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第五章:公女の戦い
第三節:“女王”との対面
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朝の光が、石造りの迎賓館を淡く照らしていた。
リィナは整えた装束の裾を払うと、深く息を吸い込んだ。
寝起きでぼさぼさのノア、眠そうにあくびをこらえるミロを横目に、きっぱりと言い切る。
「さて。今日は“公国の未来”を賭けた外交交渉です」
「……昨日、ぬいぐるみ買ってた人が言うと説得力ない」
「寝言で“ブラック国家の社食”って呟いてたミロに言われたくない!」
そんなやり取りを交わしながらも、三人の足取りは迷いなく、連邦庁舎へと向かっていた。
◆ ◆ ◆
――フィーネ総合庁舎、上層部。
中枢に位置する応接室は、整然とした空気に包まれていた。
そこに立つ一人の女。
漆黒の軍服をまとい、鋭く結い上げた黒髪と、冷ややかな灰色の瞳。
その人物こそ、レーナ連邦首相――イーリス・ラグラロア。
周囲から“連邦の女王”とまで称される女傑である。
「……来たわね。“公女”のお出ましだと聞いて、てっきりお飾りが来るかと思ったけれど」
イーリスが片眉をあげる。
「意外ね。ちゃんと自分の足で歩いてくるとは」
「リィナ・ミティアです。ミティア公国より、国交協議のため参りました」
リィナが淀みなく名乗り、軽く礼を取る。
続いて、少し控えた場所にミロとノアも頭を下げた。
「挨拶は形式的に済ませましょう。こちらも、外交儀礼にはさほど興味がないの」
イーリスは腕を組んだまま、リィナを値踏みするように見つめた。
その目には、女としての厳しさと、国家を背負う者としての眼差しがあった。
「で、“再建者”の代理として来たあなたが、我が国に何を求める?」
◆ ◆ ◆
「対等な関係です」
リィナの答えは、はっきりとしたものだった。
「交易でも、軍事でも、どちらが上でも下でもなく。
公国と連邦が、未来を共に歩む同盟国となることを望んでいます」
その言葉に、イーリスの表情が微かに変わった。
「……ふぅん。“同盟国”ね」
「レーナ連邦が保有する防衛兵器や、技術の一部。
それを、今後互いに共有できる枠組みを築ければと考えています」
「……ずいぶんと、正面から突っ込むのね。悪くない」
イーリスが椅子に腰を下ろすと同時に、背後の官吏たちが静かに控える。
「こちらも情報は得ている。あなた方の“自由都市”構想、通貨統一、ギルド銀行、そして……帝国への対抗姿勢」
「隠しているつもりはありません」
リィナが小さく笑う。
「この国が、帝国の拡張主義の矛先になりうる可能性も承知しています。
だからこそ、公国と連邦が“点”ではなく、“線”として結ばれるべきだと考えています」
その瞬間――イーリスの口元が、かすかに吊り上がった。
「……いい目をしているわ。飾りじゃない。“牙”を持つ公女か」
「“公国の飾り”で終わるつもりはありませんので」
しばしの沈黙のあと。
イーリスは、背後にいた一人の側近に目配せした。
「準備を。今宵、夜会を開くわ。外交官だけじゃない。
フィーネ中枢の連中を揃えて“本気”の交渉を始める」
「……歓迎の儀式ではなく?」
「歓迎ならもう済んでいるわ。挨拶で帰られたら、むしろ困る。
……あなたには、“連邦の本気”を知ってもらう必要がある」
そう告げて、イーリスは立ち上がった。
「夜までに、しっかり準備しておくことね、公女殿」
◆ ◆ ◆
謁見を終え、廊下を歩くリィナはうつむいた。
「あとで胃薬、買っておきますね……」
ミロが心底から労るように言った。
夕暮れの街に、少女たちの足音が響いていく。
◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
更新の励みになりますので、
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
リィナは整えた装束の裾を払うと、深く息を吸い込んだ。
寝起きでぼさぼさのノア、眠そうにあくびをこらえるミロを横目に、きっぱりと言い切る。
「さて。今日は“公国の未来”を賭けた外交交渉です」
「……昨日、ぬいぐるみ買ってた人が言うと説得力ない」
「寝言で“ブラック国家の社食”って呟いてたミロに言われたくない!」
そんなやり取りを交わしながらも、三人の足取りは迷いなく、連邦庁舎へと向かっていた。
◆ ◆ ◆
――フィーネ総合庁舎、上層部。
中枢に位置する応接室は、整然とした空気に包まれていた。
そこに立つ一人の女。
漆黒の軍服をまとい、鋭く結い上げた黒髪と、冷ややかな灰色の瞳。
その人物こそ、レーナ連邦首相――イーリス・ラグラロア。
周囲から“連邦の女王”とまで称される女傑である。
「……来たわね。“公女”のお出ましだと聞いて、てっきりお飾りが来るかと思ったけれど」
イーリスが片眉をあげる。
「意外ね。ちゃんと自分の足で歩いてくるとは」
「リィナ・ミティアです。ミティア公国より、国交協議のため参りました」
リィナが淀みなく名乗り、軽く礼を取る。
続いて、少し控えた場所にミロとノアも頭を下げた。
「挨拶は形式的に済ませましょう。こちらも、外交儀礼にはさほど興味がないの」
イーリスは腕を組んだまま、リィナを値踏みするように見つめた。
その目には、女としての厳しさと、国家を背負う者としての眼差しがあった。
「で、“再建者”の代理として来たあなたが、我が国に何を求める?」
◆ ◆ ◆
「対等な関係です」
リィナの答えは、はっきりとしたものだった。
「交易でも、軍事でも、どちらが上でも下でもなく。
公国と連邦が、未来を共に歩む同盟国となることを望んでいます」
その言葉に、イーリスの表情が微かに変わった。
「……ふぅん。“同盟国”ね」
「レーナ連邦が保有する防衛兵器や、技術の一部。
それを、今後互いに共有できる枠組みを築ければと考えています」
「……ずいぶんと、正面から突っ込むのね。悪くない」
イーリスが椅子に腰を下ろすと同時に、背後の官吏たちが静かに控える。
「こちらも情報は得ている。あなた方の“自由都市”構想、通貨統一、ギルド銀行、そして……帝国への対抗姿勢」
「隠しているつもりはありません」
リィナが小さく笑う。
「この国が、帝国の拡張主義の矛先になりうる可能性も承知しています。
だからこそ、公国と連邦が“点”ではなく、“線”として結ばれるべきだと考えています」
その瞬間――イーリスの口元が、かすかに吊り上がった。
「……いい目をしているわ。飾りじゃない。“牙”を持つ公女か」
「“公国の飾り”で終わるつもりはありませんので」
しばしの沈黙のあと。
イーリスは、背後にいた一人の側近に目配せした。
「準備を。今宵、夜会を開くわ。外交官だけじゃない。
フィーネ中枢の連中を揃えて“本気”の交渉を始める」
「……歓迎の儀式ではなく?」
「歓迎ならもう済んでいるわ。挨拶で帰られたら、むしろ困る。
……あなたには、“連邦の本気”を知ってもらう必要がある」
そう告げて、イーリスは立ち上がった。
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◆ ◆ ◆
謁見を終え、廊下を歩くリィナはうつむいた。
「あとで胃薬、買っておきますね……」
ミロが心底から労るように言った。
夕暮れの街に、少女たちの足音が響いていく。
◆あとがき◆
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