赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

閑話:祝勝会は、城じゃなくて?

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「さて、今日は祝勝会だ。三人とも、腹を空かせておいてくれよ」

 加賀谷の一言に、ジルとミュリルの目がぱっと輝いた。レーネも、控えめに微笑む。

「え、もしかして……城の大広間とか?」

「晩餐会! 金の皿で出るやつ!」

「いや、違う」

 加賀谷はあっさり否定した。

「今日は街の料理屋を予約してある」

「えっ」

「えっ」

「……えぇ?」

 三人の間に、微妙な沈黙が流れる。

「いや、文句は聞くな。俺だって、君たちの頑張りを称えたいさ。でも“大公として”じゃなく、“上司として”。背伸びせず、ただ一緒に飯を食いたい。そう思っただけだ」

 場所は、ヴェステラ旧市街。石畳を抜けた先にある古びた料理屋《ルーガ亭》。
 店構えは年季が入り、軒先の提灯も少し傾いていた。

「ここ……ほんとに“大公”が行くとこじゃないですよね……?」

「たまには、な」

 加賀谷が扉を開くと、肉と香草の湯気がふわりと鼻腔をくすぐる。

「いらっしゃいませ」

 出迎えたのは、意外な人物だった。

「……え?」

 加賀谷が固まった。

 白銀の髪に、清潔なエプロン姿。静かに佇むその少女は、どこか見覚えがあった。

「ノア……? なんでここに……?」

「……私も、驚いた」

 ノアは視線を外さずに言う。

「リィナ様に言われたんです。“今夜、自由都市の料理店の手伝いに行ってほしいって。とある国賓が来るから料理をお願いできないか”と」

「……あいつ、また勝手に……」

 苦笑をこぼす加賀谷の隣で、ジルとミュリルが興味津々に顔を寄せてくる。

「知り合いなんです?」

「……まあ、うん。いろいろあって、料理の腕は確かだ」

「ほう」

 ミュリルが頷き、ノアの手元に運ばれた皿を凝視する。

 やがて並んだのは、素朴ながらも香り高い料理たち──

 ロースト獣肉とホバ芋のグリル、スパイス豆の揚げ団子、骨付きスープ、薬草パン……。
 どれも地元食材を活かしたヴェステラならではの料理で、品数は控えめだが、ひとつひとつの味がしっかりしている。

「……うまっ」

「これ、ほんとに城より美味しくない?」

「四皿目だぞ、ミュリル……!」

「祝勝会だ、黙って食え」

 三人の箸が止まらない中、加賀谷は静かにノアに目を向けた。

「……ありがとうな、ノア。驚いたけど、嬉しいよ」

「私も……久しぶりに、カガヤの役に立てた気がする」

 その言葉に、加賀谷は少しだけまぶしそうな目で笑った。

 この料理、この時間、そしてこの顔ぶれ。

 それは、彼らにとって大仰な勲章よりも──ずっとあたたかくて、誇らしかった。



*****



 宴も半ばを過ぎた頃、入口の鈴が小さく鳴った。

「遅れてごめんなさい」

 現れたのは、いつもより少しだけ柔らかい表情のリィナだった。
 王宮の礼装ではなく、町娘のような外出着。だがその立ち姿には、やはり気品がにじんでいる。

「おお、公女殿下。まさかこんな庶民的な店にいらっしゃるとは」

 加賀谷がわざとらしく立ち上がり、椅子を引いてみせる。

「やめてちょうだい、そんなお姫様扱い。今日は一人の市民として来たの。……というか、あなたたち、食べすぎじゃない?」

「ノアさんの料理が美味しすぎるのが悪いんです」

 ミュリルが胸を張る。リィナはくすりと笑った。

「ほんと……カガヤが“祝勝会はヴェステラで”って言い出した時はどうなることかと思ったけど、これなら正解ね」

「いや、結局は公女も侍女もいて城の中と変わらなくないか」

 加賀谷が小声でぼやくと、リィナはいたずらっぽく片目をつぶった。

「……参ったな、ほんと」

 加賀谷が頭をかくと、リィナは笑みを浮かべたまま、卓上の器に軽くグラスを注いだ。

「皆さん、本当にお疲れさまでした。短い期間だったけれど、君たち三人が成し遂げたことは、間違いなくこの都市の礎になる」

 ジル、ミュリル、レーネ──三人の視線が自然と重なる。

 そしてリィナが、グラスを軽く掲げた。

「この街と、未来に」

「「「乾杯」」」

 乾いた音が重なり、ほんの一瞬、店の空気が静まった。
 だがすぐに、笑い声と箸の音が戻ってくる。

 この街には、まだ課題が山ほどある。
 でも今夜だけは、前を向いて歩いていける気がした。

 ──新しい季節の、始まりだった。





__________
__________
【あとがき】
というわけで、今回はちょっと一息──祝勝会の回でした!

三人のインターンたちが全力で走り抜けたあとの“ささやかな乾杯”。
舞台は王城の晩餐……ではなく、ヴェステラのちょっと庶民的な料理屋さん。
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