『関係解消』までの再放送

あかまロケ

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第九話

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 ――場面が変わる。
 約1年後。秋。コンビニ。深夜。

 俺、23歳。 日夏先輩、24歳。

「秋空君。 君って、本当に仕事が出来ないんだね? 僕言ったよね、商品前出しして、床掃除して、トイレ掃除したら外のゴミ箱掃除して。 ジュースの補充もまだじゃ無いか! 廃棄も見た?……もうそろそろ深夜の商品搬入の時間になるし、僕は手伝わないからね! 店長を働かせるって、いけない事なんだから!! 早く、掃除!」

 最近のバイトのいつもの光景。
 
 前の店長が、彼女さんとの結婚を機に、「実家の八百屋を継ぐ」と言って田舎に帰ってしまい、早3ヶ月……。
 新しい店長は俺よりも歳上で、このコンビニのオーナーの弟さん。
 前は俺と同じニート属性だったとか……。夕方勤務の金髪ギャルがそっと教えてくれた情報。

 仕事はね、全部把握していたから嫌では無く、言われた事も言われない事もやってたけど、怒鳴られると…………ストレスがね。
 だから俺、ちょこっとこの人が苦手だった……。


 なので、ストレスが溜まりまくると、俺は日夏先輩に連絡を入れて、先輩の都合を聞いた上で、先輩のマンション集合で…メールでリクエストした最近ハマりの“恋人ごっこセックス”に興じる。
 “ごっこ”ね、“ごっこ”!
 
 ついでに、食べた事のないカタカナの美味い物も食わしてもらう。

 ここの所、日夏先輩は仕事が順調らしく、昇給したらしい。
 なので、1年も経たぬ間にまた引っ越しをした。
 今度は遠くに東京タワーが見える場所で、デザイナー・・・ズ?と言う建物?らしく、広さは前のマンションの方が広かったけど、とてもお洒落なマンション。
 確かにベッドの上から遥か彼方に東京タワーが見える。
 けど、それよりも凄いのが風呂にテレビが付いてる!!!……事。

「こんなに頻繁にここへ来るなら、引っ越して来れば良いのに……」
 
 最近、俺の顔を見る度に先輩に言われる言葉。
 
 本当に大事な接待とか、出張の時は断られるんだけど、普段は“奴隷”として俺の連絡を優先しているみたいで、俺のこの執拗な連絡の所為で同僚との飲みの席をキャンセルしてるらしい。
 変な所で律儀……と言うか。
 俺が来る度に、俺の飯とか風呂とか世話の事を考えたり、何よりも時間に縛られる事が嫌みたいで……それなら最初っからこの家に居てくれれば少なくとも飯と風呂は考えなくても済む…と言う理由でのこの「引っ越して来れば」発言。
 別に俺は…飯はコンビニ飯で良いし、風呂だって俺が来て用意すれば良い―― とは言ったんだけど、即却下。
 先輩の中で、外に住む人間は皆“お客様”で、家に来た時にはもてなす事が決まっているらしい。
 日夏先輩……元々、拘り事とか決め事が多く強かったけど、社会人になってから更にそれが強くなっている気がする……。
 どう見たって同僚との飲み会の方が大事なのに……“奴隷契約”の為にキャンセルって……、俺から見れば馬鹿馬鹿しいのにね。
 それ言うと、契約の大事さとか、会社の信頼関係の話し…とか永遠に話されるからもう絶対に言わないけど。

 …………本当は、“日夏先輩奴隷契約”も解除、“関係解消”をしないといけない事は分かってはいるんだ……ほら、俺って、知り合いも友達も居ないし、………………だから、日夏先輩の存在って、便利じゃん?
 我儘言えるし、我儘きいてくれるし、カタカナ料理食わしてくれるし、風呂テレビ付いてるし、俺のリクエストしたセックスしてくれるし……。
 
 我ながら最低…なんだけど……。
 
 でも、一応俺の中で決まり事はあって、
 ・我儘は言い過ぎない。
 ・愚痴は言わない。
 ・セックスは俺本意にならない。
 ・先輩に好きな人、恋人が出来たら、即“関係解消”する。

 今の所は守れたりしている。……多分。
 
 

 ―― 先輩のマンションで身も心もリフレッシュして帰宅。
 
 その日の晩のバイト時――。
「秋空君さ、僕、君の事嫌いなんだよね~。 少し僕より早くここに居たからって態度デカいし。 どうせ僕の事見下してるんでしょ? 兄さんも兄さんで「秋空君の言うこと聞けって」……僕の方が店長なのにっ!!」
 
 中華まん蒸し器にあんまんを補充している時に…後ろからまたいつものお小言。まぁ、お客さんが居ない時なのが救いだけど。
 俺は、一応は…差し障りのない返事をしながら作り笑顔中。
 
「君さ、マジ、目障りなんだよね~。 君が出しゃばるから僕が仕事出来ないみたいに見られてさ。 秋空君さえ居なければ、皆僕の方が優れてるって分かる筈なのに……。夕勤の鈴木さんも、朝勤の斉藤さんも君にしか話しかけないし、君が裏で皆に僕の悪口言って僕を辞めさせようってしてるんじゃない? これってイジメだよねっ!!」
 
 新店長はその後も仕事をする俺の後をつけ回し、ずーと同じ内容のお小言。
 
 次の日も、その次の日も、飽きもせず、俺の後をつけ回しお小言の雨。
 俺は作り笑顔。
 
 けれど、1ヶ月が過ぎて、ジュースの補充中……遂に俺は我慢の限界で――。
「君、今、僕に向かって「黙れ」って言ったよね? 小声で言ったつもりでも僕の耳には入ったよ! 君っ、僕は君の上司だぞ!この店の長である店長の僕に暴言を吐いたんだ!!!」
 
 本当にもう限界でダメで……。
 
 責任感無いのは重々承知で、頭の中に社会人の責任感について語る日夏先輩の姿が浮かんだけれど、限界が過ぎて……。
 
「辞めます」
 と。
 
 オーナーや周りの従業員さん達が止めてくれたのは嬉しかったけど……。
 ……もう俺は新店長の顔が見れなくて……。
 
 それから1週間後に、俺は深夜コンビニのバイトを辞め、また無職に戻り、その2日後に次の就職先…が見つかったのは運が良かった……のか、悪かったのか……。
 
 散歩中。アパートの近くで壁に貼ってある『従業員募集中』の張り紙を見て、即連絡。
 そこは住宅街に在る小さな町工場で、老夫婦が経営している。
 授業員は5人。車関係の金属部品を作っている。
 内容は、午前8時から午後5時まで。土日休み。春、夏、冬と大型休みがあり、祝日は出勤となっている。
 給料も深夜バイトと比べるとかなり少なくはなるが、今のこの生活水準のままならなんとかやって行ける額だ。それに夏と冬にボーナスも出るとの事。
 そして何より、アパートから歩いて行ける距離にある事が最大の決め手となった。
 
 面接時に即採用して貰い、この日が金曜日だったので、月曜日から働きに来て良いとの事――。

 俺はアパートに帰ると、早速日夏先輩に連絡を入れマンションに行っても良いかと許可を取る。
 この日の日夏先輩は、丁度何も予定が無かったのですぐに許可が降り、駅地下で晩飯を買って行きたい事も告げる。
 ……却下されると思っていたが、先輩の方も機嫌が良かったのか「たまには良い」との事。
 その事も嬉しく、自分の就職もお祝いしたくて、奮発して普段食べれない寿司の大皿や酒のつまみになりそうな惣菜も買って行く。
 あと、もちろん高級プリンも!
 
 先輩のマンションに着くと、渡されている鍵でエントランスを抜け、その鍵で我が物顔で部屋に入り、買って来た料理を酒とミネラルウォータしか入ってない冷蔵庫に突っ込むと、リビングに掛けてある時計を見る。
 後1時間位で先輩が帰って来る時間。

 ―――――― 時間もまだあるし………………なので・・・。
 
 ・・・先輩も帰って来たら入ると思うので、風呂に湯を張り、浸かってテレビを見る俺。
 ……いっ、言い訳するようだが、本っっっ当ぉぉぉーーーーーーーに、この日は…する気分じゃなくて。ただ、ゆっくりと高校の時みたいに話したいだけの気分で、もちろん用意とかもしてないし…先輩は俺が誘わないとそーいう事しないからね!本当にだから。本当に!!!

 時間通りに玄関の開く音。
 俺は先輩の家に常備している高校の時のジャージを身にまとい、玄関で先輩をお出迎えする。―― 仏頂面が驚き顔になって面白かったけど。
 食事の前に先輩に風呂に入って貰い……、その間にリビングのサイドテーブルの上に買って来た料理を並べる。
 
「鱗、これ何人前?」
 風呂から上がって来た先輩がこの光景を見て驚きの声を上げるが、俺が「俺の就職祝い」と言うと、仏頂面に「?」を浮かべてた。
 先輩は冷蔵庫から酒の缶とミネラルウォータを持って来ると、酒の飲めない俺にミネラルウォータを渡してくれる。
「……で?」
 酒の缶を開け、一口飲み、プハッと息を吐き出し落ち着いたのか、俺の方を向き先輩が問うて来る。
 俺も丁度ミネラルウォータをプハッとした所で・・・そのミネラルウォータの入ったボトルを机の上に置くと・・・。

「あ、あのさ・・・」

 俺は事の経緯を先輩に話す。
 まずは新しい職場の事。
 場所に内容に給料、休み・・・。先輩は酒を飲みながら黙って俺の話を聞いている。
 俺が一人でペラペラと話しているだけ。
 
「コンビニバイトにさ、もう飽きて来ちゃって……。 昼の仕事を探してさ、ほら、先輩もだいぶ前に昼仕事の事言ってたし……。 そしたら近所に募集があってさ、飛びついた訳。 コンビニのオーナーとか従業員さん達は残念がってくれたんだけどね~」
 
 多少、嘘をついてしまったが、結果、良い所に就職出来たし、今日はお祝いだし、本当の事なんてただの愚痴になっちゃうしね。
 終わりよければ何とやらで……。
 
 その後も俺が一人でなにか話して、先輩がそれに応えてくれたり、沈黙だったり……でも居心地が良くて、気分が良くて、まるで昔の高校時代に戻ったかのような時間を過ごせた。それが楽しく嬉しかった。


 ―― 場面が変わる。
 一年後。 秋。

 俺、24歳。日夏先輩、25歳。

 俺の仕事は順調で、経営者の老夫婦……社長と専務もすごく優しく、他の従業員さん達も優しくて大人ばかりで、その中でとても可愛がって貰っている。
 俺の仕事は主に“検査”で、ベルトコンベアーで運ばれて来た部品を検査し、正品として箱詰めにする。でもその中で不具合があれば、直せるものは俺が直して正品として一緒に箱詰めにして出荷場に。ダメなものは裏側にあるケースに入れて社長に届ける。―― と、いう仕事をしている。
 しかも場所も良くて、この工場の隅に設置された個室でやらさせて貰っている。この個室が出荷場に近い事と、“検査”は集中力が大切― などの理由で。

 先輩の方も仕事が順調みたいで、昇進して昇給したらしい。
 最近は海外出張に行ったらしく、海外のよく分からない缶に入った美味いお菓子とよく分からない置物を買って来てくれた。空いた缶は手紙や書類入れに、置物は冷蔵庫の上に置いてある。
 それとまた引っ越しをしたらしく、珍しく先輩の方からいきなり連絡を寄越し、「今から来い」との事で、仕事帰りの作業着のままメールに記載されていた住所に向かうと、見上げて首が痛くなる程の高層マンション。
 部屋番号から高層階。エントランスのインターホンで入り口を開けて貰い、ホテルのロビーみたいな場所を抜けエレベーターで部屋へ・・・。

 迎えてくれた先輩も今帰って来た所みたいで、スーツ姿。
 しかも前よりも生地が綺麗と言うか、良い物だと一目で分かる物。

 ・・・玄関にある姿見に映った俺は、油まみれの作業着姿。
 先輩は気にして無いようだけど・・・多分、俺、何か恥ずかしかった。
 
 で、恒例の「引っ越してくれば良いのに……」の言葉を辞退して、その日は金曜日だったので、俺のリクエストの“恋人ごっこセックス”をして、次の日の土曜日にはアパートに帰った。

 それから、俺の仕事は順調でストレスもあまり溜まらなかったので、先輩のマンションにも行く事が減り、それでも1ヶ月に1回のペースで出入りするのだが、マンションに行く時は格好に気を付けるようにした。
 それも近くの有名洋品店で安くて良く見える物を選んで。
 

 ――場面が変わる。
 また一年後。

 俺、25歳。日夏先輩、26歳。

 俺は変わりなく。
 先輩の方は、また昇進して昇給したらしく、またまた引っ越しをした。
 今度は先輩の会社の近くの高級マンション。
 ここは、前の高層マンションよりも部屋数も広さも無いけれど、マンションなのに2階がある部屋で、大きな風呂にテレビ!!!が付いていた。
 そしてまた恒例の「引っ越して来れば・・・」を辞退して、ここも1ヶ月に1回のペースで利用させて貰った。

 先輩のスーツはオーダーメイドと言う物に変わり、腕には高そうな時計をするようになった。
 玄関には綺麗に並べられたピカピカの革靴。――の隣に履き崩してボロボロの俺のスニーカー。
 海外出張のお菓子の缶が9つに増え、少し捨てて3つにした。冷蔵庫の上の置物は9つに増えた。そろそろ置き場が無くなってしまう。


 ―― 場面が変わる。
 一年後。 秋。

 俺、26歳。日夏先輩、27歳。

 先輩は、また昇進、昇給で引っ越し。
 今度は俺のアパートから1駅先にある家族向けの新築マンション。
 今までのマンションとは違い、落ち着いた雰囲気の住みやすそうな部屋。
 やはりここでも恒例の「引っ越して・・・」の申し出を辞退。
 ただ、通う頻度は多くなっていた。

 ―― それは、俺の問題。

 2ヶ月前に俺が勤める工場に変化があった。
 社長と専務が年齢を理由に退いて、その後を長男夫婦に譲った。
 新社長になった長男は40代半ば。大手企業の営業で優秀だったらしい。顔立ちも整っていて、派手で、口が上手く仕事の方もかなり出来たので従業員達ともすぐに打ち解け合って、俺以外の大人達とは夜の店の話しで盛り上がっていた。俺も何度か夜の店に誘われたが、色々と言い訳をして全て断っていた。相当女好きで、あちらこちらで浮気をしているらしい。
 専務にはその長男の奥さん。この人も40代半ばで、大人しい人。ただ、職場に顔を出したのは、専務職に就いた時の顔合わせ時のみで、後は習い事やエステに忙しいらしい。
 
「上手く行っていない」とは、新社長が俺との雑談で漏らした言葉……。

 実は、この社長交代が俺のストレスの原因になって、先輩のマンション通いの数を増やしていた。

 この新社長、俺以外の従業員さん達との会話では、仕事の話しや夜の店、軽い下ネタで話しをしているのだけど……。
 これは俺が過剰に反応しているだけかもしれないが……。
 俺の時に話す内容が一切仕事の話しはせず、下ネタと言うか、内容がエグいと言うか、具体的と言うか……。
 ……………………その、……己のチンコのデカさの自慢から始まり、今までの……夜のプレイの内容だとか、女の扱い方とか、どうすれば喜ぶだとか。
 最近ハマっているのはSMで、新社長はドSなので、奴隷が欲しいだとか、その奴隷をどうしたいだとか……。かなり引いてしまう気持ちの悪い内容。
 それを毎日、終業15分前に俺の仕事小屋に来て話し出すから、気分良く帰れずにストレスが溜まり……、日夏先輩に連絡……って流れ。
 仕事で何があったとかは先輩には話さないし、先輩も何も聞いて来なかったから、甘えてしまって連絡が多くなってしまう。
 なので、こんなに頻繁に連絡を寄越す俺を…先輩は少し鬱陶しく感じてたみたいで…。
 連絡の数が増えて重なって行くと、態度がその都度冷たくなって、セックスも早く済ませようと……雑と言うか、俺だけって言うか……。
 この時の日夏先輩は、日夏先輩で、昇進したばかりなのにまた昇進の話しが出ていて。

 …………………………………………………………あと、お見合い。

 これは本人から聞いた訳では無く、たまたま先輩より早くに先輩のマンションに着いた時に、リビングのサイドテーブルの上に2、3冊のよくテレビで見るベタベタなお見合い写真が置いてあって・・・・・・・・・・・。
 いけない事だが、…中を見たら…3人とも品のあるすごい美人さん。
 先輩が帰って来たらそのお見合い写真をすぐに何処かに仕舞い込んでしまったんだけど、俺は気付かないふりをしていた・・・。
 
 ……まぁ、さ。先輩も27だし、有名大卒のエリート商社マンで、出世街道まっしぐらで、あの容姿だし……こー言う話しはドラマの中だけかと思っていたら、現実でもあって。……イケメン以下略。
 『あぁ、だから“家族向け”のマンションか!』と、妙に納得してしまった。
 俺に対する態度も納得だよね。邪魔者…みたいな?
 
 分かっている。
 俺みたいなのが日夏先輩の周りをウロチョロすると、先輩の品性を落としてしまう事。
 俺と一緒にされて迷惑をかけてしまう事を。

 

 ―― 場面が変わる。
 1ヶ月後。11月下旬。

 俺の職場―― 工場内、検査小屋。
 終業15分前。

「なぁ、良いだろ?」
「やめてくださいっ、社長っ!」

 今、俺の目の前に映るものは、新しい社長の顔。
 俺は検査小屋の壁に押し付けられて、社長に首筋を舐められながら、股間を作業着の上から握られている。
 社長の力は強く、俺も何とか両手で胸を押し返し抵抗を試みているのだが、びくともしない。
 大分前から「愛人にならないか?」と言われ続け、一度キッパリと断った筈なのに、ここずっと終業時間15分前にこの小屋に入られ、鍵をかけられて、体を触られ、……しつこく俺に“愛人関係”を迫って来る。
 俺も、抵抗して拒絶の言葉をぶつけるのだが、全く効かず。逆に何故か毎日触り方がエスカレートして来ている。
 今日は特に酷い。
「はっ、はぁっ、はぁっ、なっ、なぁ、秋空ぁ、お前男の経験あるんだろ? お前ぇ、すぐ近くのコンビニで働いていた時、彼氏居るって言ってたもんなぁ~」
 ハァハァと洗い呼吸が首筋にかかり、温かい滑った舌が筋に沿って上下に移動している。
「……!?」
「はっ、はは、何その顔、お前達がレジで話してるの、俺ぇ、あの時雑誌の所に居て聞いてたからぁ」
「違っ……」
 否定の言葉を言おうとしたが、それを遮られ社長が言葉を続ける。
「それに、俺ぇ、はっ、はあっ、見たんだよね~。 秋空の彼氏ぃ。 一緒に住んでたんだろ? お前のアパートの玄関でお前、はぁ、はっ、彼氏の出迎えしてただろ? あんな胸元が大きく開いたいやらしい格好で」
「なっ?……は?」
 何故社長は当時面識の無かった俺の住むアパートを知っていたのか?
 あんな入り組んだ場所にあるのに…何故玄関でのやり取りを、しかも俺の部屋の玄関が見える場所なんて、階段を上がって共用廊下まで来ないと見えない筈なのに……。
「お前、前聞いた時「恋人はいない」って。……なら、あの賢そうな彼氏と別れたんだよな?」
そう言うと社長は俺の股間に己の固くなった股間を押し付けて摩って来る。
「ちょっ、マジでやめっ!」
 押し付けられ摩られる股間の固さが気持ち悪い。
「なぁ、はぁ、はぁ、あ、秋空ぁ、俺の愛人に、奴隷になってよぉ、損はさせないし、金なら今の給料の1・5倍は出してあげるからぁ」
「だぁかぁら、「嫌」って言ってます!離せって!!!」
「じゃ、ここで既成事実作っちゃおっか?」
 社長の手が俺の尻に回され、その手をいきなり俺のズボンの中に入れると、尻の割れ目をなぞりながら指が穴に当たる。
「っ!?」
「男同士は、こぉこ、使うんだろぉ~?」
 そう言って、力任せに穴に指をいきなり根元までねじ込んで来て――、
「い“っーーー!!!」
 俺の叫びが終業を告げるベルでかき消される。
 滑りのない指をいきなり根元まで入れられれば、いくら行為に慣れている俺でも激痛が走る。俺はその痛みから逃れようと、目の前の社長の胸を強く押してしまい、その反動で社長はよろめき後ろに倒れ込み、小屋の入り口に頭を軽くぶつけてしまった。
「社長、大丈……」
 俺が慌てて駆け寄ると、社長の顔はみるみると怒りの表情へ変わって行き、俺の顔を思いっきり殴ると、大声で俺を罵倒し出す。
 その声に驚いて集まって来た従業員さん達に、「秋空に関係を迫られて断ったら襲われ頭を打った」と言われ、俺が男好きだとか、ずっと関係を迫られていたとか、今日は鍵までかけられて上に乗られただとか……無い事ばかり言われ、「秋空、お前、明日からもう来るな! 暴力の事は多めに見てやるから、俺にその面見せるな!」と言われてしまい・・・クビになってしまった。
 従業員さんの中の一番年上の人が俺の擁護をしてくれたが、社長は聞く耳持たず、他の人達も「いきなりクビは……」とか色々と言ってくれた結果、給料の1ヶ月分と冬のボーナスまで払うから、俺はもう来なくて良い…と言う事になった。
後々、解雇の書類がアパートに郵送されるらしい。
 
 ……俺はその場から逃げるようにアパートに帰ると、泣きながら先輩に『激しいセックスをしろ』と命令調でメールを入れる。そして返事を待たずに先輩のマンションへ。
 マンションに着くと丁度先輩からの返事。
 明日から1ヶ月間海外出張で、用意がなんたら・・・と書いてあったが、『そんな事はどうでも良いから早く来い、“奴隷”の癖に命令に背くな』と返信をして風呂に入る。
 社長に触れられた箇所が気持ち悪くて何度も擦るうちに、全身も気持ち悪くなって何度も洗う。
 肌がヒリついて真っ赤になってもそれは止められず、仕事から帰って来た日夏先輩がそれを止めた。
 先輩が何か言おうとしたが、俺がそれを制止して、そのままベッドルームへ。
 先輩をベッドへ押し倒し、その上に覆い被さると、高そうなスーツのズボンの前を寛げてチンコを取り出し、口の中へ。
 初めての口淫はぎこちなかったけど、なんとか先輩のチンコが固くなり、俺は舐めてる間に用意していた穴にそれを埋め込んで行く。
「うっ、ん、ん、んん~~~っ!!!」
 先輩は、俺が呻き声を上げながら、己のチンコが俺の中に埋め込まれて行く様子をいつもの仏頂面でただ見ているだけ。
 全部入らなくて浅い所で出し入れしているのを、ただ見ているだけ。

 なかなか思うような快感が得られず、出し入れも辛くなった頃、俺はとうとう声を上げて泣き出し、「激しくして」だの「酷くして」だの物騒な言葉を吐き、最後に「命令」と言った所で、初めて先輩が動き出し・・・結果、意識がぶっ飛ぶまで無茶苦茶にされた――。

 

 ―― 朝、と言うより昼頃に目を覚まし、身体中の痛みでベッドから起き上がれず、ようやく晩に起き上がれる様になると裸のまま風呂場に行き、シャワーを浴びる。
 風呂から出て体を拭いていると、隣接されている洗面所の鏡に、ふと目が留まる。
 そこに映るのは、昨日、社長に殴られた腫れた頬に、泣きすぎて腫れた目。―― と、それよりも目を引いてしまう、全身噛み痕だらけの俺の体。所々血が滲んでいる。
「シャワーがちょっと染みたのは、これが原因か……」
 声もおかしい。
 正直、昨晩は泣いた所位から記憶がぶっ飛んでいて、こんな痕を付けられていた事に驚いている。痕を残されたのはこれで2回目。初めては、彼女と俺を間違えた時の“恋人セックス”の時。その時は赤い斑点だらけだったけど。
「多分、「酷くしろ」と言ったから……かな?」
 何個もある噛み痕をなぞる。
 それにしても……これは……痛々しい。
 
 そのまま裸でリビングに行くと、サイドテーブルにラップに包まれた手作りのサンドイッチと、水滴も乾き切ったミネラルウォーターのボトルが置かれており、その横にメモも置いてある。
 内容は、今日から1ヶ月間海外に出張に行く事と、好きなだけここに居て良い事。昨晩無理をさせてしまった事への謝罪が書かれている。
 ……律儀な人だ。
 あと、今回の海外出張は連絡が取りづらい事も書かれていた。

 大切な商談……とやらか?


「ぶえっっーーーくしょーんっ!」
 部屋一杯に俺の汚いくしゃみが響き渡る。
 マンションの備え付けの最新の温度制御システムおかげで温度は一定に保たれているが、やはり裸のままでは少し冷えるらしい。俺は食事を終えると広い方のクローゼットへ行き、俺専用のタンスを開け高校時代のジャージを引っ張り出して着始める。
 ふ、と隣を見るとクローゼットの奥にある観音開きになっている物置の扉に、何かが引っ掛かっているのか少し開いている。
 俺はその扉を閉める為、一度開けて、その引っ掛かりの部分を正そうと取っ手に手を伸ばすと、少し触れた程度で扉が開き、中のモノがザザザザっと雪崩の様に床に落ちて来た。
 慌ててそれを拾おうと、手を伸ばす俺の視界が大きく開かれ、それが少し前に見たお見合い写真だと気付く。
 それは前見た時よりも増えている。
 俺は床に座り込み、悪いと思いながらも一冊手に取りパラリと捲る。
 やはり写真に映る人は品があって美人。けれど、この前と違う所は、メモが挟まっている所。
 この写真のメモの内容は、10月07日(土)―― ○○ホテル ラウンジ 午前10時―― と記載されている。
 違うお見合い写真も捲ると、またメモ。内容は11月12日(日)――○◆ホテル カフェ 午前11時―― と記載。
 他の物にも同様にメモが付いていて、最近の日付の物まである。―― これは、お見合いの日付。
 
「……なんだ、ちゃんとお見合いしてんじゃん」
 
 最近、連絡しても「仕事だから」と断られたり、時間をずらされる事が多いと思っていたら、こう言う事かと。
 
「……この日って、……日夏先輩、お見合いの後に俺に会ってんのかよ……」

 そー言えば、あの時は日曜で休みの日なのに高そうなスーツ姿だったな~。―― と、思い出す。
 
「話してくれれば良いのに……お見合いの事……」

 けれど、ふ、と思う、お見合い話しをされた所で?

「もちろん、即!“奴隷契約”解除で、“関係解消”して……やる、の、に……」

 そうしたら俺は……?

「……それは仕方が無いじゃん。 先輩だって年頃だし、優良物件は皆、放っておくはず無いって……」

 写真の中の美人さんと先輩が並ぶ姿を想像する……。

「お似合いじゃん。 美男美女……。……………………………………結婚……か」

 先輩のタキシード姿を想像して、……少しイラつく。――クソッ。

「……っ?」

 けれどすぐに頭を左右に振って、見なかった事にしようと、立ち上がり、落ちているお見合い写真を拾い集めだす。
 落ちた数冊を綺麗に整えると扉の中の上部の棚に、まだ数冊残っていたお見合い写真の上に拾い集めたそれを乗せ、扉を閉めようとした時、―― 物置の下部の奥の奥の方に、見覚えのある小包を発見する。
「!」
 それは昔、先輩の入社祝いに贈った―― ネクタイ。
 俺はそれを手に取るとくるくると360度回して観察をする。
 小包は、開けられた形跡はあるものの、使われずにずっとここに置かれてたみたいだ。
 それは多分。
「捨てれば良かったのに……」
 
 気に入らなかった、……と言う事だ。
 
 けれど、一応、人から貰った物だから取って置いて、話題が出た時に出せるように捨てずにいた……と言う事だろう。
 
「……迷惑、だったんだな……」

 確かに、今、日夏先輩が身に付けている物を見ていると、これは先輩の趣味では無い事に気付く。
 
 ……やはり俺は、いつまで経っても自分の事ばかりで、先輩の事なんて……考えてみたら何一つ分からない事に気付く。
 
「…………っ」
 
 ―― イライラする。

 取り敢えず、こんな所には居たくない気分になり、物置の扉を乱暴に閉め、手に持ったままの小包を近くにあったゴミ箱に投げ入れると、ベッドルームへ。

 何もする気が起きず、気分が悪い。
 ベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。
 俺の意識が無い時に枕カバーやシーツ類を取り替えてくれたようで、爽やかな柔軟剤の匂いがする。
 これはこれで、いつも先輩から香る匂いではあるのだけど……。
 求めているのは、そこに日夏先輩が染み込んだ落ち着く匂い。
 それが今は匂わず―― 。

 ―― イライラする。
 

 何もかも上手く行かない。
 
 俺は、先輩のアパートに転がり込んでから何も変わらず。いつまでもボロボロで見窄らしくて、情け無い男。
 仕事だって……上手く行かない。
 
 片や先輩は、俺とは大違い。
 どんどん社会的地位や生活水準がグレードアップして変わって行って……男としても自信に満ち溢れている。

 どんどん距離が遠くなる。
 どんどん知らない人になって行く。

 今、俺と先輩を繋ぐものは“奴隷契約” ……のみ。
 この“契約”が無ければ、俺みたいなのが日夏先輩に近付く事さえ出来ない。

 ―― イライラする。
 自分自身にイライラする。

「…………………………ズズッ」

 住む所。
 着ている物。
 身につけている物。
 食べる物。
 話しの内容。
 お見合い写真。
 家族向けのマンション。
 ピカピカの革靴と、ボロボロのスニーカー。
 高級スーツと、油まみれの作業着。
 

 ゴミ箱の小包。

 ―― イライラする。

 
 

「関係解消」を言えない自分に。

 
 

 イライラする。
 
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目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
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見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

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