【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第6章

§46‐1 疑惑のスフェーン王国

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 最大の疑問は、魔獣はどこからやってきたのか、ということだ。

 俺はグレンとバノーテ、タイク、ブラスに目配せをして、5人だけで話せる木立のそばへ移動する。日差しが遮られてわずかに涼しく、話し合いにはちょうどよかった。


「さて、この後だけど、俺はまず痕跡を追うよ」
「俺も行こう」
「冒険者の中に探索を得意とする者がいる。呼ぶか?」
「頼む」
「私は隠密部隊の方に連絡を」
「気をつけろよ」

 
 タイクはひとつ頷くと、気配を薄めながら移動していった。まるで水に溶け込むかのように、その姿が視界から消える。彼の気配の消し方はさすがだ。

 続いてバノーテも冒険者たちが集まっているところへ向かって声をかけてくれる。


「ブラスは凍らせた個体を騎士団本部へ移送する段取りをつけてくれるか」
「分かりやした!」


 ブラスは俺の護衛のために残る、と言わず素直に指示を聞いてくれた。グレンが一緒にいるときは護衛をしなくてもいいと安心してくれているようだ。


「なんだぁ? 内緒話か?」
「シーッ!」


 5人だけではなかった。サノメもいるのだ。普段と変わらない音量で話すサノメの口を手で抑える。
 もごもご、と尚も話そうとするので、「静かに話すんだぞ」と諭してから手を離す。


「俺ちゃんにも分かるように説明してくれよ、ライゼル!」
「サノメがさっき焼くのを手伝ってくれた魔獣、あれは恐らくユーディア王国の改造魔獣だろう。でも、今朝届いたティラからの文には、危難まで少し猶予があると書いてあった。アリュールが一緒にいることを考えるとティラからの情報が間違っているとは考えにくい」
「ふむ……つまり……?」


 分かっているのかいないのか、黒目をくるりと丸く輝かせて首を傾げる。
 

「つまり、魔獣は人為的に持ち込まれた可能性がある」


 俺が言いたかったことをグレンが代弁してくれる。その声は低く、感情の波を感じさせない。それを聞いたサノメはなるほど!と宙返りして得心顔だ。


「それで痕跡を追うって話かァ~」
「あぁ。サノメは休んでいてもいいぞ」
「いや、俺も一緒にいたほうが迫力あるじゃん。せっかくだし付き合っちゃうぞ~」
「そうか、助かる」


 素直じゃない物言いが可愛らしい。グレンの不器用な優しさが、サノメには頼ってもらえていないと感じられたのだろう。グレンはサノメを気遣っているだけなのだが、サノメとしてはもっとグレンに頼られたいようだ。

 サノメの参加が決まったところで、バノーテが冒険者を二人連れてきてくれる。


「こいつらは普段から斥候で探索に慣れている。早速始めていいか?」
「あぁ、頼む」


 兎獣人と蛇獣人の冒険者が緊張した面持ちでバノーテの後ろに立っている。それも当然だろう。国王直々に「頼む」なんて言われたら。グレンは威厳があってかっこいいけれど、話しかけやすい雰囲気というわけではないからなぁ。

 俺はその二人の隣に近づいて囁く。


「気負わずいつも通りにやってみてください。もしうまくいかなくてもグレンは気にしないので」
「ひゃ、ひゃい!」
「か、しこまりました……」


 あれ、逆効果だったかな?二人の顔が赤くなって、さらに背筋が伸びてしまった。うっかり、親切のつもりで冷や水を浴びせてしまったかもしれない。

 するとグレンからため息混じりに呼ばれる。


「ハァ……ライゼル、あまり緊張させるな」
「え。俺はグレンのことは気にしないでいつも通りやってね~って言っただけだよ」
「ライゼルが急に近づいて可愛らしく囁いたら初対面の相手は見目の良さに驚いてしまうから、逆効果だ」
「……いや、何さ。嬉しいけど、それはグレンだけだろ」
「ハアァァァ……バノーテ、気にせず進めてくれ」
「グレンも気苦労が絶えんな」


 ひらひらと手を振るグレンにも、半目でグレンを気遣うバノーテにも納得がいかない。さっきの二人は絶対グレンに反応していたのに!

 張り合っても仕方がないので、先に進んだ二人の後を追いながら痕跡を辿る。

 蜘蛛型魔獣が通った場所は草が不自然に枯れているところが多い。この調子でいけば辿るのは簡単かもしれない。

 広大な畑の端までたどり着き、森の入り口に差し掛かる。そこで先頭の二人が足を止める。


「森の方へと痕跡が続いているようです」


 冒険者の二人が言うには森の入り口付近にあるのは一方向の痕跡だけだというので、引き続き森の中を追うことにする。

 まだ日が高い時間帯だが頭上の枝葉が天蓋のように光を遮り、薄暗い。俺にとっては落ち着けるはずの場所なのに、心のざわつきが止まない。森から発する魔力が揺らいでいる気配がするのだ。何かに怯えているかのように震え、嫌な湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。


「森の様子がおかしい」
「魔獣のせいか」
「おそらく……自然の道から外れた異物だからな」


 早足で進みながらグレンと会話を交わす。その顔が俺の言葉を聞いて一層険しくなる。

 そのまま体感にして四半刻ほど経過したところで、木々の無い開けた草原に出る。視界が一気に開け、日差しに目を細めた。


「ここにこんな開けた場所、あったか?」
「この辺りはあまり依頼の対象になることが無いので……よく分かりませんね」


 不思議がるバノーテ。冒険者たちも馴染みの場所というわけではないようだ。

 その場の痕跡を皆で調べ始める。普通に考えれば、俺たちが進んできた方向と反対方向に痕跡が残っているはずだ。うっかり毒に触れないよう、剣を使って草むらを掻き分けて地面を凝視する。

 しかしいくら探しても開けた草原から森へ続く痕跡が見つからない。
 

「どうだ」
「見つからなかったね」
「俺ちゃんも見つけられなかった……」


 しょぼくれているサノメをグレンが頭を撫でてやる。


「気にするな。『見つからない』ことが答えなのだろう」


 グレンの発言に皆が首を傾げる。


「よく音を聞いてみろ」


 グレンが人差し指で耳を指し示す。
 言われた通りに耳を澄ませる。目を閉じると、世界の音が鮮明になる。

 ――――葉同士が触れ合う音、風がのびのびと走る音、鳥の高い鳴き声。そして……馬車の車輪音。
 

「馬車……? ここは街道が近いのか?」
「整備された広い街道はもう少し先です。手前に商人たちの使う古い道があったはずです」
「行ってみよう」


 バノーテが記憶を手繰り寄せながら言う。再び冒険者二人を先頭に音がする街道の方へ行く。

 開けた草原から歩いて行くと、思っていたよりも近いところに道が出てきた。幅は普通の荷馬車が2台並べる程度。


「思ったより近い道があるんだな」
「この辺りを調べよう」


 凸凹した足元の悪い道の傍の草むらを調べていく。特に凹みが強い道の横で目を凝らしてみると、妙に規則的な跡があった。

 その跡を踏まないように追っていくと、先ほどの開けた草原に続いていた。

 規則的な跡は幅の太い線だが、直線ではない。左右へ不規則に曲がりながら進んでいく跡だ。しかし跡は線状のものだけではなく、人の足跡も残っている。そのどちらもが何重にも重なっているように見える。


「……何か物を押して……荷車、にしては小さいな。……樽か?」


 もし、樽を転がしながら歩いたら、このような跡が残るかもしれない。確信は持てなかったがグレンに話してみる価値はある。

 グレンを呼んで痕跡を見せ、俺の考えを話す。


「その線は濃いかもしれないな」
「樽に入れた何かをあっちで放って、一斉に動かした……って、そんなことできるのか」
「そのあたりはティラが持ち帰る情報に期待しよう」
「む? 土のが戻ってくるのか?」
「うん。今朝文が届いたんだ」


 サノメにティラとアリュールが戻ってくることを伝えると、「甘味で労ってやらねば!」と小躍りしている。自分が食べたいだけだな。

 バノーテたちも呼び、痕跡を見せる。冒険者の二人からも何かを引きずったというよりは、転がして移動させたように見えるという意見が出た。


「よし。一度城に戻り、情報を精査する。ライゼルが凍らせてくれた個体は騎士団へ分析に回す」


 俺たちは一度城へ戻ることにした。戻る間も森から感じる妙なざわめきは変わらず、嫌な予感がしこりを残した。






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