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第1部 目指せゲームオーバー!
第11話 初めての武器屋(前編)
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遠くから見ても、リフレの故郷の村は、如何にも王道ファンタジーに出てきそうな雰囲気だった。
立ち並ぶ民家や店舗のデザインは、アニメやゲームで何度となく見たそれだ。
そして奥の方に、何やら大きな建物が見えた。
教会と城を足して2で割ったような、特徴的なビジュアルだ。
「リフレ、あの奥のデカい建物って何?」
「魔法学校です。魔法原理学とか魔法薬学とか、色々と勉強するんです」
魔法学校。魔法薬学。なんて素敵な響き。
オタク心をくすぐられていると、リフレは自分の服を軽くつまんで言った。
「この服、あそこの中等科の制服なんです。機能的には申し分ないので、そのまま使ってます」
「ということは、リフレは学生なのか。今は休学中ということか?」
ドルーオの質問に、リフレの顔が少し曇った。
「いえ……わたしは中等科1年で中退しました。ちょっと色々あって……」
少し間を置いて、そんな返事があった。
真面目そうなリフレが中1で中退とは、それなりのことがあったのかも知れない。
ドルーオもそれ以上訊くつもりはないらしく、「そうか」と一言だけ発した。
テンションが高い天の声も黙り、少し気まずい沈黙が流れる。
それをリフレが、ポンと手を叩いて断ち切った。
「そうだ。カイトさん丸腰ですし、質屋の後で武器屋に行きませんか? 知り合いの鍛冶師さんがいるんです」
◇
村に入って、オレ達はまず、視鷹サーヴェイの骨を質屋で換金した。
手に入れた路銀は7500金貨。
そう聞いた瞬間、リフレは目を丸くして腰を抜かした。
ずっと後になって分かったことだが──そしてあくまでオレの体感だが──この世界のお金を日本円に換算すると、銅貨1枚が50円、銀貨1枚が500円、金貨1枚が5000円となる。
つまりオレ達が入手した路銀は、日本円にして3750万円。とんでもない大金だ。
その後、リフレの案内で辿り着いたのは、村の端にある建物だった。
入口に掲げられた看板には【Carele Smith Shop】の文字。
店主の名前はケアレというらしい。
……いや、Carele'sじゃねぇのか……?
リフレに続いて、店のドアを潜る。
短く刈った白髪と顎ヒゲが印象的な、恰幅のいいオジサンが座っていた。
あれがこの武器屋の店主、ケアレ氏だろう。
「おぉ、リフレ。帰ってきたのか」
「お久しぶりです、ケアレさん。お元気そうで何よりです」
「お主も元気そうじゃな。武者修行はどうじゃった?」
「あはは……ちょっと大変なこともありましたけど、色々経験できて良かったです」
「そりゃあ良かった。……ところで、そこの3人は知り合いか?」
「この人たちのパーティーに入れてもらえることになったんです。カイトさんと天の声さんとドルーオさんです」
リフレに紹介され、オレは「ども」と軽く頭を下げた。
その隣で、天の声とドルーオも、ケアレに向けて挨拶した。
「こんにちはー」
「ドルーオと言う。さっそくで申し訳ないがご老人、武器を見せていただきたい」
元魔王とは思えないほど丁寧に挨拶だ。
コンビニでバイトしてたとき、すっげー当たりキツい客いたけど、この元魔王を見習ってほしい。
丁寧なドルーオに好感をもったのか、ケアレ氏は笑顔で腰を上げた。
「おぉ、すまんすまん。ほれ、こっちじゃ」
そう言って案内された部屋は、アニメやゲームで何度も見た武器屋そのものだった。
いくつもの武器が、所狭しと陳列されている。
数も多いが、剣に槍に斧、弓矢、魔法を補助する杖と多種多様だ。
「うわ……すっげぇ……」
「いっぱいだぁー」
語彙力をなくすオレと天の声の隣で、ドルーオも満足げな表情を浮かべていた。
「見事だ。種類もさることながら、1つ1つの仕上がりも素晴らしい」
元魔王がそこまで絶賛するということは、このオジサンは超一流の職人ということか。
そう思った矢先のことだった。
「……む?」
そんな声に振り向くと、ドルーオが怪訝そうに眉を寄せていた。
「どうした?」
「いや、ごく一部の武器にだけだが、欠陥が見受けられる。例えば……この大剣を見てみろ」
「んー……?」
パッと見た限りでは特に違和感はないが、よくよく他の剣と見比べてみると……
「……なんか、すげぇ微妙にだけど、革が緩い?」
「あぁ、なぜか柄の巻き革がわずかに緩い。最初はそこまで大きな影響はないだろうが、長期間に亘って酷使すれば解けてしまうかも知れない」
「えぇ……」
ドルーオの口ぶりからして、この大剣はあくまで一例。
素人目には分からないが、他にもごくわずかな欠陥をもった武器がわずかに混ざっているのだろう。
超のつく一流と思いきや、ごくたまに欠陥品が混じっている……どういうこっちゃ。
その答えは、リフレのフォローになっていないフォローによって明かされた。
「ケ、ケアレさんは本当に、凄腕の職人さんなんです。ただ、その……10回に1回くらい凡ミスしちゃうというだけで……」
「凡ミスショップじゃねぇか!!」
叫ばざるを得なかった。
(つづく)
立ち並ぶ民家や店舗のデザインは、アニメやゲームで何度となく見たそれだ。
そして奥の方に、何やら大きな建物が見えた。
教会と城を足して2で割ったような、特徴的なビジュアルだ。
「リフレ、あの奥のデカい建物って何?」
「魔法学校です。魔法原理学とか魔法薬学とか、色々と勉強するんです」
魔法学校。魔法薬学。なんて素敵な響き。
オタク心をくすぐられていると、リフレは自分の服を軽くつまんで言った。
「この服、あそこの中等科の制服なんです。機能的には申し分ないので、そのまま使ってます」
「ということは、リフレは学生なのか。今は休学中ということか?」
ドルーオの質問に、リフレの顔が少し曇った。
「いえ……わたしは中等科1年で中退しました。ちょっと色々あって……」
少し間を置いて、そんな返事があった。
真面目そうなリフレが中1で中退とは、それなりのことがあったのかも知れない。
ドルーオもそれ以上訊くつもりはないらしく、「そうか」と一言だけ発した。
テンションが高い天の声も黙り、少し気まずい沈黙が流れる。
それをリフレが、ポンと手を叩いて断ち切った。
「そうだ。カイトさん丸腰ですし、質屋の後で武器屋に行きませんか? 知り合いの鍛冶師さんがいるんです」
◇
村に入って、オレ達はまず、視鷹サーヴェイの骨を質屋で換金した。
手に入れた路銀は7500金貨。
そう聞いた瞬間、リフレは目を丸くして腰を抜かした。
ずっと後になって分かったことだが──そしてあくまでオレの体感だが──この世界のお金を日本円に換算すると、銅貨1枚が50円、銀貨1枚が500円、金貨1枚が5000円となる。
つまりオレ達が入手した路銀は、日本円にして3750万円。とんでもない大金だ。
その後、リフレの案内で辿り着いたのは、村の端にある建物だった。
入口に掲げられた看板には【Carele Smith Shop】の文字。
店主の名前はケアレというらしい。
……いや、Carele'sじゃねぇのか……?
リフレに続いて、店のドアを潜る。
短く刈った白髪と顎ヒゲが印象的な、恰幅のいいオジサンが座っていた。
あれがこの武器屋の店主、ケアレ氏だろう。
「おぉ、リフレ。帰ってきたのか」
「お久しぶりです、ケアレさん。お元気そうで何よりです」
「お主も元気そうじゃな。武者修行はどうじゃった?」
「あはは……ちょっと大変なこともありましたけど、色々経験できて良かったです」
「そりゃあ良かった。……ところで、そこの3人は知り合いか?」
「この人たちのパーティーに入れてもらえることになったんです。カイトさんと天の声さんとドルーオさんです」
リフレに紹介され、オレは「ども」と軽く頭を下げた。
その隣で、天の声とドルーオも、ケアレに向けて挨拶した。
「こんにちはー」
「ドルーオと言う。さっそくで申し訳ないがご老人、武器を見せていただきたい」
元魔王とは思えないほど丁寧に挨拶だ。
コンビニでバイトしてたとき、すっげー当たりキツい客いたけど、この元魔王を見習ってほしい。
丁寧なドルーオに好感をもったのか、ケアレ氏は笑顔で腰を上げた。
「おぉ、すまんすまん。ほれ、こっちじゃ」
そう言って案内された部屋は、アニメやゲームで何度も見た武器屋そのものだった。
いくつもの武器が、所狭しと陳列されている。
数も多いが、剣に槍に斧、弓矢、魔法を補助する杖と多種多様だ。
「うわ……すっげぇ……」
「いっぱいだぁー」
語彙力をなくすオレと天の声の隣で、ドルーオも満足げな表情を浮かべていた。
「見事だ。種類もさることながら、1つ1つの仕上がりも素晴らしい」
元魔王がそこまで絶賛するということは、このオジサンは超一流の職人ということか。
そう思った矢先のことだった。
「……む?」
そんな声に振り向くと、ドルーオが怪訝そうに眉を寄せていた。
「どうした?」
「いや、ごく一部の武器にだけだが、欠陥が見受けられる。例えば……この大剣を見てみろ」
「んー……?」
パッと見た限りでは特に違和感はないが、よくよく他の剣と見比べてみると……
「……なんか、すげぇ微妙にだけど、革が緩い?」
「あぁ、なぜか柄の巻き革がわずかに緩い。最初はそこまで大きな影響はないだろうが、長期間に亘って酷使すれば解けてしまうかも知れない」
「えぇ……」
ドルーオの口ぶりからして、この大剣はあくまで一例。
素人目には分からないが、他にもごくわずかな欠陥をもった武器がわずかに混ざっているのだろう。
超のつく一流と思いきや、ごくたまに欠陥品が混じっている……どういうこっちゃ。
その答えは、リフレのフォローになっていないフォローによって明かされた。
「ケ、ケアレさんは本当に、凄腕の職人さんなんです。ただ、その……10回に1回くらい凡ミスしちゃうというだけで……」
「凡ミスショップじゃねぇか!!」
叫ばざるを得なかった。
(つづく)
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