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第二部:国内動乱編
第三節:急襲への逆襲(後編)
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ガロウがゆっくりと剣を下ろす。
部屋には、荒い息づかいと、わずかに焦げた魔素の残り香だけが漂っていた。
「……制圧完了。残敵なし」
近衛の一人がそう報告し、ようやく緊張が緩む。
リィナは、壁に寄りかかるようにして腰を下ろした。
薄く、しかし確かに微笑む。
「……来てくれたのですね、カガヤ」
「ああ。約束したからな。生きて、戻るって」
リィナはほんの少しだけ、目を伏せた。
そして、静かに頷く。
* * *
「……急襲を退けたか」
加賀谷は亜麻色の床を見下ろし、短く息を吐く。ガロウは剣を鞘に収めながら肩口の血を押さえた。
応急処置を終えたガロウは、片膝をつきながらも、城内地図と戦力配置の簡易図を前に目を走らせていた。顔色は悪いが、声には芯がある。
「……やはり、内部の貴族だけでは、ここまで整った動きはできん」
ガロウは低く言い切った。
「襲撃が刺客だけで終わるわけがない。やつらは既に“次”を見据えて動いている。つまり……外部の戦力を引き込んだ可能性が高い」
加賀谷が頷く。
「俺もそう考えてた。だが、根拠がなければ“反乱”の断定はできない。だから──ミロ、出してくれ」
「は、はいっ!」
ミロがばたばたと端末を抱えて駆け寄る。幾枚かの書類が、投影魔術で空中に広がった。
「これは……?」
リィナが目を細めた。
「“反乱の可能性がある貴族”のリストだ」
加賀谷が淡々と言う。
「二週間前から、ミロに調査を依頼していた。税の支払いや書簡の動き、そして人の出入り……複数の異常が見られた家がある」
「この資金の流れ……見てくれ」
加賀谷が指し示したのは、複数の金商と物資供給ルートを繋いだ赤い線だった。まるで神経網のように絡み合い、ある一点へと収束している。
「最終的に物資が運び込まれてるのは、東部山沿いの砦跡地。地の利もある。武器、兵糧、輸送規模から見て──少なくとも三百から五百はいる」
「……兵の練度は?」
「このペースでの物資消費、それに訓練用具や小型の負傷用医薬品の動きもある。実戦経験あり、士気も統率も高いと見ていい」
ガロウは資料を一瞥すると、即座に対応策を口にした。
「精鋭を分断し、本隊とは別に動かせる地点が三つある。陽動を混ぜれば、拠点側からも釣り出せる。補給路の遮断と合わせて、包囲戦の形を取るべきだ」
「殲滅は難しいだろうな。連中も後がないから、正面からのぶつかり合いは避けてくる」
「だが、鎮圧は可能だ」
ガロウが言い切る。
「彼我の戦力差を計算すれば、勝機は十分ある。問題は、こちらの損耗をいかに抑えるかだ」
「……戦場を選ぼう。奴らが本当に狙ってくるなら、王都を守りながら、逆に戦線を誘導できる」
加賀谷は背後の地図に手をかけ、ルートを指し示した。
「南東の街道。補給も展開も取りやすい。そこに偽の備蓄と通信を流す。奴らが釣られれば、砦を空にできる」
「ならば俺が南から回り込む。退路を断てば、砦を制圧できるな」
「頼む。ガロウ」
「任された」
二人の視線が重なり、静かに頷き合う。
――敵の顔はまだ見えない。
だが、敵の動きは、すでに読まれていた。
加賀谷の冷静な分析と、ガロウの戦術眼。
その組み合わせこそが、国家を守る“壁”となる。
そして、彼らは迷わず動き出す。
この国に、まだ守る価値があると信じているからこそ。
部屋には、荒い息づかいと、わずかに焦げた魔素の残り香だけが漂っていた。
「……制圧完了。残敵なし」
近衛の一人がそう報告し、ようやく緊張が緩む。
リィナは、壁に寄りかかるようにして腰を下ろした。
薄く、しかし確かに微笑む。
「……来てくれたのですね、カガヤ」
「ああ。約束したからな。生きて、戻るって」
リィナはほんの少しだけ、目を伏せた。
そして、静かに頷く。
* * *
「……急襲を退けたか」
加賀谷は亜麻色の床を見下ろし、短く息を吐く。ガロウは剣を鞘に収めながら肩口の血を押さえた。
応急処置を終えたガロウは、片膝をつきながらも、城内地図と戦力配置の簡易図を前に目を走らせていた。顔色は悪いが、声には芯がある。
「……やはり、内部の貴族だけでは、ここまで整った動きはできん」
ガロウは低く言い切った。
「襲撃が刺客だけで終わるわけがない。やつらは既に“次”を見据えて動いている。つまり……外部の戦力を引き込んだ可能性が高い」
加賀谷が頷く。
「俺もそう考えてた。だが、根拠がなければ“反乱”の断定はできない。だから──ミロ、出してくれ」
「は、はいっ!」
ミロがばたばたと端末を抱えて駆け寄る。幾枚かの書類が、投影魔術で空中に広がった。
「これは……?」
リィナが目を細めた。
「“反乱の可能性がある貴族”のリストだ」
加賀谷が淡々と言う。
「二週間前から、ミロに調査を依頼していた。税の支払いや書簡の動き、そして人の出入り……複数の異常が見られた家がある」
「この資金の流れ……見てくれ」
加賀谷が指し示したのは、複数の金商と物資供給ルートを繋いだ赤い線だった。まるで神経網のように絡み合い、ある一点へと収束している。
「最終的に物資が運び込まれてるのは、東部山沿いの砦跡地。地の利もある。武器、兵糧、輸送規模から見て──少なくとも三百から五百はいる」
「……兵の練度は?」
「このペースでの物資消費、それに訓練用具や小型の負傷用医薬品の動きもある。実戦経験あり、士気も統率も高いと見ていい」
ガロウは資料を一瞥すると、即座に対応策を口にした。
「精鋭を分断し、本隊とは別に動かせる地点が三つある。陽動を混ぜれば、拠点側からも釣り出せる。補給路の遮断と合わせて、包囲戦の形を取るべきだ」
「殲滅は難しいだろうな。連中も後がないから、正面からのぶつかり合いは避けてくる」
「だが、鎮圧は可能だ」
ガロウが言い切る。
「彼我の戦力差を計算すれば、勝機は十分ある。問題は、こちらの損耗をいかに抑えるかだ」
「……戦場を選ぼう。奴らが本当に狙ってくるなら、王都を守りながら、逆に戦線を誘導できる」
加賀谷は背後の地図に手をかけ、ルートを指し示した。
「南東の街道。補給も展開も取りやすい。そこに偽の備蓄と通信を流す。奴らが釣られれば、砦を空にできる」
「ならば俺が南から回り込む。退路を断てば、砦を制圧できるな」
「頼む。ガロウ」
「任された」
二人の視線が重なり、静かに頷き合う。
――敵の顔はまだ見えない。
だが、敵の動きは、すでに読まれていた。
加賀谷の冷静な分析と、ガロウの戦術眼。
その組み合わせこそが、国家を守る“壁”となる。
そして、彼らは迷わず動き出す。
この国に、まだ守る価値があると信じているからこそ。
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