永遠の愛を手に入れよう

トマトマル

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プロローグ

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初夏の爽やかな風が吹いている。
季節のレモンの匂いと、国民の楽しげな声が風に乗って、彼女に届いた。




自室の小窓に寄りかかり、城下町を憂いに満ちた表情で見下ろす彼女は、
誉あるヴァルドレア王国のお姫様。


風に吹かれて、ゆらりゆらりと揺れる白金の艶やかな長髪。
透き通るような白い肌。髪色と同じ色をした長い睫毛が縁取るのは、夜の月をそのままこぼしたような大きな金色の目。スレンダーながらも、女性的な部分ははっきりと感じられる体型。

それらは、彼女を王国一の美女と謳うに相応しい美貌だった。


彼女は自身の美しさを十二分に知っていた。


齢四つで上手なおねだりの仕方。
齢五つで他人の利用の仕方。
齢六つで感情の操り方。
齢七つで国の操り方。


彼女の歳が十になった時、彼女は聡い故に気づいてしまった。
自分という人間の虚しさとやらに。


齢四つで邪魔だったのは''自分らしさ''
齢五つで邪魔だったのは''他人への思いやり''
齢六つで邪魔だったのは''自分の感情''
齢七つで邪魔だったのは''人間らしさ''



何かを手に入れる度、自分から何かが抜け落ちていく。
等価交換とは上手く言ったものだと彼女は思った。





しかし、彼女の美貌と能力を持ってしてでも、手に入らないモノがあった。


それは『永遠の愛』である。

彼女が三つのあどけない少女だった時、お母様が読んでくれた絵本に出てきたモノだった。
意地悪な継母や義姉にいじめられ、孤独だったお姫様が異国の王子様に助けられ、2人は恋に落ち、天使の祝福を受けながら結婚するのだ。2人は死ぬまで互いを愛し合った。

その頃の彼女は純真無垢だったのだ。
ありきたりな、2人の『永遠の愛』のストーリーに彼女は深く深く感動した。






彼女を愛した母が死んだ時、『永遠の愛』は儚いものだと知った。
彼女の父が死んだ母の代わりに隣国の若い姫を娶った時、『永遠の愛』は夢物語だと知った。




周りが彼女を可愛がる度に、彼女の笑顔は花のように綻び、彼女の心は氷のように冷たくなっていった。












彼女の成人式が近づく度に、縁談話が沢山沢山、舞い込んだ。

どんなに愛を囁かれても、どんなに豪華な贈り物をされても、彼女の心には響かなかった。



















しかし、彼女は知ってしまった。『永遠の愛』を。
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