赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第十七節:嵐の前のしずけさ

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 朝から動き通しだった交渉と調整がすべて終わり、夕暮れどき──。

 加賀谷とジルは、フィルノの中心部にある簡素な宿に腰を落ち着けていた。部屋は清潔だが、どこか野暮ったい木の香りが染みついていて、加賀谷にはどこか懐かしく感じられた。

「ふーっ……やっと一息ですね」

 窓辺で軽く伸びをしたジルが、ふと横を見て加賀谷の顔を覗き込んだ。

「今日、助けてくれたレオンさんって……ほんとにすごい人だったんですね」

「ああ。腕も顔も口も立つし、根はズルいけど、筋は通す。あいつがいなきゃ今日の交渉は崩れてたかもな」

 加賀谷は苦笑混じりにそう答え、湯呑に口をつける。レオン・グレイブ──“貿易王”は、最後まで余裕たっぷりの笑みを浮かべながら彼らと別れていった。

「じゃあ、俺はここで失礼するよ。次は港町〈バサル〉に寄ってから西に抜けるつもりだ。……あんたらのやってること、上手くいくといいなっ!」

 レオンはそう言って、酒場の裏路地へと軽やかに姿を消した。

 

 ──夜。

 ジルが布団の中で寝息を立て始めたころ、加賀谷の元に一通の手紙が届いた。

 宿の主人が訝しげな顔で手渡してきたそれは、封蝋も送り主の名もない無記名の文だった。ただし、文面は明らかに加賀谷を名指していた。

『一人で来い。話がある。応じるなら、港路の先の水車小屋まで。』

※他言無用。同行者がいれば、すぐに引き返せ。

 ……なんとも直球な文面だ、と加賀谷は眉をしかめた。

 罠の可能性も考えたが、妙な予感があった。ここ数日の動きに、何者かが“興味”を持っていても不思議ではない。

 加賀谷はそっと上着を羽織り、宿を出た。ジルを起こすつもりはなかった。

 

 フィルノの夜道は静かだった。郊外の道を歩いていると、街灯もなく、空の星がむしろ明るく感じられるほどだ。

 やがて、水車小屋へ向かう山道の入り口に差しかかったときだった。

「……大公閣下、おひとりですか?」

 唐突に声をかけられた。

 木陰から現れたのは、全身を黒で固めた中年の男。無精ひげを整え、軍靴の音を響かせない歩き方は明らかに“素人”ではない。

「……誰だ?」

「名乗るほどの者ではありません。ただの、警備任務です。……ヴァルド様の命で、この町を見張っておりました」

 そう言って男は一礼し、加賀谷の隣を歩き出す。

「単独での深夜行動、正直、お止めしたいところではありますが……閣下が“周囲を巻き込まないよう威圧して黙らせた”とあれば、それ以上は申し上げられません。……どうか、万一の際は“戻ってきてからの報告”をお忘れなきよう」

「……了解。見張られてたとは思ってたが、そこまでとはな」

 男は黙って肩をすくめた。

 そのまま加賀谷は、一人で山道を登っていく。
 前方には、水の音と、わずかな明かりが見えた。

 

──つづく。
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