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第1部 目指せゲームオーバー!
第13話 いざ、魔道具デビュー
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「良かったのか、リフレ? もうちょっとゆっくりしてても良かったのに」
草原を歩きながらオレが言うと、天の声やドルーオも頷いた。
ケアレ氏の凡ミス武器屋で武器を購入した後、リフレは実家である酒場に立ち寄ったが、母親と数分話をすると、すぐにオレ達のところに戻ってきた。
その後はオレの防具と保存食、調味料や調理器具をいくつか買っただけだ。
ちなみに、オレが購入したのはオフホワイトのコートだ。籠手は右前腕にコートの上から装着している。
オレ達が心配していると、リフレがクスッと笑った。
「ありがとうございます。でも、あんまりゆっくりすると、それこそ名残惜しくなっちゃいますから」
顔に一抹の寂しさこそ宿ってはいるが、気丈に振る舞っているのではなく本心だろう。
「それよりカイトさん、軽く魔法使ってみたらどうですか? 素手とほとんど同じ感覚とは言え、手袋型も少しは感覚違うらしいですし」
「んー、練習かー……」
確かに練習はしておきたい──本当は初めての魔道具を早く使ってみたい──という気持ちはある。
「でも、練習なんて魔法ぶっ放す以外ないだろ? ただ空撃ちするってのも……」
「それなら、ちょうどおあつらえ向きの獲物がいるぞ」
ドルーオが指差す方向に、モンスターの群れがいた。
葉っぱ形の鱗に身を包んだ、2足歩行のトカゲ人間。
ファンタジーものの定番モンスター、竜人だ。
「草蜥蜴──蜥蜴の再生能力と植物の繁殖力が合わさって、高い生命力を誇る猛獣だね」
「簡単には倒れないが、だからこそサンドバッグにはうってつけだ」
「なんか残酷だな……」
無慈悲なダブル解説に思わず困惑しつつ、オレは右腕の籠手を見下ろした。
確か魔道具は、魔法の射程距離と狙いやすさを補助してくれるのだったか。
少し遠い気もするが、試しにこの場から撃つことにする。
そのとき、1体の草蜥蜴がこちらに気付いた。
直後、10体もの大群が一斉に駆け出してくる。
それを合図に、オレは右腕を突き出した。
鱗の形が葉っぱな上に、そもそも名前に草と入っているのだ。
相手の属性は間違いなく草だ。
これで草じゃなかったらキレる、ブットバス。
というわけで、オレは風属性上級魔法を発動させた。
白銀の手甲が、青緑色の輝きを放つ。
「《風撃・終》!!」
瞬間、籠手の発射口から、青緑のオーラを纏った風弾がいくつも飛び出した。
草蜥蜴の群れにぶつかるや、弾けて強烈な旋風を巻き起こす。
「うわ、すげ……」
思わず放心しかけるが、ドルーオが鋭く言葉を放った。
「まだだ、あの程度なら再生する。その前に追撃しろ」
「次は炎魔法を撃ってみるといいかもね」と天の声。
2人のアドバイスに頷いて、再び構える。
白銀の手甲に、今度は真紅の輝きを宿す。
発動するのは、炎属性上級魔法。
「《炎撃・終》!!」
ドドッという音と共に、大量の炎弾が草蜥蜴に殺到した。
先ほどの風弾が燃料代わりになったのか、予想を上回る勢いで爆炎が立ち昇る。
「うわ……コワ……」
自分で放った魔法ではあるが、あまりの威力に思わず引く。
炎の中で、トカゲたちの陰がボロボロと崩れていった。
どうやら倒せたらしい……
「もう少し待とう。完全に炭化させなければ、草蜥蜴は燃えた状態からでも再生する」
「は!?」
ホッとしたところでそんな言葉が飛んできた。
燃えてもまだ復活するトカゲと植物ってなんだ。
「中学で習った焼き畑農業的な感じか?」
「よく分かんないけど違うと思うよ」
ちなみに草蜥蜴を倒す最適解は、風魔法で刀身を覆った刀剣で、首か腹を切断することらしい。
さて、着火から1分は経った。さすがにもういいだろう。
草原で炎を放置するわけにはいかない。
籠手を青く光らせ、水属性上級魔法を放つ。
「《水撃・終》!!」
赤々と燃える炎めがけ、青いオーラを纏った水弾が飛ぶ。
直後、真っ白な湯気が立ち昇り、視界が一瞬で遮られた。
「むっ……」
「あっ、バカ……!」
「わっ、何も見えないです……!」
そんな3人の声はするが、姿は見えない。
こんな量の湯気が一気に出来上がるとは思わなかった。
うわ、マジで見えん。みんなどこ!?
腕を軽く振り回して、気休め程度に湯気を散らす。
──ぷにゅっ。
そんな感触が、オレの指先に走った。
近くに天の声やリフレ、つまり女子がいる状況で視界が遮られ、腕を振り回したら指先にぷにゅっ。
間違いない、これはラッキース●ベ! 2次元の中だけの現象だと思ってた、あの幻のラッキー●ケベだ!!
まさか、あの幻の現象が自分の身に起こるとは……!
天の声かリフレか分かんないけどすまん、不可抗力なんだ……!
定番の言い訳を脳内再生し、そこでオレは違和感を抱いた。
ラッキースケ●が発生したら、即座に美少女の悲鳴や制裁が飛んでくるのがテンプレだ。
しかし、悲鳴もビンタも未だに飛んでこない。
ようやく湯気が薄れ、オレの目にも隣に立つ人影がいくらかはっきり見えた。
伸ばしたままの腕の先にいたのは、1体の草蜥蜴だった。
お腹をプニプニされて怒ったのか、竜人はオレを睨み付けて噴気音を発した。
「フー……!」
「わ゛────っ!?」
色々とすっげー衝撃的だった。
(つづく)
草原を歩きながらオレが言うと、天の声やドルーオも頷いた。
ケアレ氏の凡ミス武器屋で武器を購入した後、リフレは実家である酒場に立ち寄ったが、母親と数分話をすると、すぐにオレ達のところに戻ってきた。
その後はオレの防具と保存食、調味料や調理器具をいくつか買っただけだ。
ちなみに、オレが購入したのはオフホワイトのコートだ。籠手は右前腕にコートの上から装着している。
オレ達が心配していると、リフレがクスッと笑った。
「ありがとうございます。でも、あんまりゆっくりすると、それこそ名残惜しくなっちゃいますから」
顔に一抹の寂しさこそ宿ってはいるが、気丈に振る舞っているのではなく本心だろう。
「それよりカイトさん、軽く魔法使ってみたらどうですか? 素手とほとんど同じ感覚とは言え、手袋型も少しは感覚違うらしいですし」
「んー、練習かー……」
確かに練習はしておきたい──本当は初めての魔道具を早く使ってみたい──という気持ちはある。
「でも、練習なんて魔法ぶっ放す以外ないだろ? ただ空撃ちするってのも……」
「それなら、ちょうどおあつらえ向きの獲物がいるぞ」
ドルーオが指差す方向に、モンスターの群れがいた。
葉っぱ形の鱗に身を包んだ、2足歩行のトカゲ人間。
ファンタジーものの定番モンスター、竜人だ。
「草蜥蜴──蜥蜴の再生能力と植物の繁殖力が合わさって、高い生命力を誇る猛獣だね」
「簡単には倒れないが、だからこそサンドバッグにはうってつけだ」
「なんか残酷だな……」
無慈悲なダブル解説に思わず困惑しつつ、オレは右腕の籠手を見下ろした。
確か魔道具は、魔法の射程距離と狙いやすさを補助してくれるのだったか。
少し遠い気もするが、試しにこの場から撃つことにする。
そのとき、1体の草蜥蜴がこちらに気付いた。
直後、10体もの大群が一斉に駆け出してくる。
それを合図に、オレは右腕を突き出した。
鱗の形が葉っぱな上に、そもそも名前に草と入っているのだ。
相手の属性は間違いなく草だ。
これで草じゃなかったらキレる、ブットバス。
というわけで、オレは風属性上級魔法を発動させた。
白銀の手甲が、青緑色の輝きを放つ。
「《風撃・終》!!」
瞬間、籠手の発射口から、青緑のオーラを纏った風弾がいくつも飛び出した。
草蜥蜴の群れにぶつかるや、弾けて強烈な旋風を巻き起こす。
「うわ、すげ……」
思わず放心しかけるが、ドルーオが鋭く言葉を放った。
「まだだ、あの程度なら再生する。その前に追撃しろ」
「次は炎魔法を撃ってみるといいかもね」と天の声。
2人のアドバイスに頷いて、再び構える。
白銀の手甲に、今度は真紅の輝きを宿す。
発動するのは、炎属性上級魔法。
「《炎撃・終》!!」
ドドッという音と共に、大量の炎弾が草蜥蜴に殺到した。
先ほどの風弾が燃料代わりになったのか、予想を上回る勢いで爆炎が立ち昇る。
「うわ……コワ……」
自分で放った魔法ではあるが、あまりの威力に思わず引く。
炎の中で、トカゲたちの陰がボロボロと崩れていった。
どうやら倒せたらしい……
「もう少し待とう。完全に炭化させなければ、草蜥蜴は燃えた状態からでも再生する」
「は!?」
ホッとしたところでそんな言葉が飛んできた。
燃えてもまだ復活するトカゲと植物ってなんだ。
「中学で習った焼き畑農業的な感じか?」
「よく分かんないけど違うと思うよ」
ちなみに草蜥蜴を倒す最適解は、風魔法で刀身を覆った刀剣で、首か腹を切断することらしい。
さて、着火から1分は経った。さすがにもういいだろう。
草原で炎を放置するわけにはいかない。
籠手を青く光らせ、水属性上級魔法を放つ。
「《水撃・終》!!」
赤々と燃える炎めがけ、青いオーラを纏った水弾が飛ぶ。
直後、真っ白な湯気が立ち昇り、視界が一瞬で遮られた。
「むっ……」
「あっ、バカ……!」
「わっ、何も見えないです……!」
そんな3人の声はするが、姿は見えない。
こんな量の湯気が一気に出来上がるとは思わなかった。
うわ、マジで見えん。みんなどこ!?
腕を軽く振り回して、気休め程度に湯気を散らす。
──ぷにゅっ。
そんな感触が、オレの指先に走った。
近くに天の声やリフレ、つまり女子がいる状況で視界が遮られ、腕を振り回したら指先にぷにゅっ。
間違いない、これはラッキース●ベ! 2次元の中だけの現象だと思ってた、あの幻のラッキー●ケベだ!!
まさか、あの幻の現象が自分の身に起こるとは……!
天の声かリフレか分かんないけどすまん、不可抗力なんだ……!
定番の言い訳を脳内再生し、そこでオレは違和感を抱いた。
ラッキースケ●が発生したら、即座に美少女の悲鳴や制裁が飛んでくるのがテンプレだ。
しかし、悲鳴もビンタも未だに飛んでこない。
ようやく湯気が薄れ、オレの目にも隣に立つ人影がいくらかはっきり見えた。
伸ばしたままの腕の先にいたのは、1体の草蜥蜴だった。
お腹をプニプニされて怒ったのか、竜人はオレを睨み付けて噴気音を発した。
「フー……!」
「わ゛────っ!?」
色々とすっげー衝撃的だった。
(つづく)
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