永遠の愛を手に入れよう

トマトマル

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一章

誕生日パレードに行こう 1

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今日は、ヴァルドレア王国でたった一人のお姫様、
リリー・イーオスアンピール・ヴァルドレアの生誕祭が行われていた。

「おめでとう!リリー!!」

「お母様!!ありがとうございます!お体の調子はよろしいのですか?」

「ええ、あなたの誕生日だもの!ベッドでじっとしてられないわ!」

「お母様、大好き!!」

「私もよ、愛してるわ、リリー」


そう言って、二人は抱き合い、微笑みあった。
その光景は絵画の様に美しく、とてもとても、幸せそうだった。



「ところで、リリーはもう私のこと、''かかさま''と呼んでくれないの?」

「リリーはもう五歳になりましたわ!立派なレディーになる為、言葉遣いに気を遣わねばと思ったのです!」

「リリーなら、きっと立派なレディーになれるわ!」

でもまだ、リリーは五歳だ。
自分が五歳の時はこんなにしっかりとした言葉遣いはできなかっただろうと、思った。
急ぎすぎなのでは・・・?
今思えば、娘は子供らしい事はもうしていない。
人形遊びや、ごっこ遊びはもちろん、三歳の頃に絵本を読んであげたっきりになっている。

(私が急に、体を壊したから・・・、無理に大人になってしまったのかもしれない)


「そうだわ!お母様、紹介致します。私の執事として新しくやってきた、ローザネーラですわ!」

そうして、ドアから音もなく入ってきた少年に母は驚いた。

「まぁ、随分、綺麗な子ね!」

少年の姿は、リリーより少し背が高かった。
重々しい、首輪は取り外されていた。黒い隊服を着て、長かった髪の毛は短く切りそろえられ、
リリーと同じ金色の目は鋭いながらもどこか、不思議な光を宿している。
少し、病弱そうな真っ白な肌に朱を引いたような唇はよく映えていた。

「ローザネーラといったわね?」

「はい、王妃様」

「私の娘をどうかよろしくね」

「もちろんでございます。ヴァルドレア王国の神に誓って、我が主を守ってみせます」

その言葉を聞いて、安心した様に微笑んだ母を見て、リリーもホッと胸を撫で下ろした。

(良かった・・・!お母様はお父様のように、彼に不当な扱いをしたりしないわ・・・)

それは、母がローザの身分を知らないからかもしれないが、それでも母は彼自身を見てくれるだろう。



「あら・・・??ローザネーラってどこかで聞いた名前ね・・・?」

首をかしげる母を見て、リリーは大いに焦った。

(お母様に昔読んでもらった絵本のお姫様から取った名前だなんて、恥ずかしくて言えないわ・・・!!)

母にバレれば、子供っぽいと思われるかもしれない。
それに、ローザにバレたらもっと恥ずかしい。夢見がちだと思われるだろうし、何より、これから呼ばれる名前が絵本の中の可愛いお姫様と同じと知ったら・・・!!

(ダメだわ!絶対バレたくない・・・!!!)

「お、お母様!私、お父様と叔父様に挨拶してきますわ!」

「そう、いつでもいらっしゃい。美味しいお茶とお菓子を用意しておくわ!」

「はい!挨拶が終わって、城下町を回ったらまた来ます!」

お辞儀をして、部屋を出る。

「城下町のパレードに行くわよ、ローザ」

歩きながら、近くの衛兵にもうすぐ行くので馬車を用意してねと指示する。

「閣下に挨拶はしなくても・・・?」

「あら?あんなの嘘よ。私からあの人達に会いに行くのは呼び出された時だけよ?」

「しかし・・・」

「またローザの事で嫌味を言われたくないもの。会話するのも、面倒臭いしね」

「そうですか・・・」




自分の部屋に着くと早速、着替え始めた。
侍女達がリリーの周りに集まり、前々から決めてあったドレスとティアラを合わせてつけていく。


部屋の外で待つ、ローザは寂しがっていないだろうか、やはり私のように嘘を簡単につくような主は嫌なのではないか。悶々とした考えはリリーの中で凝り固まっていく。



リリーは昨日、隣室のベッドを用意させ、ローザを寝かしてから叔父の所へ会いに行った。
一国の宰相に連絡もなしに会いに行くことができるのは、多分、リリーだけだろう。
それだけ、叔父のドリエは自分のことを溺愛している。
そして、お得意のおねだりでローザの身分を隠蔽してもらった。
これからローザは王族直下の側近、最高位の近衛隊としてこれから雇うことにしよう。
思い立ったが吉日、リリーは新しい戸籍標本を制作して、詐称に気づかれないように巧妙に偽物のローザを造りあげていく。
黒い隊服を用意して、明日になったら、髪の毛を切ろう。
(パレードでお披露目して、誰にも文句を言わせないように手を回さないと・・・)

リリーの行動のそれは、五歳と考えれないような鮮やかな手口だった。きっと、どんな貴族にも負けないぐらい狡猾だろう。









「リリー様、出来ました。宝石の様に、いえ・・・宝石以上に綺麗で美しうございます」

鏡に写る、自分はまるでお人形のようだった。
煌びやかなドレスやティアラよりも遥かに、美しい。
そして、五歳ながらの可愛いらしさもあった。

腰まで伸ばした白銀の髪はキレイに纏めてアップして、頭の上には叔父様からのプレゼントである、ティアラをつけていた。
薄桃色のドレスはレースをふんだんに使い、真珠を所々にあしらっている。
薄く化粧をした頬はドレスと同じく、薄桃色に染っていた。


「ありがとう、もう下がってもいいわ。馬車の準備はできているのかしら?」

「はい。もういつでも出発できると連絡が入っています」

窓の外に見えた街は音楽と人々の笑顔で溢れていた。
そして、祭りの主役を今か今かと待っているのである。

(ここからが本番ね・・・)

グッと拳を握り、ローザを呼びに行く。
ドアを開けて、部屋を出ると、中年の男がどういう訳か、ローザに向かって激昴していた。

「お前のような卑しい身分で!!!リリー様に仕えるなんてっ、信じられない!!!!
リリー様を誑かしたのか!?その顔と体で!そうだろ!そうだよなぁ?だってお前は閣下のお気に入りだ!
その汚く穢れた身体なんて、リリー様に相応しくないんだよ!!!」

遥かに自分より年下のローザを次々と捲し立てる男は、リリーの目にたいそう無様に映った。

「何をしているのです?うちのローザが何か無礼をはたらいたのならば、私が謝罪致します」

そう言って、二人に歩み寄る。

(この男・・・昨日の・・・?)

「リリー様!!今この無礼者に説教をしていただけです。お気になさらないで下さい」

(やっぱり、昨日、私について来た男ね・・・)

この男は、お父様からローザを貰い受けた時、しつこく食い下がってきた。
お父様の側近の一人だ。いつも、ごまをするのに大変そうな男で、リリーにも気持ちの悪い笑顔と態度を向けてくる。

「ローザネーラは私の執事ですわ。何か問題があるのかしら?」

「し、しかし・・・この者は!奴隷の身です!首輪も外して王族直下の執事の象徴である服も着ています!
これは、あまりにも浅ましく、無礼ではありませんか!!
だから、私がこの身の程知らずを『つまり、あなたは、私がローザを執事に選んだ判断はおかしいと言いたいのね?』」

ニコリと可愛らしい笑顔を向けて、首を傾ける。

(確か、名前はビリアンだったっけ・・・?)

「い、いえ!リリー様には何も問題はありません。ただ、この者に問題があるのです!!」

「では、ローザ、あなたはこの男に何かしましたか?」

「いえ・・・何も」

「そう。なら何も問題ないじゃない。
ローザ、今からパレードに出かけるわ。あなたもついてきてね」

「リリー様!!そいつは奴隷です!隣に置くだけではなく、パレードにもついて行かせるなんて!!」

急いでいるというのに、いちいちと鬱陶しい。
ここまで私に食い下がるとは、逆に見上げた度胸だ。

「もういい加減にしたらどうです?
そんなに奴隷が嫌なら、一度堕ちてみてはいかがですか?
ビリアン・コヴィリー。お父様に進言してもよろしくってよ?」

振り返りながら、誰もが見惚れるような笑顔を男に向ける。
だが、その笑顔には、怒りが込められていた。
ここにきて、初めて男の名前を呼んだのも、お前が誰だか分かっている、いつでもお父様に報告できる、といった威圧を含んでいる。

「そ、それだけはお辞め下さい!!私は正しい事を言った迄であって『いい加減にしなさいと言ったのが聞こえなかったのかしら?』」


悔しそうに黙り込んだ男を見て、リリーはやれやれとため息をついた。
そして、再び歩き始めた。
もうすぐパレードが始まる。

そしたら、誰にも文句は言わせない。例え、王様である父にだって・・・。
そのためには、あの男も邪魔である。
ローザの身分を知っている数少ない、人物だ。

(どうにかして、この城から消さなければ・・・)

そして、ふと気づく。
なぜ自分はこんなにも、ローザのために他人を陥れようとしているのだろうか。

(きっと、楽しいのね・・・。今まで思い通りになっていたものが、誰かのために何かしようと思うとこんなにも障害があるなんて考えてもいなかった)

リリーは無意識に顔を歪ませた。










その表情をローザに見られていたと気付かなかった。
リリーは気付けなかった。その表情ひとつで、命が簡単に消えうることに。

















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更新遅れてました。

ヒロインにもう二面性が出てきてます。
五歳でこれは恐ろしい。
口喧嘩したら負ける自信ある。( ・∇・)

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