多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No64.A broken heart that I remember

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 日が落ちる放課後、自分は屋上に向かっていた。一件以来まともに顔を合わせるのは初だ。
 夕日と重なる彼女はどこかいつもと雰囲気が違った。

 「明璃……さん?」

 「待ってたよ……夜空君。」

 いつものような年相応というべき元気は無い。ただ、決して寂しさは無い。なんともいえない感覚を感じた。
 しばらく見つめ合うだけの沈黙が流れ、自分は思わず目を逸らしたくなった。それでもそれはしない。

 「先日はありがとう。何が起こったかは分からないけど、助けてくれたんだよね?」

 そう言って彼女はニコッと笑ってみせたが、どこか複雑そうだ。そこからまた沈黙が続いた。とにかく気まずい。
 正解が分からない。そんな異質な空気感だった。

 「ねぇ……なんで何も言葉を返してくれないの?」

 想像の斜め上の発言だった。確かにそうではあるのだが、よく分からない。
 ここに呼ばれた目的すら分からないのだ。暗殺者としての本能“警戒心”が揺すぶられる。

 「もしかして怒ってる?」

 「………怒ってる。」

 そうだろうとは多少感じていた。それが何に対してかは見当が付かない程多い。
 こちらも返し方に困っていると、彼女から口を開いた。

 「凍白さんは何者なの?ただの学生では無いよね……。」

 「………。」

 話していいものなのか分からない。サイレンスは非公認組織だ。政府のお偉いさんが裏で依頼していると聞いたことがある。
 迂闊に話せば、社会的命は保障されていない。彼女を信じるべきか否か。我々は口を閉ざさなければいけない。
 ……でも、自分は嘘をつけなかった。

 「……暗殺者。裏社会で育った人間だよ……。テロの弾圧などを行っていた…。」

 「あの日、誰か殺したの?」

 それだけは全否定できる。それまでにいくつかの命を奪ってきたが、“あの日”だけは誰も死なせるつもりは無かった。
 底沼に勝っていたとしても、捕虜として本部に一度送るつもりだった。

 「その日は誰も殺してない。……本当に。」

 彼女の目は笑っていない。自分は終わりを確信していた。幻滅からの疎遠では終わらない。通報だ。それにこの事実を話したという事は、夕憧は勿論の事、サイレンスにも迷惑が掛かる。
 自分は大戦犯を犯した。四季明璃は姉がインフルエンサーで本人も優秀。権威的なものは強い。口止めの為にあれこれする人も居るが、自分はあくまでも任務以外では学生だ。
 それ以上でもそれ以下でもない。

 「………そっか。じゃあさ……一つお願い聞いてくれる……?」

 嫌な予感しか現れない。この状況なら、誰だってそうだろう。
 ……ただ現実は非現実的だった。

 「私を………抱いて?」

 「え……?」

 理解するまでフリーズしていたが、逃避法が無い。困惑を隠せないのだ。

 「それって……どういう………。」

 「そのままの意味だよ。………あの日、私は夜空君の暖かさを感じた。あんなに冷たそうなのに、心の内に噛み殺していた情熱を感じて………君の事をもっと知りたくなっちゃって……。」
 
 彼女は少し涙を流しながらそう言う。今にも崩れてしまいそうだった。

 「………好きだった。もっと好きになった。…………私と付き合ってください…。」

 人生で何度かされた告白。その中でも一番中身があった。自分の人格に惹かれた人なんてこれまでに居なかった。
 近寄り難い雰囲気を無意識に醸し出していた。いや、心をそっと閉ざそうとしていたのかもしれない。
 それでも、答えは決まっている。

 「嬉しい………けど、ごめん。」

 そう言って自分は屋上を後にした。こんな言葉足らずのまま去るのはどうかとも思ったが、崩れる寸前の彼女を前にして長居するのは自分も苦しいし、彼女が一番しんどいだろう。
 自分の事を愛する学年でも最上級の美少女を振った。それは無意味では無い。
 相応の理由があってこそなのだ。







 初恋は難しいって聞くけど本当にそうだった。私は振られた。
 よく告白される私は、いつもは振る立場の人間だった。今日、初めて分かった。振られるってこういう感じなんだ…と。
 軽いノリの人もいれば本当に心の底からの人だっている。そのダメージはきっと比例している。
 諦めたくない。けど、何度もされるのは鬱陶しい事は私も分かっている。
 彼なら許してくれるのかな…?それとも私が幻想を見ているのだろうか。
 
 「………嫌だ。終わりたくない……。」

 嘆いたって仕方が無い。この失敗をバネに、私はこれからも飛躍しなければならない。
 今度こそ、認めてもらえるように……。
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