赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第四部:帝国との第二戦

第五節:この都市を売る者、この都市を守る者

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 港前広場に、ざわめきが戻ってきていた。

 偽貨幣騒動が沈静化したのは、つい数日前。加賀谷とレオン・グレイブがギルド幹部を集めて「感知端末」の構造と信頼性を説明したことで、市場の空気はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。

 ──それなのに、今朝からまた商人たちの口が騒がしい。

「端末の反応がおかしいって話だ」
「偽貨幣が、また市場に流れてるのかもしれねぇ」
「感知装置だって、言ってみりゃ魔導の玩具だろ?」

 市場の片隅で交わされるそんな声を、ミロは固く口を結んだまま聞いていた。

「……れいしゃちょー」

「……ああ。やるしかないな」

 加賀谷零は、ゆっくりと頷いた。

「ヴィー。検証用の端末、準備できるか?」

「はい……いま最終調整に入ってます……たぶん、大丈夫です……!」

 肩に乗った動物型の魔導端末──〈ヴィー〉が「キュッ」と鳴いた。

 偽札への懸念を払拭するためには、“目に見える証明”が必要だ。
 だからこそ、加賀谷は一つの賭けに出る。

「公開鑑定をやる。ここで、白黒はっきりつけよう」




 * * *




 港前広場の中央、即席の台座が組まれ、十数人の幹部商人と観衆がその周囲に詰めかけていた。

 台座に置かれた筒形の端末が、青白い光を淡く放っている。
 ミロは震える指先を押さえつけ、装置の前に立った。
 広場に面した旧議事堂の一角。午前の鐘が鳴り終えるころには、既に多くの人々が会場を埋めていた。
 商人たち、取引所の代表、通貨監査官、そしてギルド幹部たち。誰もが沈黙のまま、壇上の様子を見守っている。

 壇上に並んでいたのは、加賀谷とミロ。
 その手には、ひとつの装置が握られていた。
 ――偽札感知端末。見た目は、懐中時計のようなサイズの魔道具。呼び出しボタンにも似た簡素な形だが、構造の複雑さは比類ない。

「この装置は、半径一メートル以内に“真正なルーメ貨”と異なる波長の通貨を感知すると、自動で反応を示します」
 加賀谷の説明に、人々がどよめいた。
「……いわば“貨幣の指紋”を読み取る魔導感知です。しかも、この指紋――通貨の内部構造――は、単一ではありません。貨幣ごとに、発行時にランダムで刻まれる“認証符”が存在する」

 彼が小さくうなずくと、ミロが手にした装置のスイッチを押す。
 机の上には、本物と偽札がそれぞれ数枚ずつ並べられている。

 加賀谷がまず一枚目を手に取ると――
 ピクリとも反応しない。

「これは本物です」

 次に別の銀貨を置く。
 刹那。

 ――ピィイイイイイ……!

 澄んだ警告音が鳴り響く。会場に一瞬の静寂が走った。

「偽札です」

 もう一枚。本物。沈黙。
 またもう一枚。偽札。警告音。
 交互に、機械のような正確さで端末は反応し、人々はその精度に徐々に息を呑んでいった。

「では、次の段階です」
 加賀谷が声を張る。
「この端末を、主要な取引所および商店に順次配備していきます。すでに複製の手配も進んでいます。問題は“数”でしたが――」

「わ、わたしの魔道記録端末、《ヴィー》が、その記憶をもとに複製配布用のコアを再構成してくれました……た、多分、たぶん……ほぼ……大丈夫ですぅ……」
 ミロが小声で補足しながらも、端末を懐から取り出して掲げた。

 小動物のような魔導体が、ちょこんと加賀谷の肩に乗り、可愛らしく鳴く。
 それが、信用を支える要のシステムだった。

 その場にいた者の多くが、納得とともに拍手の波を送り始めたそのとき――

「待てぇい!!」

 怒号が会場を割った。
 声の主は、ギルド幹部カッセル・グリマードだった。

 派手な衣装の裾を揺らしながら、彼は壇上に歩み寄る。
 眉をつり上げ、見下ろすように加賀谷を睨んだ。

「この端末が“絶対”だと、どうして言い切れる!? 逆に、お前らが仕込んだ魔導で、本物を偽物に見せかけてる可能性はないのか!?」

 商人たちの一部がどよめく。
 動揺の芽が、会場を一瞬撫でる。

 加賀谷は、ほんの一拍だけ沈黙した。
 だが、次の瞬間には――

「おっしゃる通りです、カッセル殿。公開でなければ意味がありません」
 そう言って、加賀谷は端末と貨幣の“実証”を求めて数人の立会人を呼び寄せた。

 監査官、公会の筆頭事務官、さらには帝国からの中立派監視員までもが呼ばれ、その場で再度の“公開鑑定”が始まる。

 ――全てが、真実だった。

 機械的に、本物は沈黙し、偽物は鳴り響いた。

「これ以上、偽札が流通するなどとおっしゃるならば、先に申し上げましょう」
 加賀谷が一歩踏み出す。

「もう流通しません。なぜなら、その根を絶ったからです」

 彼が手を振ると、周囲から数名の衛兵が進み出る。
 ひとりが布に包まれた荷を運び出し、その包みを開いた。

 中に入っていたのは――
 偽札と同じ素材で作られた“鋳型”、それに“記録紙”。
 鋳型の縁には、特有の“欠け”があった。

「これは、押収した鋳型と、作成記録です。どの偽札が、どの鋳型で作られたか――ここにある欠けで、すべて照合可能です」
 彼は一枚の銀貨を持ち上げ、欠けに重ねる。ピタリと一致した。

 そして、加賀谷が静かに言った。

「この偽貨幣の出どころ、そして鋳型の由来――すべてが示す先は、ひとつしかありません」

 彼はゆっくりと視線を向ける。

「……カッセル・グリマード。貴殿の名前です」

 会場が、震えた。

 カッセルは一歩、後退する。

「ば、馬鹿な……これは……仕組まれた罠だ! 貴様らが……!」

「罠など必要ありません。証拠が、全てを語っています」

 加賀谷の目は冷静だった。
 衛兵たちが動き、カッセルの身柄を拘束する。

「私は、この都市の信用を、命を懸けて守るつもりです。どんな手でも使う。その覚悟がなければ、この都市を任される資格はない」
 加賀谷は静かに宣言した。

 その言葉は、雷鳴のように響いた。



 * * *



 しかし、拘束されながらもカッセル・グリマードは笑った。唇を震わせることなく、目だけが静かに笑っていた。

「……見事だよ、カガヤ殿。証拠を揃え、場も整え、あまつさえ俺の“言質”まで引き出した。完璧だ」

 周囲の衛兵が警戒を強める中、カッセルはなおも飄々と続けた。

「だが――勝負はまだ終わっちゃいない」

 その瞬間、広場の外縁、物陰から数人の黒装束の男たちが飛び出した。
 光を反射しない短剣、無音の足運び。明らかに民間の傭兵とは異なる動き。──暗殺者だ。

 その標的は、中心に立つミロ。
 会場にいた人々がざわめき、衛兵が一斉に動こうとした、その刹那──。

「……すでに“対処”済みだ」

 加賀谷の声は低かったが、確信に満ちていた。
 その言葉と同時に、屋根の上、そして背後の路地から風が駆け抜けた。

 ドン、と何かが倒れる音。
 立っていたはずの刺客が、一人、また一人と崩れるように地に伏していく。

 剣を抜く間すらなかった。
 抵抗も叫びもなかった。

 そして最後に、静かに姿を現したのは──風をまとうような漆黒の影。

「……始末完了。反撃の芽、すでに摘み取りました」

 それは、ヴァルドの右腕。
 “武”を誇る者、ランカ・バルザの声だった。

 その登場に、加賀谷もわずかに目を細めるが、驚きはなかった。
 すべては、想定通り。
 ――いや、もしかすると彼の予測以上に、ヴァルドが先を読んでいたというべきか。

 カッセルの顔が初めて強張る。

「……っ、馬鹿な……! あの連中は帝国──いや、外からの──!」

「それ以上は言わない方がいい。墓穴を掘るぞ」

 加賀谷が淡々と遮る。

「あなたの負けだ、カッセル。公開の場で証拠を突きつけられ、策も潰された。あとは法に従って裁きを受けてもらう」

 そして静かに一言、付け加える。

「……それが、“商人”という職の末路でないことを、私は願っている」

 その言葉に、カッセルは何も返せなかった。

 ──静寂が、広場を包んだ。







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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