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第二部:国内動乱編
第五節:作戦開始
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夜の王城地下、石造りの通信室。淡い魔導灯が照らす中、加賀谷は静かに転送石へと手を伸ばした。
「これが……最後の“合図”だな」
淡く光る石に、ミロが組んだ偽装符を添える。緻密な魔術刻印が走り、暗号通信として変換されていく。
内容は単純だ──
〈城外新倉庫に食糧二十日分、矢弾八千。近衛主力が負傷により後退中〉
「……餌にはちょうどいい。これで釣れなきゃ、それはそれで好都合だ」
加賀谷は呟きながら、手元の地図に視線を落とす。
この情報は、“密偵が掴んだ”という体裁で小規模運送ギルドの暗号経路に流した。あえてセキュリティの甘いルートを通すことで、敵側にとって「盗んだ」と思わせる。
受け取るのは、傭兵団〈黒狼隊〉の指揮官・ハーシェル。彼らのような“実利で動く剣”は、戦利品と奇襲性さえ整っていれば、まず動く。
「黒狼隊が釣られれば、砦は空になる。あとは──」
「回り込むだけですねっ」
横でミロが頷いた。小さくても、きちんと戦場の意味を理解している目だった。
「魔導傀儡の配置も完了済みです。細工粉は風で拡散される距離も調整済み。あとは“彼ら”が動くのを待つだけです……!」
「よし。あとは任せる。俺たちは、そっちに先回りして──」
「包囲線を築く。……ガロウに伝令を」
加賀谷は言い切ると、軽やかに踵を返した。
戦場は、すでに静かに形を変えつつあった。
* * *
「いいか、ハーシェル。近衛が後退してるって情報が本物なら、王都の西門は抜ける。兵糧も奪える。加えて王家の顔も潰せる。……これほどの好機、二度とねぇぞ」
「わかってる。だからこそ、俺の兵を先に走らせた」
ハーシェルが顎をしゃくると、前方に黒狼隊の先遣部隊が見えた。各分隊は五十名単位に分かれ、月影の下を無音で移動している。騎馬と歩兵の混成、戦歴百戦超の古兵揃い。斥候を兼ねたザルダ蛮族の騎射隊も、街道の外縁を走っていた。
「蛮族どもは火を入れるのが好きだからな。備蓄倉庫にゃ最初に火をつけさせりゃいい」
バルトは乾いた笑いをこぼした。
「燃えれば証拠も残らんし、騒ぎも大きくなる。あとは城門が開けば、それで終いよ」
そのとき、前方から斥候のひとりが馬を駆って戻ってきた。
「報告! 備蓄砦、視認圏内! 門には守備の影なし、倉庫棟に燈火一つ!」
ハーシェルの口角が上がる。
「……やっぱりな。ほんとに手薄になってやがる。舌の根も乾かぬうちに運が転がってきたか」
グレノアもまた、目を細めて前方を見やった。
「行け。城を苛むなら兵糧を焼け、と古より言う」
ハーシェルが剣を抜きざま、掲げた。
「全軍、突入――!」
その号令と同時に、黒狼隊の精鋭が砦へ雪崩れ込んだ。
──が、次の瞬間。
倉庫の扉が開かれたその床に、魔導符が淡い青光を放ち、爆ぜるように煙が噴き出した。
「っ、煙幕だ! 罠──下がれ、全員下がれっ!」
ハーシェルが怒鳴るより早く、砦外縁の木柵が裂ける。
霧と煙の狭間から突き出す、鋼の槍列。
「な……!」
脇腹を抉るような衝撃。黒狼隊の第二列が、左右から崩されていく。
その先頭には、赤い外套をまとった一人の男――
「……ガロウかよ」
ハーシェルが苦々しく吐いた名を、月光が照らす。
「これが……最後の“合図”だな」
淡く光る石に、ミロが組んだ偽装符を添える。緻密な魔術刻印が走り、暗号通信として変換されていく。
内容は単純だ──
〈城外新倉庫に食糧二十日分、矢弾八千。近衛主力が負傷により後退中〉
「……餌にはちょうどいい。これで釣れなきゃ、それはそれで好都合だ」
加賀谷は呟きながら、手元の地図に視線を落とす。
この情報は、“密偵が掴んだ”という体裁で小規模運送ギルドの暗号経路に流した。あえてセキュリティの甘いルートを通すことで、敵側にとって「盗んだ」と思わせる。
受け取るのは、傭兵団〈黒狼隊〉の指揮官・ハーシェル。彼らのような“実利で動く剣”は、戦利品と奇襲性さえ整っていれば、まず動く。
「黒狼隊が釣られれば、砦は空になる。あとは──」
「回り込むだけですねっ」
横でミロが頷いた。小さくても、きちんと戦場の意味を理解している目だった。
「魔導傀儡の配置も完了済みです。細工粉は風で拡散される距離も調整済み。あとは“彼ら”が動くのを待つだけです……!」
「よし。あとは任せる。俺たちは、そっちに先回りして──」
「包囲線を築く。……ガロウに伝令を」
加賀谷は言い切ると、軽やかに踵を返した。
戦場は、すでに静かに形を変えつつあった。
* * *
「いいか、ハーシェル。近衛が後退してるって情報が本物なら、王都の西門は抜ける。兵糧も奪える。加えて王家の顔も潰せる。……これほどの好機、二度とねぇぞ」
「わかってる。だからこそ、俺の兵を先に走らせた」
ハーシェルが顎をしゃくると、前方に黒狼隊の先遣部隊が見えた。各分隊は五十名単位に分かれ、月影の下を無音で移動している。騎馬と歩兵の混成、戦歴百戦超の古兵揃い。斥候を兼ねたザルダ蛮族の騎射隊も、街道の外縁を走っていた。
「蛮族どもは火を入れるのが好きだからな。備蓄倉庫にゃ最初に火をつけさせりゃいい」
バルトは乾いた笑いをこぼした。
「燃えれば証拠も残らんし、騒ぎも大きくなる。あとは城門が開けば、それで終いよ」
そのとき、前方から斥候のひとりが馬を駆って戻ってきた。
「報告! 備蓄砦、視認圏内! 門には守備の影なし、倉庫棟に燈火一つ!」
ハーシェルの口角が上がる。
「……やっぱりな。ほんとに手薄になってやがる。舌の根も乾かぬうちに運が転がってきたか」
グレノアもまた、目を細めて前方を見やった。
「行け。城を苛むなら兵糧を焼け、と古より言う」
ハーシェルが剣を抜きざま、掲げた。
「全軍、突入――!」
その号令と同時に、黒狼隊の精鋭が砦へ雪崩れ込んだ。
──が、次の瞬間。
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「っ、煙幕だ! 罠──下がれ、全員下がれっ!」
ハーシェルが怒鳴るより早く、砦外縁の木柵が裂ける。
霧と煙の狭間から突き出す、鋼の槍列。
「な……!」
脇腹を抉るような衝撃。黒狼隊の第二列が、左右から崩されていく。
その先頭には、赤い外套をまとった一人の男――
「……ガロウかよ」
ハーシェルが苦々しく吐いた名を、月光が照らす。
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