妖精を隷属した国の末路

小梅カリカリ

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ハーク国

国民の気持ち

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 妖精が魔法を使って3日目。穏やかな海で漁をすれば大漁の魚。街には花が溢れ木には美味しそうな果物の実がつき、畑は生き生きと瑞々しい野菜達が育っている。
 すっかり変わった島、妖精の力がもたらした変貌に国民達は魅了されていた。皆幸せそうな笑顔を浮かべて話している。

 嬉しそうな顔で話している中年男性。
「王様のお陰で、毎食お腹いっぱい食べられる。なんて幸せなんだどう、もう今日ご飯を食べられるかどうかなんて心配しなくても良いんだからな。」
 相槌を打ちながら少し涙ぐんで話す母親。
「そうよね、うちの子達も嬉しそう元気に走り回っているのよ。少し前まではお腹が空いて走る元気なんてなかったのに。」
 今まで漁らしい漁も出来なかった漁師。
「毎日漁に行ったら食事が余っちゃいそうだよな。次から一日おきにしようと思っているんだよ。これも妖精の力を手に入れた王様のお陰だな。」

 皆で話していると、1人不思議そうに質問をする若い男性がいた。
「妖精と契約できるだなんて知らなかったよ。どうして王様は契約で来たんだろうな。」
「さあねえ、そんな事どうでもいいじゃないか。こんなに良い暮らしに変わったんだから。」
「あの子小さかったけれど、たった一人の力でこんなに発展させる事が出来るんだろう。やっぱり妖精って凄いんだねえ。なんでもいう事を聞くって言ってたけれど、そんな事他の妖精達が許すのかね。」
「許したからできたんじゃないのか。あの妖精、何か罪を犯したんじゃないのかなあ。それで妖精国から外に出されて、何かのきっかけで王様が契約したとか。」
「ああ、それなら納得だね。そうでもなければ妖精が人間のいう事を聞く契約なんて出来るわけがない。」
「そんな妖精なら、遠慮なく国の発展の為に犠牲になって貰えるな。実はちょっと可哀想かもと思ったんだよ。一日中魔法を使って寝てないから目の下にはクマが出来て痩せ細ってきてるんだってさ。」
「ええ、大変じゃないか。死んだら島の魔法がきれちまうよ。」
「だから、ハンセナ夫妻が食事の面倒を見だしたんだってさ。まあ、睡眠はとれないが。妖精なんて長生きするんだから少しくらい眠らなくても平気だろ。」
 ハンセナ夫妻が妖精の世話をする事を聞いて、皆ほっと安心した表情になった。

 会話が途切れた時に、島の古株の老人が心配そうに口を開く。
「でもなあ、あの妖精が罪などおかしていなかったとしたら。
 俺達、自分達の為にあの妖精を犠牲にしているって事だよな。誰かを犠牲にして得る幸福なんて俺は嫌だなあ。それなら、移住してゼロから始めた方が良いと思うんだよ。ドロン国で漁師として雇ってもらえるって話だったし。」
 皆苦い顔になる。その時若い男が言い放った。
「やっと楽な暮らしが出来るようになったのにそれを捨てるだなんて嫌だな、気になるなら島を出れば良いんじゃないのか。」
 皆罪悪感があるのだろう、一斉に若い男の言葉に賛同している。
「そうか、じゃあ俺達は出て行くよ。みんな元気で。」
 いつの間に荷物を纏めていたのか、老夫婦が立ち上がるとさっさと船着き場に向かった。まさか本当にこの島で裕福になれる暮らしを捨てて出て行くとは思っていなかったのだろう。唖然としている皆の事には見向きもせずに歩いて行く老夫婦。

 そこに突然王が現れた。
「悪いんだけれど、妖精の事を知られている以上、島から出すわけにはいかないんだよ。」
 さわやかに微笑んでいる王。船着き場に立ち老夫婦と向かいあっていた。
「ロットさん。出て行くだなんて言わないで、この島で生涯幸せに暮らしてくれるよね。」
 ロット夫妻は厳しい顔つきで王を睨みつけている。
「嫌です、私達夫婦はこんな残酷な事を望んでいない。妖精にずっと力を使わせて自分達が裕福な暮らしをするだなんて。誰かの犠牲の上の幸福等いらない。人でなしにはなりたくないんだ。」
「それに王と王妃はこの前まで元気でした。あなたが殺したんじゃないんですか。いきなり御二人揃って亡くなるだなんておかしいわ。」
 
 王の顔色が変わったのを見て葬儀屋のジャンが飛び出した。
「2人とも彼らとは幼馴染だったからな。辛いのは分かるがそんな事を言ってはいけないよ。御二人とも急な発作だったと聞いている、仕方のない事だったんだ。」
 2人を宥めるよに肩を叩くジャン。
「ジャンの言うとおり、急な発作だったんだ。私も辛い気持ちでいっぱいなんだよ。
 両親の幼馴染だった2人だ、先程の発言は水に流そう。この島で短い生涯を幸せに過ごしてくれ、分かってくれるよね。」
「私が連れていきますよ。さあ、行こうか。」
 返事をしないロット夫妻の手を引いて、ジャンは急いでその場を離れていった。

 王はその場にいた皆を見渡すと困ったように笑う。
「妖精がいる事が洩れたら、この幸せは無くなってしまうというのに。せっかく私が妖精を隷属して国を発展させているというのにそれを台無しにするような人達には困ってしまうな。」
 皆愛想笑いを浮かべて頷いている。
「兄一家も妖精の事に関しては反対しているようだったし、彼らが島を出て行くような事があったらこの国はどうなってしまうんだろう。そんな事のないように見回りと見張りが必要だよな。皆もそう思うよね。」
 一斉に頷いた国民達を見ると、満足そうに笑みを浮かべて去っていった。

 島の若い男性が代表してトークの家を訪ねると、先程あった事を話した。
「そういうわけで、これから見回りと家の周辺に見張りを置こうと思います。念の為と言うか、そうしないと皆が納得しなそうですし。」
「分かった。ロット夫妻はどうしているんだ。」
「彼らはジャンさんに説得されて、島に残る事になりました。あの、前王と前王妃の死因は本当は・・・・・・。 」
「隠しても仕方がないだろうね。妖精の事を解放するように言って弟に殺されたんだよ。」
「ああ、やっぱり。王様達の事はお慕いしていましたが、こうなった以上は俺達は新しい王についていきます。この幸せな生活を一度体験してしまったら、昔のような苦労ばかりの生活には戻りたくないんです。たった1人の妖精よりも自分達の幸せの方が大事なんです。俺も皆も。」
「そうか、仕方がないよ。」
 申し訳なさそうな顔をすると、男性は去っていった。

 男性がいなくなるとバイオレット達がやってきた。
「困ったな、ここから島の外までどうやって船を運ぶか考えないといけないね。」
「そうですね、お義父さん。周囲の見張りの隙をついていくか、島の船を盗むかですね。」

 相談をしているとまた誰かがやってきた。今度はバイオレットと同年代の主婦友達のキャシーだ。
「あのね、島の皆で相談していたのよ。両親達の世代は反対しているんだけれど、私達はこれが一番良いんじゃないかと思って。
 王がバイオレットさんを好きな事は皆知っているじゃない。長年思い続けているし、やっぱり女性は思われている人と結婚するのが幸せだと思うのよ。
 今回、王様はこんな素晴らしい事をしたのよ。私達国民としては何か王様に喜んでもらえるような事をしないといけないんじゃないかと思ったの。
 バイオレットさん達は離婚して、バイオレットさんは王様と結婚するのが良いんじゃないかしら。」

 あまりにも酷い内容に一瞬言葉を失った3人。
「断るわ、私は女性が思われている人と結婚すれば幸せになるとは思ってないの。愛し合える相手と結婚する事が幸せへの一歩だと思っているわ。
 あなた達、自分達の罪悪感を減らすためにそんな事を言っているだけでしょ。心の底から軽蔑するわ。」
「そうだな、弟の為に捧げるというんなら君達やの君達の娘を捧げればいい。年頃になったら弟の妻になり飽きられたら捨てられる。君達は王に喜んでもらえるような事をしないといけないんだろう。
 弟に捨てられた女性達は島の男達と結婚すれば少子化にもならないし何も問題ないな。弟に伝えておくよ。」
 顔を真っ赤にして睨みつける女性を睨み返す3人。彼らの迫力にキャシーは顔を青ざめ黙って出て行った。キャシーが出て行くと3人とも真剣な顔をして脱出計画の相談を始めた。

 妖精は多量の魔力を出し続けて微熱が出ている。熱のせいか体が怠そうでとても辛そうだった。
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