赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第一部:国家の価値はゼロから始まる

第六節:実りの兆し

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それから二度、春が来て──

 「ほら、また芽が出てる。去年より早いんじゃないか?」

 畑の隅で、ガロウが手を腰に当てて笑った。軍服のまま鍬を持つ姿はやや異様だったが、当の本人はごく自然に馴染んでいる。

 「……将軍が畑に立つ国なんて、聞いたことないんですけど」

 ミロが日除けの帽子を押さえながらぼやく。

 「いいんだよ。兵も訓練ばかりじゃ気が滅入る。こういう“地に足のついた”仕事が、案外士気を上げるもんだ」

 「そうですかね……」

 ガロウは満足げにうなずいた。

 この開墾地一帯は、元は森だった場所だ。魔法で伐採され、地ならしされ、水脈を引き、いまでは畑として再生されている。人手だけでは到底間に合わなかったこの作業を、支えているのがミロの設計した“魔導ゴーレム”だった。

 「でも、本当にやれるとは思わなかった。あの人、“自分たちで作らなくていい”って言った直後に、思いっきり自分たちで耕しはじめるんだもん……」

 ミロの視線の先には、小高い丘の上に立つ政庁舎。その最上階の執務室には、きっと今も加賀谷がいるのだろう。

 「カガヤ様の言ってた“時間を買う”って、こういうことだったのかもしれませんね」

 レオンによる中継貿易で得た外貨。それを一部回して、農地を整備し、水路を敷き、道具を供給し、農家に報酬保証を設けた。

 その投資は、たった一年で結果を見せはじめている。

 ガロウが麦の芽を見つめながら、ぽつりと呟いた。

 「戦がすべてを解決すると思っていた。だが、あの男は──一度も剣を振るわずに、国を動かしている」

 「それが、“戦わずして勝つ”ってことなんでしょうね」

 ミロも小さく笑った。

 公国の畑には、若者たちの姿が増えていた。かつては飢えで流出していた労働力が、いまは“富の種”を撒く者となっている。

 誰かが言った。

 「耕せば、報われる」──と。

 そう思わせる国に、このミティアは、変わりはじめていた。
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