【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第3章

§22‐2 結婚式の準備

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「改めて、今日もお疲れ様」
「あぁ、ライゼルもな」


 夕食後、俺はグレンの部屋に来ていた。

 バルコニーの長椅子に二人で並んで腰掛け、互いを労った。

 春の香りの夜風が身体を撫でる。花の蜜と若葉の匂いが夜のしじまに漂っている。まだ夜は冷える。用意がいいグレンはブランケットを俺の肩にかけてくれた。


「ありがとう」
「まだ夜は風が冷たいな」
「そうだね」


 俺たちはすっかり砕けた話し方で会話できるようになった。

 そして俺はグレンの左側にいることが多い。彼の利き手が右だから。


「そういえば昼間言っていた相談というのは?」


 グレンが俺の目を覗き込んできいてくる。そう、その話をしようと思って部屋に来たんだ。


「うん。ダンスの予定だけど、もしよかったら違うものに変えるのはどうかなと思って」
「聞かせてくれ」
「二人で……剣舞をやるのはどうかな、と思って」


 実はスフェーンいた頃、成人の儀式で剣舞をしたのだ。

 王族の恒例行事で、成人する王族が一人で剣舞を行い一人前になったことを示す意味合いがある。
 その他にも一族ごとに伝統の演目があったり、親子やきょうだいで披露したりもある。俺も兄二人と一緒に演目を舞った。

 しかし今回は結婚式なのでより趣向を凝らし、二人で魔法を使った演出を追加するのも良いだろうと思った。
 
 俺の想像を伝えると、グレンの表情が見る間に明るくなる。


「ライゼルは、何度俺の救世主になってくれるんだ。妙案だ。それならミレイも納得するだろう」
「あはは、大袈裟だなぁ。でもよかった、賛成してもらえて」
「はぁ……ダンスの重圧から解放されると思うと随分気が楽になる」


 心の底から安堵したように、深い息を吐いた。


「グレンにも苦手なことがあるのを知れたのは嬉しかったけれどね」
「そんなもの星の数ほどあるぞ」


 負担が軽くなるに越したことはない。せっかくのお祝い事なのだから、グレンには楽しんでもらいたい。心から笑っていてほしいのだ、俺の隣で。

 話がひと段落して、ふと沈黙が流れる。

 何を言うでもないが俺は満たされた気持ちで、夜空を見上げた。今夜は晴れていてきらきらと夜空に浮かぶ星がよく見える。
 
 隣でグレンが動いた気配を感じて視線を向けると、俺のことを見ていたらしいグレンと目が合う。

 大きな手が俺の頭を撫で、髪を掬う。慈しむように優しい手つき。

 グレンは俺の髪によく触れる。その感触はとても心地いい。


「髪は伸ばすのか?」
「ん? 特に決めていないよ。結べば邪魔にもならないし」
「そうか」
「グレンは切った方がいいと思う?」
「ライゼルがしたいようにすればいい」
「それは置いておいて、グレンの好みを聞いているんだよ」


 グレンは俺に何かを強制することは無い。

 俺に無関心だとか、興味が無いのではないということは、鈍い俺でも流石に分かっている。

 けれど、もう少しだけ彼の言葉が欲しいと思ってしまった。


「……とても綺麗な髪だから、嫌でないなら伸ばしたままで居てくれると嬉しい」
「ふふ、そっか。分かった。伸ばしたままにするよ」


 自分から欲しがったくせに、頬に熱が集まる。

 そんな俺に気づいたのか、グレンが追い打ちをかけてくる。


「式ではそのまま下ろして飾りを付けても綺麗だろうし、結うのもよく似合うだろうな」
「……そうかな」
「あぁ。戦場で結い上げていた姿も美しかったが」


 彼の空色の瞳が、熱を帯びて俺を射抜く。

 誉め殺しだ。俺はグレンの顔が見られなくなってしまい、俯きがちに身体を右へ倒した。

 自然とグレンの左腕へしなだれる形になる。
 さっきまで触れていなかった太腿同士が触れ、グレンの身体が少しビクッと跳ねたのが伝わってくる。

 無言の時が流れる。数秒が一刻に感じられるようだ。

 強めの夜風がびゅう、と吹いた時、グレンの左腕が動いて俺の背中から左肩に回される。

 温かい手の温度を感じると同時に優しく抱き寄せられた。抵抗の余地なく、彼の領域に引き込まれる。先ほどよりも近づいたお互いの身体。

 心臓の音が聞こえてしまうのが恥ずかしい。ドクン、ドクンと、早鐘を打つ自分の心音が耳障りだ。

 獣人であるグレンはきっと俺よりも耳がいいから、足掻いても無駄だ。

 ゆっくりと俯いていた顔を上げると、思っていたよりも近くにグレンの顔があった。

 少し驚いて離れようとしたが、俺の身体を抱き寄せた腕は思ったより力が入っていて離れられなかった。

 もちろん、俺が本気で嫌がればすぐにグレンは離してくれるだろう。

 俺がどう思っているのかと言うと、嫌じゃなかった。


「グレン……」
「どうした」
「……ううん、何でもない」
「そうか」


 誤魔化すように名前を呼んで、低く優しい声にまた頬が熱くなってしまう。

 また視線を落とした俺をグレンは黙って抱き寄せる。そして掬い上げた髪に唇を寄せた。


「いい匂いだ」


 吐息まじりの囁きが、耳朶を甘く震わせる。
 

「そう、かな」
「あぁ。根源的な匂いは変わっていないが、表面的な身体の匂いは段々似てきている気がして……それが、嬉しい」
「……そっか」


 きっと使っている石鹸やリネンが似てるからだとか、どうでもいいことばかりぐるぐる頭の中を回る。

 グレンの言葉が耳を熱くする。彼の匂いに包まれて、思考が蕩けていくようだ。
 

「……そろそろ寝るか?」
「うん、そうする。……おやすみなさい」


 俺は、お返しとばかりに、グレンの頬に唇を寄せた。

 丸い目を向けてくるグレンに何か言われる前に、そそくさと部屋を出る。

 いつまでも熱い両頬を手で抑えながら、自室へ早足で向かったのだった。







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