赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第三章:資本の光は辺境から

第二節:信用経済の胎動

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 貴族会議が驚くほど静かに終わった。
 大抵は誰かが難癖をつけて長引くのに、今回は拍子抜けするほどまとまった。

 「――あの男のおかげか」

 加賀谷は席を立ちながら、数日前の光景を思い返す。

 廊下の中央、赤い外套を翻した長身の男が一礼した。
 ヴァルド・レヴァンティス。かつて帝国外交を取り仕切り、今はミティア随一の大貴族。

 「お噂はかねがね。遅ればせながら、レヴァンティス家一同、閣下の改革に与(くみ)する所存です」

 抑えた声に潜む熱。
 差し出された手を、加賀谷はゆっくり握り返した。
 信用できる。ただし、信頼はまだ先――それが今の判断だ。

 会議が散会し、誰もいなくなった会議室。
 扉が閉まったのを見届けてから、ヴァルド・レヴァンティスはそっと片膝をついた。
 絨毯の深みに声が吸い込まれていく。

 「閣下ほどの方が、この国に現れるとは……。
 ──“数字で人を救う”と掲げ、それを現実に移せる方など、二百年の歴史を遡ってもいなかった」

 囁くような言葉は、誰にも聞こえない。だが本心だけがにじみ出る。

 「私利私欲ではなく、理と利を両立させる御方……。
 その御力のもとで働けるなら、これ以上の誉れはございません」

 ヴァルドは静かに立ち上がり、表情を平静に戻して去っていった。
 ――加賀谷はこの独白を知らない。


 *

 夜明け前の執務室。
 書類を片付けながら、加賀谷がぽつりと漏らした。

 「帝国を経済で叩く――その前に、三つ壁がある」

 リィナが顔を上げる。

 「三つ、ですか」

 「まず通貨がバラバラ。銀貨、銅貨、帝国金貨、そして魔鉱貨。価値の“ものさし”が揃わないと、商人は計算できない」

 「たしかに、市場でも毎回換算していて面倒ですわ」

 「二つ目。払える保証がない。現金が足りない町では “来月払う”と口約束で終わる。信用がないから物も動かない」

 「信用を形にする仕組みが必要、と」

 「最後は金を借りる場所がない。商売を広げたくても、誰も貸してくれない。 ――流れが止まるわけだ」

 リィナは腕を組み、机上の硬貨を見比べた。

 「解決策は?」

 「こうする。
 ①魔鉱石を裏付けに、新しい共通通貨を発行する。
 ②魔導で偽造できない“封印手形”を作り、後払いでも取引できるようにする。
 ③商人ギルドと手を組み、利息つきで金を貸す“銀行”を置く。」

 リィナの瞳がわずかに輝く。

 「通貨・信用・融資……三つ揃えば、血液みたいにお金が回るのですね」

 「ああ。まずは心臓を作る。動き出したら、帝国の方からレートを気にして寄って来るさ」

 加賀谷は魔鉱貨を軽く弾き、静かな音を聞いた。
 通貨と約束――その二つを動かす歯車を、これから作る。






◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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