赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第四部:帝国との第二戦

第六節:追撃と啖呵

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 交易広場には、ようやく穏やかな空気が戻っていた。
 感知装置の青い灯が、石畳にさざ波のような光を落とす。行商人たちは慎重に足を運び、民衆はそれを眺めながら、小さくも確かな安堵を取り戻しつつある。

 

 ミロ・クレインは工房の窓辺に立ち、外を見下ろしていた。

 「……やっと、ですね」

 彼女の手の中では、試作段階の新端末が静かに灯っている。
 その声に、背後から加賀谷零が応じた。

 「君がいたから間に合った。あの騒ぎで信用を失っていたら、都市の根っこごと腐っていた」

 ミロは恥ずかしげに頷き、小さく「はい……」とだけ返す。

 だが加賀谷はすでに視線を窓の外へ向けていた。

 馬車が一台、自由都市の南門へと向かっている。帝国からの使者──今回の騒動を“末端の過ち”と総括し、無傷で帰還するつもりだ。

 

 「……ランカ」

 その名を呼ぶと、入り口の影からひとりの男が現れた。
 黒衣に身を包み、髪を後ろで束ねた、鋭い眼の男──ランカ・バルザ。

 「さっき南門を抜けた。使者だな?」

 「ああ。……背中を見送るだけじゃ、収まらない」

 「追うか?」

 「一言だけ言っておく」

 加賀谷は短く告げ、コートを羽織った。

 

***



 帝国使者の馬車が、静かに城門へと進もうとした、その前に。

 黒馬の蹄が一つ、地を鳴らした。
 加賀谷零が、道をふさぐように立っていた。
 その背後には、長身の男──ランカ・バルザ。

 帝国使者は片眉をわずかに上げ、ため息のように言った。

 「……道を、開けてくれますかな、大公殿」

 加賀谷は応じず、じっとその顔を見つめた。
 目に宿るのは静かな怒気と、確かな意志。

 「今回の件について、貴国の見解を伺いたい」

 使者は馬車からゆっくりと降りると、形式ばかりの礼を取った。

 「ご存じかと思いますが、既に帝国の内では調査が済んでおります。
 本件はあくまで、商務局末端の独断による暴走──陛下のご意思ではありません」

 加賀谷は静かに聞いていた。

 「帝国は当該部局への粛清を進めており、必要であれば制裁も行う構えです」

 そこで一拍、声を落とす。

 「これにて矛をお収めいただければ……我らとしても、恩義に感じるところです」

 加賀谷は、手綱をわずかに引き締めた。

 「──想定の範囲内だ。だが、それで済ませられると思っているのなら、大間違いだ」

 使者の眉がわずかに動いた。

 「“末端の判断”なら筋は通る。だがな、その末端が、
 偽造貨幣を流し、他国の制度をかき乱し、基軸通貨の信用を自ら壊したんだ」

 「帝国は大国です。いずれ、こうした歪みも──」

 「“正す”のが誰かによる」

 加賀谷は一歩、馬を前へ進める。

 「信用はな、制度じゃない。“誰がやるか”で決まる。
 次も“末端の仕業”と言うつもりなら、世界はお前たちを信用しない」

 使者は無言のまま、その目だけをわずかに細めた。

 「もし次があれば、南も北も帝国との取引を控えるだろう。
 “巨大な国家”が“孤立”する構図だ。……そのとき、お前たちにいくらの値がつくか」

 加賀谷は皮肉げに、馬上から視線を落とす。

 「──そのときはこちらでオークションでも開こうか。買い手がいれば、の話だがな」

 沈黙。

 空気の温度がわずかに下がる中、使者はほんの一瞬だけ、口元を引きつらせ、黙って馬車へ戻った。

 

***

 

 空が白み始めていた。
 まだ冷えの残る早朝の空気の中、加賀谷の隣にランカの馬が並ぶ。

 「よく言ったじゃねぇか、旦那。胸のすく啖呵だったぜ」

 「……火種が消えたとは思ってない」

 「そりゃそうだ。けどな、“簡単にはいかねぇ”って思わせるだけで十分だ。今のあいつらにゃ、それだけで効く」

 「帝国が、こっちを“まだ戦える相手”だと錯覚してるうちに……打てる手を打つだけだ」

 「囲い込むんだろ? 牙を抜くには、まず自分の爪を見せるってか」

 「ああ。 ブラフでいい。牙があると思わせとけば、それで十分だ」

 しばし、風が二人の間を吹き抜ける。

 「……正直な話、ああいうの、もう二度とやりたくねぇんだよ」

 加賀谷がぽつりとこぼした。

 「はは、らしくねぇな。お偉いさんのくせに、胃が痛くなるタチか?」

 「虚勢張って、駆け引きして、肝が冷えるのに笑ってるフリするのは……向いてないんだよ、俺は」

 そう言って、加賀谷は前を向いたまま、笑わなかった。

 東の空が白み、自由都市の石畳を朝日が照らし始めていた。







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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