赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第十六節:交渉に”ハッタリ”は付き物

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 翌朝、まだ陽が高くなる前の時間帯。

 ジルと加賀谷は、街の中心部へ向かっていた。だがその少し後ろには──片手をポケットに突っ込みながら、ひょこひょこと軽い足取りでついてくる男の姿がある。

「ねえ、あの……本当に大丈夫なんですか?」

 ジルが不安そうに振り返ると、レオン・グレイブは口元だけで笑った。

「心配すんなって。あいつら、俺の顔は忘れてないさ」

「そりゃ、忘れようにも忘れられなさそうですけど……」

 加賀谷は小さくため息をつきながら言った。

「まさか、昔借金を踏み倒したんじゃないだろうな?」

「逆。踏み倒されそうになってたのを、取り返してやったんだよ。しかも、自分の損になるってわかっててな」

「……?」

 ジルの眉がひそめられる。

 レオンは少しだけ視線を空にやり、続けた。

「まだ俺が駆け出しだった頃、織物商の若い主人が、大口の取引で騙された。相手は信用ある商家で、周囲も“泣き寝入りしかない”って空気だったけど、俺は黙ってらんなくてね。後先考えずに動いた」

「それで?」

「ぶん殴って、帳簿ひっくり返して、不正の証拠もぎ取ってやった。で、最後に言ったのさ。“正しいことしたって損しかしねぇなら、それは世界が間違ってるんだよ”ってな」

 加賀谷がぽつりと呟いた。

「……本当に、変わらないな、お前は」

「そういうお前もな」

 そんな会話を交わすうちに、一行は織物商の屋敷の前にたどり着いた。

 ジルが深呼吸をして、扉を叩こうとしたそのとき──扉が先に内側から開いた。

「あんた……まさか、レオン・グレイブ?」

 現れたのは、年の頃三十を超えた店主。かつて“若き主人”と呼ばれていた男だ。

 レオンは軽く手を挙げた。

「よう。ちょっと頼みがある。こいつらの話、聞いてやってくれねえか?」

 ──その一言に、空気が変わった。

 織物商の主人は、一瞬だけ硬い表情を見せたが──やがて、ふっと緩める。

「……あんたの頼みなら、断れねぇな」


 ──────
 再び訪れた交渉の場。
 加賀谷とジルが持ちかけた、新流通網への参加案。織物商の主人は黙って耳を傾け、やがて低く漏らすように言った。

「……話は、よく分かった。でも、すまないが――やっぱり、この話は受けられない」

 ジルの肩が一瞬だけ落ちた。
 昨日と変わらない。言葉こそ穏やかだが、明らかに“断られている”。

 だが、加賀谷はその表情を見逃さなかった。
 相手の目は、どこか怯えている。──“納得していない”断り方だ。

「なあ、ひとつ訊いていいか」

 重々しく口を開いたのは、レオンだった。
 腰かけたまま、肘を机に乗せ、じっと相手を見据える。

「……お前ら、まだ“あのジジイ”の言いなりなのか?」

 織物商の顔がぴくりと引きつった。

「……あんた、何の話を――」

「とぼけんな。俺が十年前にブチ壊してやったあの談合組、まだ生きてるんだろ。陰で小商人の首根っこ押さえて、新しい流通の芽を潰してる」

 その言葉に、場の空気が凍った。

 レオンは立ち上がり、ゆっくりと屋敷の奥を見回した。

「“あいつ”の言葉に従ってる限り、お前らの子どもも孫も、自由にはなれねえ。──そろそろ、自分の足で立てよ」

 しん、と静まり返った応接室。

 レオンは懐から一枚の書状を取り出すと、卓上に置いた。

「……これは、レーナ連邦商会からの打診書。あんたの店の製品を“個別発注したい”って話だ。品質と柄が気に入ったらしくてな。俺が推薦した。信用は俺が取った」

 主人の目が見開かれる。

「……な、何だと?」

「だが、その条件がある。“自由都市圏との新しいルートで仕入れたい”ってさ。つまり、“お前が自分で選んだ流通”でなけりゃ、発注は取り下げるって言ってる」

 静かに、そして強く言い切る。

「昔のしがらみに縛られたままなら──チャンスは全部、若ぇ連中に持ってかれる。あんたの代で、全部終わる」

 織物商の指が、じり、と机を掴む。

 しばしの沈黙ののち──

「……あの時のお前は、ただのならず者だと思っていた。だが、いま目の前にいるのは……俺が“なれなかった何か”かもしれん」

 ゆっくりと、頭を下げた。

「……分かった。話を通そう。あんたの顔を立てる。そして、自分の手で動く。……これが、最後の勝負だと思ってな」

──織物商との交渉を終えて

「……助かったよ、レオン」

 加賀谷がつぶやく。 

「でさ、ひとつ聞いていいか。あの“レーネ連邦の書状”、いつ用意したんだよ」

「はは、んなもん、あるわけねーだろ」

 レオンはあっけらかんと笑った。

「あれはな、ちょっと前にレーネ連邦の港町で飲んだくれてたとき、港の役人とポーカーやって勝ち取った本物の封蝋──っぽいやつだ。中身は白紙」

 ジルが目を丸くする。

「でも、そんなの……詐欺じゃ……!」

「いやいや、ハッタリは商売の基本だぞ? ……もちろん、これからちゃんと“本物”にする。とりあえず旦那を動かせたんだ。これで道はできた。あとはそっちの仕事だろ?」

 ぐっとひとさし指でジルを差して、レオンは言った。

「俺は“言ったことを現実にする男”だ。だから貿易王なんて呼ばれてる。はったりで終わらせたら、ただの嘘つきだろ?」

 静かに、だが胸を打つ言葉だった。

 ジルは言葉も出せず、ただじっとレオンを見つめた。

(かっこいい……)

 思わず、心の中でつぶやく。

 加賀谷はそれを見て、小さく苦笑した。

「……お前、ジルに変な影響与えるなよ。あとで“レオンの弟子になります!”とか言い出しかねないぞ」

「はっ、むしろ歓迎だぜ。商売は血と骨で覚えるもんだ。知識じゃなくて、度胸で決まる。なあ、ニイちゃん言うな!」

 彼はまだ気づいていなかった。この“貿易王”との出会いが、自分の人生の進路をほんの少し変えはじめていることに──。

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