赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第三章:資本の光は辺境から

第三節:金は貸すもの──ギルド銀行の誕生

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朝の執務室。窓から差す光で、机の上の硬貨が小さくきらめいた。
 魔鉱貨、帝国金貨、銅貨——形も重さも違う金属が、散らばったまま動かない。

 「これが最初の壁だ」
 加賀谷零は椅子に浅く腰を掛け、硬貨を指で弾いた。澄んだ音が一つ。

 「通貨はそろった。けど人はまだ、どれを信じればいいか迷ってる」

 リィナは向かいで帳簿を閉じる。
 「共通通貨を作っただけでは不十分、と?」

 「ああ。次に越える壁は“払ってもらえる”という信用だ」
 加賀谷は羊皮紙に二本の線を引いた。
 「商品があっても現金が足りなきゃ取引は止まる。だから後払いを保証する“封印手形”を用意する」

 「魔法で改ざん不能にするのですね」
 リィナの瞳が光る。いつしか彼女は数字の議論に物怖じしなくなっていた。

 「最後の壁は資金源。店を開きたくても元手がない連中が山ほどいる」
 加賀谷は新しい紙を取り出し、中央に大きく“銀行”と書いた。
 「貸す場所を作る。利息は初年度ゼロ。黒字になったら利益連動だ」

 「商人ギルドは渋りますわ」
 「利で動く相手だ。儲け口を見せれば黙る」

 そのやり取りを後ろで聞いていたミロが小さく手を挙げた。
 「れいしゃちょー、試算は出てます。預金が集まれば一年で貸付原資は三倍に膨らみます!」

 「よし、実行だ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 数日後。王都の中央通りに新築の石造りが完成した。
 《ギルド信用取引所》——扉が開くと同時に、行列ができる。

 「利息ゼロって本当か?」
 真新しい窓口に、あごひげの商人が身を乗り出す。

 「初年度は利息なし。黒字になったら返済の二割を納めてもらいます」
 案内役のギルド員が封印手形を差し出した。淡い魔法光が走り、偽造防止の紋章が浮かぶ。

 「二割? 帝国の金貸しは五割取るぞ」
 背後の農夫が目を丸くする。

 「払えないときは?」
 「倉庫を魔導で封印します。返済が済めばすぐ解除」
 ギルド員は淡々と答えた。

 列の最後尾にいたレオン・グレイブが、頬杖をついてにやけている。
 「利息ゼロに担保封印。これじゃ古株の金貸しが泣くわけだ」

 加賀谷は肩をすくめた。
 「金の流れは早い者勝ちだからな」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 夕刻。行列が途切れた取引所の二階バルコニーで、リィナが街を見下ろした。
 朝は閑散としていた通りに、荷車が行き交い始めている。

 「……動いていますわね」
 陽が傾く石畳に、彼女は小さく笑みをこぼした。
 「通貨——信用——融資。三つそろうと、本当に人が動くのですね」

 「血が巡り始めただけだ」
 加賀谷は隣に立ち、遠くを指さす。
 「次は、運ぶ血管と、働く筋肉を作る。自由都市と雇用市場だ」

 リィナは風に揺れる髪を耳にかけ、真剣な横顔を見つめた。
 「そのときは、わたくしも前線に立ちますわよ」

 「頼りにしてる」
 加賀谷は短くそう言い、歩き出した。

 魔鉱貨の音が、夕暮れの石畳に小さく響いた。

 魔鉱貨の澄んだ音が石畳に跳ねる。
 加賀谷が歩き出そうとしたとき、リィナの袖がそっと彼のマントをつかんだ。

 「大公閣下。せっかく街が動き出したのですもの、わたくしたちも“お金を回す側”になりませんか?」

 加賀谷は目を瞬き、すぐに口角を上げる。
 「――いい提案だ。自分たちで火を入れないとな」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 夜の王都。中央通りは、魔導灯と屋台の明かりで昼間以上ににぎわっていた。
 香ばしい串焼きの匂い、焼き菓子の甘い香り、行商人の威勢のいい声。魔鉱貨が小気味よくやり取りされ、通りは活気に満ちている。

 「まずは、あの菓子を」
 リィナが指さした先の屋台で、薄紫色の花蜜ケーキが並んでいた。

 「二つ頼む」
 加賀谷は魔鉱貨を置く。屋台の主人は目を丸くし、深々と頭を下げた。

 「まさか大公閣下じきじきに……あざっす!」

 受け取ったケーキを一口。花蜜の優しい甘さが口いっぱいに広がる。
 リィナは目を細めた。

 「これだけで、ここに人が集まる理由がわかりますわ」

 「金が回れば、味にも投資できる。味が上がれば、さらに人が来る。正の循環だな」

 そのあと二人は、革細工の屋台で財布を新調し、流行りの魔導小物を試し、路地裏の歌姫が奏でる笛の音を足を止めて聴いた。

 歩きながら、加賀谷がふと笑う。

 「経済を語るより、こうして使うほうが早いかもしれないな」

 「ええ。数字の裏には、こういう楽しい夜が隠れていますもの」

 リィナの頬に夜灯が映え、その笑顔に加賀谷も思わず見とれた。
 だが次の瞬間、彼は軽く手を叩く。

 「よし。今日は“実地検証”だ。もっと使おう。屋台を全部回るぞ」

 「ぜ、全部!?」

 「俺たちが回れば噂になる。明日には、“大公と公女が夜市で散財した”って見出しが載るさ。宣伝費も兼ねてる」

 リィナは困ったように笑い、少しだけ頬を染めた。
 やがて肩を並べると、二人は活気あふれる夜の通りへ再び踏み出した。

 魔鉱貨が跳ね、笑い声が弾む。
 公国の経済は、今夜も着実に回り始めていた。






◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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