」
「わっ!」

 吃驚して声が出てしまった。急に、セレネが目をカッと見開いて叫んだ。

「どうしよう!? もう空港から出そうだよ!」
「それでも追うしかっ!」

 その後即座に立ち上がったふたりは、走り出した。一直線に迷い無く、いずこかの方向へ。

「ちょ……待ってくれよ」

 俺も続く。まさか、どこにあるのか分かったのか?
 どんな原理で?

「フミ兄っ! 『にしぐち』に一番近い道は!?」
「にしぐち……西口か!? ならこっちだ!」
「お願い! 『黒い帽子で茶色のパーカー』の男の人だからっ!」
「そっ! そこまで分かるのか!」

 盗まれたって訳だ。置き引きか。
 とにかく、そいつが犯人らしい。俺はすぐさま、美裟に電話する。

「美裟っ! 西口に向かってくれ」
『は!? 今居るわよ! 拾得物管理所がこっちなんだから』
「マジか! 『黒い帽子で茶色のパーカー男』が持ってるらしい! 張ってくれ!」
『分かったわ!!』

 凄まじく良い声で返された。良かった。
 美裟が居たなら安心だ。
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