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29話 ランシード王家の悩み事

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 ラーク達がまだ祝勝会を上げている最中、ランシード王国ではある重大な事件が起きていた。

 ランシード王国は人口数十万人規模の国。

 王族が住む王族城、貴族が住む貴族街、市民が住む市民街、貧民が住む貧民街。

 この四つに分類される。

 王族や貴族は豪華な暮らしをして市民は普通の暮らしを、貧民は非常に貧しい過酷な暮らしをしている。

 渦のような丸い国家で中央部分に王族城があり、一番外側に貧民街が存在する。

 巨大な壁と魔法結界により上の階級の街には行くことは通常できない。


 「国王陛下。貴族が何者かに襲われる事件が発生しました」
 「何だと!? 一体誰が!?」
 「分かりません。犯人は闇夜の中で見失いました」
 「国家の外には出ておらんのだな?」
 「魔法結界と検問兵がおりますので出国は不可能かと」
 「ではまだこのランシード王国にその犯人がいるという事か」
 「恨みを買っていた可能性がありますね」
 「兎に角王族城の守備を固めろ。魔法結界を強力にしろ」
 「し、しかしリソースを王族城だけに割くわけには」
 「ええいこの国で一番偉いのは私だぞ。私の命が最優先だろうが」
 「し、しかしそれでは貴族から反感を買う事に。また市民などからも」
 「ええい市民のゴミ共はどうでもいい。貴族の連中には犯人はもう捕まったと報告しておけ」


 国王陛下は宰相に八つ当たりをする。

 国王陛下は自分の命最優先なのだ。

 自己中心的な性格の持ち主である。


 「魔法結界のリソースを王族城に割いてください」
 「し、しかしそれでは……」
 「国王陛下からの命令です」
 「分かりました。王族城の魔法結界を強めます」
 「お願いします」


 宰相の女性ルーティアは大きくため息をついた。

 長い青髪に長い整ったまつげ、宝石のように輝く青い瞳。

 鋭い目つきをしているが実は心優しい人物。

 しかし親がランシード国王陛下前宰相だった為冒険者になる事はなく親が死んだあと宰相の座を引き継いだ。

 ルーティアは現在国王陛下の傲慢ぶりに辟易している。

 誰か国王陛下を殺してくれないかと内心思っていた。

 誰か自分を解放してくれないかと。


 「また事件が起きなければいいんですが」
 

 ルーティアがそう呟きながら執務室へ戻っていった。


    ♦

 王族城に更なる魔法結界が張られた頃、貧民街ではある動きが見られた。


 「おい本当に貴族を殺せたぞ。金貨だ、金貨を奪ったぞ」
 「だから言っただろ。俺の言う事を聞けば魔法結界をすり抜けられると」
 「ああ感謝するぜ。これで俺はこの国で豪遊できる」
 「たった金貨数枚でか? すぐに底を尽きるぞ。それに他の貧民に見つかってみろ殺されて奪われるだけだ」
 「じゃあどうすればいいんだ!!」
 「国王陛下を殺せ。この国を乗っ取るんだ」
 「こ、国王陛下を!?」
 「ああ王がいなくなった国は必ず混乱する。その隙に生じて国を乗っ取るんだ」
 「し、しかしそんな事をすれば多くの国民は逃げ出すんじゃないのか!?」
 「国王陛下の嫌われっぷりを知らないのか。あれを殺した所で何も問題はない。むしろ皆が内心望んでいる筈だ」
 「いつ決行だ?」
 「慌てるな。色々視察してからだ。時間はたっぷりある」
 「わ、分かった」


 何やら不穏な動きを見せる貧民街。

 ラーク達は再びトラブルに巻き込まれる事となる。

 だがまだ誰も知らない。

 ラーク達【ホワイトアリス】がこの国の英雄になってしまうことを。
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