赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第二部:国内動乱編

第一節:静けさの中の予兆

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 春の風が城を抜ける頃、ミティア公国は穏やかな日々を迎えていた。

 国家の帳簿は整い、軍の再編は進み、食料供給の目処も立った。
 交易路を通じて金が回り、農地改革の成果が、次々と収穫に現れ始めていた。

 ──嵐の前には、いつも静寂がある。

 その日も、加賀谷は執務室にいた。
 だが机に広がっているのは帳簿ではない。ややくたびれた地図帳と、民間から寄せられた子どもたちの落書きだ。

 「これは……うさぎか? いや、角があるな。モンスターうさぎか?」

 「それ、森の東で保護された魔獣ですよ。“ラビクス”だったかと。見覚えがあるので」

 背後からリィナの声がした。
 振り返れば、彼女がそっと茶を運んできていた。見慣れぬ藍色の陶器のカップに、湯気が立っている。

 「最近、領内でこういう魔獣の目撃が増えてるらしいですよ。環境の変化か、農地の開拓のせいか……」

 「ああ、干拓と伐採をやったからな。出てきても不思議じゃないか」

 加賀谷は苦笑しつつ、手に取ったカップの香りをかぐ。ほんのりとシナモンが香る。

 「……変わったブレンドだな。香りでごまかしてる?」

 「“新しいお茶が飲みたい”と仰ったのは、どなたでしたっけ?」

 「参りました」

 リィナがほっと微笑む。
 以前の彼女なら、皮肉も冗談も本気で受け止めていたはずだった。

 けれど、今は違う。
 この男に振り回されながらも、歩みを揃えていく自分がいる。

 「そういえば……レオン・グレイブの隊商が、また南港に戻ってきたそうですよ」

 「動きが早いな。あの男は一度信用したら、手を抜かないタイプだ」

 「……本当に“信用”しているんですか?」

 「信用というより、利害が一致してるだけだな」

 そう言って、加賀谷は目を細め、視線を窓の外へ向けた。
 春光に照らされた中庭では、兵士たちが剣の稽古をしている。ガロウが兵士長として指導に当たっている姿が、遠くに見えた。

 「──今のうちに、守りを固めておく必要がある」

 「“今のうち”?」

 リィナが問うた。

 加賀谷は頷いた。
 穏やかな空気の裏に、ぴたりと貼りついたような警戒を、リィナは感じ取る。

 (……この人は、何かを感じている)

 しかし──次の瞬間。
 部屋の扉が、無言で開いた。

 風が、ひゅう、とすり抜ける。
 その気配に、加賀谷は即座に体を反転させ──

 「下がれ、リィナ」

 そう言うより早く、音もなく“何か”が、加賀谷へと襲いかかった──。
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