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しおりを挟む「殿下。確かにいま私は必要とされていないかもしれません。ですが私の力が穢れを知り衰えれば、必ずこの国は災いに飲み込まれます。本当によろしいので?」
「ふん……いまさら何を言っているんだ。『祈り』なんて迷信のために国の金を何代にもわたって貪ってきた存在が今更穢もなにもないだろう」
「なるほど……」
ああ、そうか。
この人は知らないんだ。
「殿下……念の為お聞きしますが、『祈り』が何のために行われているかご存知で?」
「僕を馬鹿にしているのか? お前達が報酬を得るためのお飾りの儀式だろう」
「いいえ。『祈り』は確かに、この国をモンスターの被害から──」
「馬鹿め! 僕にそんな戯言が通用すると思っているのか? 父を始めこれまではうまく取り繕ってきたようだが、人一人の魔力で国が守れるはずがないんだ。当たり前だろう? そんな簡単なことに何故誰も気づかず盲目的にお前達を囲ってきたんだ……まったく我が血族ながら頭が痛くなるよ」
頭がいたいのは私の方だという言葉をぐっと堪える。
王国の周囲はダンジョンと呼ばれる無数のモンスターの巣窟が存在する。
そのダンジョンがダンジョンとして成り立つ、つまりダンジョンからモンスターを溢れさせないことこそが、歴代聖女の『祈り』の真価だ。
当然王家の人間ならばそんなこと当たり前に教わっているはずだ。それが民が神話やおとぎ話と認識していることを含めて。
この王子はいま、自ら王族の役割を放棄したということだ。
「いいから僕の言う通りにすればいいんだよ。もうこの国でやっていくにはどのみちそれしかないのだから」
「わかりました」
「よしよし。ではそこでまず服を──」
「私、聖女をやめます」
「は?」
間抜けな顔で固まる王太子殿下を見て思わず吹き出してしまった。
「貴様……」
「これから無数のモンスターがこの王都めがけてやってきますよ? 準備をすすめたほうがよろしいのではなくて?」
「何を世迷い言を……いいからさっさとその身体を差し出せええええ」
──バチン
「ぐは……」
「言ったではありませんか。害意を持って近づくものには容赦しません、と」
私に襲いかかろうと飛びかかってきて、魔法障壁に弾かれ雷撃魔法を受けて転がる王子。
間抜けな格好のまましびれて動けなくなった王子を足蹴にする。
「ぐふ……」
こんな国、こっちから願い下げですね。
「よくよく考えれば私、『祈り』以外も王宮に閉じ込められて自由なんてなかったじゃありませんか」
それもこれもこの下品な王子のせいだと思うと腹が立ってくる。
「さて、どうしましょうかね」
周辺諸国は同盟国だから私を受け入れるのは難しいでしょうし……。
「少し長旅を楽しむとしますか」
国を離れ、自由を求めた旅が始まる。
どこかウキウキした気持ちのまま、いつの間にか私は駆け出していた。
聖女の力は『祈り』だけじゃない。むしろ今後『祈り』に力を割かないでいいのなら、それなりに活躍できるのではないだろうか。
「冒険者でもやってみましょうか」
あらゆる可能性に胸を膨らませながら、王宮を飛び出した。
◇
「くそ……あの女め……私をこんな目に合わせたこと、必ず公開させてやる……」
これがロイド王太子の転落人生の始まりだということはまだ誰も知らなかった。
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