赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第五章:公女の戦い

第一節:公女の決意と出立

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――公都・政庁 執務室
 翌朝、加賀谷の執務室に届けられたのは、ヴァルドからの密書だった。

 そこに記されていたのは、南方に位置する連邦国家――レーナ連邦の名。

 「連邦、ね。王国じゃないあたり、思想もかなり独立的だな」

 手紙を読みながら加賀谷は、ライズからの報告にも耳を傾ける。

 「はい。複数の女性主導の自治国家から成る連邦体で、連邦首相はイーリス・ラグラロア。周囲では“連邦の女王”と渾名されていますが、あくまで実務は首相職です」

 「女王と呼ばれても納得するくらい、存在感があるわけか」

 「男嫌いというわけではなく、“男の支配に依存しない”価値観の社会構造です。現地で男が高位に立つことは極めて稀で、交渉にも適した人物の派遣が必要と判断しました」

 加賀谷が視線を落とすと、隣に立つリィナが静かに一歩踏み出す。

 「私が行きます」

 その言葉に、場の空気がわずかに張り詰めた。

 「……リィナが?」

 「加賀谷様が動けば、帝国が自由都市への干渉を強める危険が高まります。けれど私なら、外交使節団として公女の肩書きを利用できる。あの連邦の構造なら、逆に女性の方が交渉の場に適しています」

 それは、口先だけの論理ではなかった。

 加賀谷の不在時、政庁で膨大な業務をさばき、各勢力とのバランスを取りながら国家を支えたリィナが、その経験をもとに下した実務的判断だった。

 「それに……女だけで連邦を築いてるなんて、正直、興味あるの」

 小さく笑ったその表情に、かつての“お姫様”はもういなかった。

――出発の朝
 馬車の準備が整う中、リィナの後ろには近衛騎士団、そしてノアの姿がある。

 「ノア。本当に、来てくれるのね」

 「来るなと言われても従いません。任務です。私は使える兵器として随行します」

 「だからもうちょっと人間らしい言い方しなさいって……」

 ミロが遠くから控えめに口を挟んだが、ノアはまったく意に介さない。

 「では、出発前に最終確認を。補給ルートはすべて迂回経路を採用。随行の文書管理はミロ、あんたに任せた」

 「えっ、わっ、わたし!? い、いやでも、行かないですし、できれば触れたくないですし……胃薬……」

 「しっかりやれ。現地での混乱を防ぐにはお前の端末が要る」

 加賀谷が一言だけ言うと、ミロは抵抗を諦めて俯いた。

 リィナは馬に乗り、振り返る。

 「──では、行ってまいります。……あっ」

 ふと思い出したように馬を止めた。

 「そうそう。戻るまでにちゃんと寝て、ちゃんと食べて、……休みも取ってくださいね? ブラック国家は本当に通報されますから」

 「寝かせる気ないのはお前だろ……」

 加賀谷が苦笑いしながら、背中を見送った。

――レーナ連邦・南部国境都市 フィーネ
 連邦の中でも、交易と外交の最前線にあたる国境都市フィーネ。

 その政府庁舎の上層部に、ひとりの人物が書類を広げていた。

 黒髪を鋭く結い、男顔負けの軍服を身にまとった女。
 名は――イーリス・ラグラロア。

 肩書きは「レーナ連邦首相」。
 けれど周囲からは、“連邦の女王”と恐れと敬意を込めて呼ばれている。

 「……ようやく来るのね。噂の“公国の再建者”が送る使者が」

 書類を閉じ、ひとつだけ呟く。

 「ただの“お姫様”なら、三言で見抜いて追い返す。だが――さて、どうかしらね?」







◆あとがき◆
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