赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

25BCHI

文字の大きさ
60 / 76
第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第十三節:可能性への賛同

しおりを挟む
「次のステップに進もう。──PMI、つまり、仮説ベースでの事業統合と価値化設計。君たち三人には、投資の“その先”まで考えてもらう」

----三人の発表が終わった。

 静かな室内に、加賀谷はひとつ息をついてから立ち上がる。その場に居合わせたのは、三人のインターン生──ジル、ミュリル、レーネ。そして、彼の補佐を務める文官ら数名。誰もが注視するなか、彼は言った。

 ミュリルが口を開きかけたが、その直前、ジルが手を挙げた。

「ちょっと、先に言わせてくれ」

 その声に、ミュリルもぴたりと口を閉じる。ジルは唇を引き結び、レーネの方をまっすぐに見据えていた。

「俺、自分の案、正直やりたかった。じいさんたちのあの顔、思い出すとさ。だけど──たぶん、いま動かすべきなのは、レーネのやつだと思う」

 レーネが小さく目を見開いた。

 その隣で、ミュリルも頷いた。

「……ジルに同意。私のほうは、仮に動かすなら、それなりの資金と準備が要る。先に布地工房の事業を形にするほうが、総合的な成果に繋がると思う」

 加賀谷は、二人のその言葉を、黙って受け止めていた。視線をレーネに向けると、彼女は両手を膝に添えて立ち上がり、静かに頭を下げた。

「……ありがとう。でも、あなたたち、いいの?」

「誰が旗振るかなんて関係ねえって」

 ジルが笑いながら言うと、ミュリルも小さく微笑んだ。

「ただし、少しは私たちにも手伝わせて。レーネの案のなかにも、私の知見を活かせる領域はある」

 レーネはもう何も言わず、そっと手を握った。三人が、自然と輪のように並んだその様子に、加賀谷はふ、と目を細めた。

(やっぱり、こうなったか)

 ひとまず、加賀谷は頷いた。

「よし。じゃあ、レーネの提案を軸に、文官も交えてPMIを進める。ただし、ジルとミュリルの分野も、完全に切り離すわけじゃない。組織と人が必要なら、こっちで手配する。案だけ置いて去るなんてことは、させないさ」

 三人はほっと息をつくように顔を見合わせた。

「……それと、ひとつだけ覚えておいてほしい。今回選んだのは、あくまで“順番”だ。価値の序列でも、成果の大小でもない。未来の形は、必ず複数ある」

 加賀谷のその言葉に、三人はそれぞれ頷いた。



*******
 財務調査、法務の調整を経ていよいよインターン生起案の投資案件は投資会議に持ち込まれた。

 議場には、自由都市の老商人タルボ、若手のライネル、南部の保守派代表、そして名もなき中堅商人たちが揃っていた。

 全員、口は悪くないが“数字がすべて”の現実主義者たちだ。感情に訴えるだけでは通らない。かといって報告書の読み上げだけでも、響かない。

 壇上に立つのはレーネ。そして左右にはジルとミュリル。今日は加賀谷の補助は一切なし──これは三人の“初仕事”だ。

「ご列席の皆様、本日はお時間を頂き、ありがとうございます。私たちは、〈影織の里〉における繊維工房の事業再構築案を提案いたします」

 レーネの第一声は、緊張を隠さない誠実な響きだった。

「この工房では、魔素を織り込んだ“魔法布”の製造が続けられています。用途は防炎、防音、遮蔽、偽装など多岐にわたりますが、特筆すべきは軽量かつ柔軟性の高い点です。軍事用途、建材用途、物流用途といった複数の展開が見込まれます」

「──ほう。で、どれも“見込み”の話かね?」

 タルボが片眉を上げて口を挟んだ。レーネは頷き、返す。

「見込みではありません。すでに、南部のレーナ連邦軍より、遮蔽布としての試験発注が決定しています」

 場がざわつく。

「試験発注は二段階。第一段階は市街戦訓練用の偽装布一〇〇ロール。第二段階は、必要と認定された場合の追加供給──最大三〇〇ロール。これは実際に工房で製造され、今週中に納品予定です」

 ライネルが腕を組んだまま訊く。

「軍か。……で、供給できんのか? 例の村、たしか人手も高齢化も深刻だったはずだが」

 ここで、ジルが一歩前へ出る。

「問題はすでに把握済みです。供給の遅れと技術の継承、それぞれに対応策を設けました」

 彼は魔導板に簡易図を表示した。職人の年齢分布、日産量、外部支援のスキームまで整然と並んでいる。

「資本注入により人員を増員。これにより月産は従来の3.5倍に。あわせて、私たちは〈西街道繊維商会〉と提携し、事業承継と流通ルートの確保を並行で進めています」

「事業承継だと? 工房の連中が素直に首を縦に振るのかよ」

 南部の保守派があざ笑うように口を挟んだが──そこでミュリルが口を開く。

「ええ。ですが今回は、村の代表者から“条件付きで承諾”を得ています。条件は一つ──“外部の支配を受けないこと”。私たちは、協力関係を築きながらも、オーナーの経営権と工房の裁量は保持する契約を交わしました」

 再び議場にどよめきが走る。想像よりも具体的で、現実的だった。

 レーネが、最後の一押しを口にした。

「村の子どもたちにも“技術が使われる意味”を感じてもらえた。笑顔も、反応も、“残す理由”になると実感しました。……この布には、価値があります。私たちはそれを証明した。今ここで、次の工程に進むだけです」

 議場に静かなざわめきが広がる。

「──他に異議は?」

 しばしの沈黙ののち、老商人タルボが鼻を鳴らしながら手を上げた。

「ま、言うことなしだな。筋も通っとる。……通そうじゃねぇか」

 それを皮切りに、中堅商人たちの手が次々と挙がる。若手のライネルも、苦笑を交えて呟いた。

「はは……やられたわ。学生がここまで詰めてくるなんてな。……正直、なめてた」

 そして──過半数を超えた瞬間、議場正面の魔導灯が静かに緑に灯った。

 ──承認。

 控室に戻った三人は、まるで糸が切れたようにへたり込んだ。

 ジルは「こ、腰が……」と呻きながら椅子にもたれかかり、ミュリルは放心したまま天井を仰いでいる。そんな中、レーネはこっそり拳を握っていた。

「通った……本当に、通った……」

 扉が開く音に振り返ると、加賀谷が入ってきた。

 その顔に、笑みが浮かんでいる。──心から、嬉しそうな、誇らしそうな顔だ。

「すごかったな、お前ら。正直、あんな議場で、よくあそこまで通した……マジで見事だった」

 普段クールな彼が、率直にそう口にするのは珍しい。

「レーナ連邦との話も、リィナが繋いでくれたのは事実だけど──取引を成立させたのは、お前ら三人の手腕と説得力だ。俺じゃ無理だった。いや、本当にすごい」

 三人は顔を見合わせた。頬を赤く染めながらも、どこか誇らしげに。

「やるじゃん、わたしたち」

「……へへ、たまには褒められてもいいよな」

「なんか……ちょっと泣きそうかも」

 加賀谷はわざとらしく咳払いをして、姿勢を正す。

「さて──じゃあ、本格的にPMIだ。文官も投入して進める。ただし、ジルの研究も、ミュリルの企画も、ちゃんと組み込んでいくからな。それぞれの強みは、まだまだ必要になる」

 そして、彼は最後にこう付け加えた。

「今回の成果は、ただの“いい案”じゃない。“誰がやったか”で決まる仕事だった。お前たちがやったから、意味があった。……ありがとう。本当に、ありがとう」

 三人は、何も言わずにうなずいた。

 その目には、もう次の一歩を見据える光が宿っていた。



_______________
_______________
★あとがき
ここまで読んでくれて、ありがとうございました!

三人のインターンが、まさかの議会プレゼンまでやってのける回でした。
多少のゴタゴタや緊張はあったけど、最後にはしっかり結果を出してくれてました。

あと、レーナ連邦とレーネって名前ややこしくてすみません。。
次回は、それぞれの想いがどう実るのか──少しずつ“責任ある大人”に近づいていく過程を描ければと思ってます。

それでは、また次の節で!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

処理中です...