赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

25BCHI

文字の大きさ
39 / 76
第五章:公女の戦い

第二節:南境の街と、少女たちの時間

しおりを挟む
 空の青さが、ひときわ澄んでいた。

 連邦南部、国境都市フィーネ。
 その街並みは、公国のものとはまるで異なる空気をまとっていた。

 「……これが、女の国の“玄関口”か」

 馬上で呟いたのはノアだった。
 石畳の整った街路、無駄のない建築。そして通りすがる人々の多くが、女性だった。
 だが、ただ女が多いというだけではなかった。

 歩調の揃った衛兵。統制の取れた交通。
 そのどれもが、きびきびとして、筋が通っている。

 「美しさと、強さが同居している街ですね……」
 ミロがぽつりと口にする。

 先頭を歩いていた案内役の女性騎士が、ちらりとこちらを振り返った。

 「ようこそ、レーナ連邦へ。
 皆さまを、フィーネ総合庁舎上階の迎賓館へご案内いたします」

 リィナが軽く頭を下げ、隊列はそのまま街へと入っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

 市内の迎賓館に到着し、身を清めたあと、正式な謁見は「明朝」と伝えられた。

 式典も、交渉も、すべては翌日――。

 「せっかくだし、少し街を歩いてみない?」

 そう言い出したのはリィナだった。

 「公女さまが、外を歩きたいなんて……」
 ミロが驚いたように声を漏らす。

 「……災害の前兆?」
 ノアがさらりと毒を吐く。

 「人の善意をなんだと思ってるのよ!」

 けれど、張り詰めた気を緩めるには、街の風を感じるのが一番いい。

 リィナは、そう言い訳しながら、ふたりを引き連れてフィーネの石畳を歩き出した。

 

◆ ◆ ◆

 

 「なんというか……全体的に、背筋が伸びる街だわ」
 リィナが通りを見渡しながら感想をこぼす。

 露店の並ぶ市場も、人の波も、公国とは違う。

 女性が中心に働く国というだけあって、仕立屋や商家の主はほとんどが女。
 兵士も騎士も堂々と歩き、男の姿はむしろ目立つほどに少なかった。

 「男嫌いの国、とは聞いていましたが……」
 「“男を甘やかさない国”って言った方が正しいかも」
 ノアの観察が冷静すぎて、思わずミロが笑った。

 魔導商会が並ぶ通りに差しかかると、ミロの目が一気に輝いた。

 「レーナ式魔導炉……! これ、魔力安定機構が四層になってる……」
 「こら、勝手に触らない!」
 リィナが慌ててミロの手を引いた。

 一方、ノアはなぜか兵器店の前で立ち止まり、現地式の短剣を手に取りながらしげしげと眺めている。

 「これ、折りたたみ式……携行と実戦、両立してる」

 「……買うの?」
 「研究用」
 「……誰の?」

 

◆ ◆ ◆

 

 結局、3人は宿に戻る頃にはそれぞれ荷物が増えていた。

 魔導炉の構造図、民族刺繍の髪飾り、携帯兵糧(美味だった)、そしてミロが抱えた謎のマスコット人形。

 「……誰が見ても“視察団”じゃない」
 ノアがぼそりと呟く。

 「文化的交流よ。心の通い合い」
 リィナが胸を張る。

 「……明日、全部帳消しになるんですけど」
 ミロが溜め息をつきながら言った。

 そう。明日は、“連邦の女王”と呼ばれる首相――イーリス・ラグラロアとの謁見が待っている。

 観光気分で来たつもりはない。
 この訪問は、歴史に名を刻む交渉の第一歩だ。

 

◆ ◆ ◆

 

 宿の部屋で荷を解き、ひと息ついた後。

 「明日に備えて、ちゃんと早く寝ましょう」
 リィナが宣言すると、ミロが小さく手を挙げた。

 「……夜のお風呂、混浴らしいですけど」
 「なにそれ無理!!!」
 リィナの絶叫が、宿の廊下に響いた。







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
更新の励みになりますので、
いいね&お気に入り登録していただけると本当にうれしいです!

今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

処理中です...