赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第二部:国内動乱編

第四節:叛意の輪郭

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 夜明け前、湿った風が南東の砦に吹いていた。古びた石造りの砦の一角に、粗末な机が置かれ、蝋燭の火がかすかに揺れる。

 その前で、バルト・グレノア伯が眉をひそめて地図を睨んでいた。

 「……ずいぶん、金の匂いがしてきやがった」

 指先で、王都と南東街道、さらに貿易港と運河の位置関係をなぞる。

 かつてのグレノア領は、鉱脈が尽きたことで経済が崩壊し、名ばかりの伯爵家に落ちぶれていた。だが、最近の“帳簿の整った国家”ミティア公国は違う。内政の整備が進み、交易が開き、各地に貨幣が回り始めた。

 “旧ミティア”には価値がなかった。だが今のそれは、抜け目なく改造されている。――だからこそ、今こそ奪う。

 「仕掛けるなら今だ。奴らが完全に立て直す前に……骨ごと持っていく」

 その隣、壁にもたれていた傭兵団〈黒狼隊〉の指揮官・ハーシェルが、くく、と喉を鳴らして笑った。

 「戦は嫌いじゃねえがな。伯爵様、金の話ははっきりしておこう。俺たちは“勝てそうな戦”にしか乗らねぇ」

 「わかっている。前払いはした。さらに、砦を抑えた段階で倍額――王都が落ちたら、そのまま防衛隊長の座をくれてやる」

 ハーシェルは鼻で笑い、手元の短剣で卓上のりんごを突き刺した。

 「そいつは楽しみだ。……で、本隊の動きは?」

 「加賀谷は“脱出”したらしいが、まだ王都にいる可能性もある。今のうちに南東街道を抜けて、補給路を断つ。それから一気に王都へ攻め上がる。退路さえ潰せば、連中は孤立する」

 「……へぇ。そううまくいくかねぇ」

 ハーシェルはりんごをひと口齧りながら、夜明けの空を見た。

 「軍人上がりのガロウってやつがいるんだろ? あいつがまだ動けるなら、そうそう雑な手は打ってこねぇ」

 ハーシェルは、ぶっきらぼうにそう言いながらも、地図の一角――南東街道沿いの古砦に視線を落とした。

 「だが、連中がいま守りに徹してるって時点で、逆に動けねえって証拠さ。リィナ公女も負傷、加賀谷も逃げ延びたって話だ」

 「……つまり、“要”を欠いた王都は、守りの形だけで手いっぱい。数に勝る我らが一気に押し切れる。そういうことか?」

 「ま、そう読めるな。なにより、今のうちに砦を押さえちまえば、兵站も絶たれる。王都は餓える」

 そう結論づけると、バルト・グレノアは冷たく口元を歪めた。

 「腐りきった国でも、帳簿が整えば旨味が出る。……奪うなら、今だ。整いきる前に、ぶん取ってやる」

 地図上の赤い線――南東街道は、まるで血管のように王都へ伸びている。
 まさにそこが、加賀谷たちの“撒き餌”だった。
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