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第3章
§30‐3 月影に揺れる夜香木*
しおりを挟む「グレンも、甘えたい気分の時があるんだな」
「……悪いか」
「まさか。すごく……嬉しいよ。見せるのは俺だけにして欲しいけど」
「……」
「そういうことだろ? さっきの」
引き続き言葉無く俺に擦り寄るのを見るに、合っているらしい。きゅう、と愛おしさで胸が引き絞られる感覚がする。
そしてやはり大事にすべきは言葉にして伝えることだと悟る。
「俺が触れたいと思うのは、グレンだけだ」
俺の言葉に、ようやくグレンが顔を上げる。
その表情は熱に浮かされていて、願望が手に取るように分かる。
俺はひとつ笑みを落とすと同時に、グレンの顔に手を添えて啄むようなキスをする。
顔を離すと、すごく恥ずかしそうに眉根を寄せるグレン。
「……居た堪れんな」
「なんでさ。俺はどんなグレンでも、全部知りたいよ」
「……ありがとう」
ハー、と安堵の長いため息が俺の腹を温める。あぁ、可愛いなぁ。
そうしているうちに落ち着いたらしいグレンは、そういえば、と俺に問いかける。
「この箱はなんだ?」
「あ、そうそう……アド兄から渡されてたんだけど、さっき思い出して開けてみた。俺じゃあ手に負えないからグレンと一緒に考えようと思ってたんだ」
「見てもいいのか」
「うん、開けて」
箱を開けたグレンはピタッと一瞬動きを止めた。どうやら一目見ただけで中身を把握したらしい。
「お兄様達はライゼルのことを大事に思ってくれているようだな」
優しい笑みで俺の頬を撫でる。空色を覗くと、軽くキスをしてくれる。
「ゆっくり、な」
「……」
「ライゼル?」
「……俺は、なるべく早く……グレンを受け入れられるようになりたい」
「……っ」
考えるより先に口をついて出た。
言葉で言い表せる理由なんてどうでも良くて、ただ本能がそう叫んでいる。
「そう思ってくれるのは嬉しい。が、絶対にお前を怖がらせたり痛い思いをさせたくない。俺にもそれなりに意地があるんだ」
「頑固だなぁ……」
「なんとでも」
そんなところが、好きだ。胸の内で呟いた俺の鼻頭をグレンが甘噛みする。
静かに絡む視線。沸々と茹で上がった欲望が顔を出す。
グレンが立ち上がり、部屋の大きな灯りを落とし、ベッドサイドのほのかな灯りだけ残す。
ベッドのそばに立って待っていた俺の腕を引いて、優しく横たえる。
すっぽりとグレンに覆い被さられる格好になり、彼の身体の逞しさを改めて感じる。
大きな手が俺の頭を撫でる。眠りに誘われるような心地よさだが、今は期待が眠気覚ましになっている。
頭を撫でていた手が頭と枕の間に差し込まれ、優しいキスをされる。俺は腕をグレンの首に巻いて受け入れる。
「ふっ……んぅ……」
グレンが舌を出すより先に自分から差し出した。機嫌良さそうにそれを絡み取り、深く深くキスをする。
頭の後ろの手によって固定され、逃がさないと言わんばかりの熱いキス。
グレンとキスをすると自分の心が丸裸にされるような気分がする。丸裸にされたい、というのが正しいのかもしれない。
ガウンの紐が解かれる。
頭の下に差し込まれていた手が動き、胸を優しく撫でる。円を描くように撫でるところから始まり、時々胸の蕾を摘まれる。
キスの位置が変わり、首筋や鎖骨あたりを長い舌が這う。一つ一つの性戯に反応して小さく声が漏れてしまうのが恥ずかしいやら悔しいやら。
女性を抱いたことがないので、自分の反応が果たして普通なのかが気になってしまう。それに、扉の前には護衛がいるのも思い出した。
「こえ、我慢できない……っ」
「忘れていた。ライゼルの可愛い声は誰にも聞かせられん」
グレンはヒュッと指を動かして魔法を発動した。何らかの魔力が部屋全体を覆っているのは分かる。
「今のは……?」
「歓迎パーティーの時の魔法に近い。防音魔法だ」
「すごいな……」
「そんなことはどうでもいい……俺は、ライゼルの声が聞きたい」
べろり、胸の蕾が舐め上げられ、空気を強く吸い込む。
蕾は獣の舌によって湿り、ぷっくりと膨らんでいく。
舌先に力を込めてぐりぐり押されると快感が静電気のように身体中を走る。
「あッ、んん!」
「……綺麗だ」
いつの間にかガウンはすっかりはだけている。
灯りの揺らめきで晒される、数々の傷跡。大きな手がそれらを順番に優しい手付きでなぞる。
「グレンなら……気にしないでいてくれると思った」
「よく分かってくれているようで嬉しいな。傷跡はライゼルが多くを守り続けてきた証拠だ」
「……ありがとう……っ」
もしかして、城下を歩いていた時のグレンもこんな気持ちだったのだろうか。好いた相手に自分の辿ってきた軌跡を讃えられることの何と嬉しいことか。
グレンの身体は毛に覆われているから見えにくいが、ところどころに傷があるのは触れ合う中で知っている。グレンは強いから俺より傷の数が少ないかもしれないな。
眼球を歓喜の水膜が覆い、滲んだ目尻を舐められる。
視線が絡むのを合図に舌を差し出し合う。
表も裏もくまなく堪能されるキスで下腹部に熱が集まる。
思わず太腿同士を擦り合わせて快感をやり過ごそうとするが、巨躯がそれを許さない。
グレンは俺の太腿を持って優しく開く。キスは続けたまま器用に自分の身体を足の間に入れ込んだ。
大きな手は膝裏から尻にかけて何度も往復する。
力んでいた脚の力が抜け、股を大きく開く格好になってしまう。
羞恥で顔が熱い。けれどこの痴態もグレンからの愛によるものなら逃げたくない。
絡みついていた舌同士が離れ、イエローグリーンの瞳に涼しさを失い燃えたぎる空色が映る。
グレンも自分のガウンを脱ぎ去り、身ひとつの姿になる。逞しい身体が露になり、惚れ惚れする。すでに身体の中心は熱く滾っており、揺れる灯りでよく見える凹凸が艶かしい。
俺の手を掬い上げ、指同士を絡める。手首の辺りをべろりと舐めて柔く歯を当てる。
ビクッと身体を震わせた俺を見下ろして、熱い吐息で告げる。
「……嫌だったら、全力で抵抗してくれよ」
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