赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第一部:国家の価値はゼロから始まる

第四節:兵制改革と武人ガロウの忠誠(後編)

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 武器の音が、朝靄に溶けていた。

 視察と称して、リィナは何度も辺境駐屯地を訪れていた。
 任務ではなく、ただ己の目で“変わってゆく現場”を見届けたかったのだ。

 あの男──加賀谷零が、何を見て、何を変えようとしているのかを。 

 「今日から、新しい訓練区分に入る。各分隊長は指導要領を確認して──」

 淡々と告げるガロウの声は、いつにも増して張り詰めていた。

 リィナの視線の先で、兵たちは以前よりも引き締まった顔つきで整列していた。
 服装こそまだ統一されてはいないが、動きに無駄がない。視線が揃っている。 

 加賀谷は、演台の傍らで控えていた。
 姿勢は崩しているのに、視線だけは鋭い。
 数字の世界でしか生きてこなかったはずの男が、今は軍を見ている。

 ──それが、妙に馴染んでいるのが、少し悔しい。 

「リィナ様、こちらへ」

 横から声がした。
 帳簿を携えたミロ・クレインが、彼女にそっと資料を手渡す。

「え、えっと……これは、訓練にかかる日数と、人的リソースと、あと支給品の支出予定と……それから、ガロウ隊長の提案した兵装改修の案です」

 ページをめくると、手書きとは思えぬ精緻な図表が並んでいた。
 既存の備品を流用し、補強材を追加することで数割の耐久性向上が見込めるという。
 しかも、金はかけない。加賀谷の命題でもあった。
 
「……本当に、ここまで変えたのですね」

 リィナの声は、思わず漏れた独白だった。

 ただ軍制を“整える”だけではない。
 加賀谷は、意志のある者に“変える余地”を与えていたのだ。
 
 ある日の会議室。

「予備兵の制度を見直したい。今のままじゃ、有事の招集が形骸化してる」

 加賀谷が言った。

「常備兵の人数も足りません。民間人に訓練を……?」

 リィナが問うと、彼はわずかに笑った。

「戦うためじゃない。“抑止力”として、整っているように“見せる”ことが必要なんだ」

 それが“軍の意味”だと、彼は言った。

 国家が信用されるために、通貨が通じ、法が機能するために──力が要るのだと。
 
 加賀谷は、“剣を振るう”ことを望んでいなかった。
 それでも、“剣が抜かれる可能性”を否定しなかった。
 その現実感が、リィナには不思議と頼もしく映った。
 
 そして何よりも──
 ガロウが、その加賀谷に「仕える」のではなく、「共に立つ」と選んだことが、嬉しかった。
 
 あの日、握手を交わした二人の姿が、今も瞼に焼き付いて離れない。 

 「……ふふっ」

 リィナは静かに、空を見上げた。

 かつてこの国を“箱庭”と呼んだ自分がいる。

 だが今──その箱庭の土は、確かに耕されはじめていた。
 
 ──兵制改革は、着実に進んでいる。

 そしてミティア公国は、「守れる国」へと歩みを進めていた。
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